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チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 Op.64
D・バレンボイム(指)ウェスト・イースタン・ディヴァン管弦楽団    
第2楽章ホルン・ソロ: /
WARNER
2564-62190
(1CD+1DVD)
録音年:2004年8月6日 ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホール 【デジタル・ライヴ録音】
¥4410

演奏時間: 第1楽章 15:03 / 第2楽章 12:28 / 第3楽章 5:52 / 第4楽章 :11:36
・カップリング/ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲、シベリウス:悲しきワルツ
・ボーナスDVDの内容:CD演奏の映像版(シベリウス以外の全曲を収録)/リハーサル風景/バレンボイムとエドワード・サイードの対談
“バレンボイムの交響曲録音の最高傑作!”
DGに録音した「スラブ行進曲」などのチャイコフスキーの管弦楽曲集は、バレンボイムの指揮者としての最高ランクに属すると確信しているのですが、それと同じシカゴ響と録音したチャイ5は、ドライな録音も災いしてか、全くと言っていいほど音楽が湧き上がってこない悲惨なものでした。それだけに良好な条件で再録音してくれることを熱望していたのですが、これはその期待を遥かに上回る、いや、バレンボイムがかつて録音したどの交響曲録音をも上回ると言いたい感動作です!とにかく素晴らしいこと尽くめ!アマチュア・オケ、あるいはまだ「プロずれ」していないオケは、燃えると指揮者の要求の120%の力で音楽を放射することはよくありますが、これはまさにその典型です。バレンボイムも眠っていた意欲を彼等によって取り戻したのではないでしょうか。とにかくやる気満々であるのはもちろんのこと、それが空回りせず、共感を音楽に乗せきることに粉骨砕身の限りを尽くし、軽く流れている音などどこにも見当たりません。「チャイ5」という曲は、ドイツの王道ソナタ形式に沿ったガッチリした展開はあまり見せない曲ですが、まず驚いたのが、第1楽章の展開部!文字通り音楽をこの部分を山場として大きく熱く展開させており、両端の物憂げな雰囲気とこれほど好対照を築いた例は他に聴いた覚えがありません!その音という音は常に内面に向かって熟成しているので、説得力も破格。第2楽章では、副次主題をヴァイオリンで弾き始める箇所の美しい歌心にしびれます。音色のみならず、人の肉声のようなリアルなクレージングがバレンボイムの指揮で聴けるとは思いも寄りませんでした。静かな終結部に入る直前の唐突なフォルティシシモ(158小節)の衝撃力も、史上最強クラス。第3楽章がまた信じられません!冒頭から、随所に挿入されるポルタメントも含めて表情が濃厚で、それが嫌味に響かずセンス満点。いちいち心に突き刺すのです。入念な準備でこの演奏に臨んだことは終楽章の素晴らしさでも明らか。運命動機が行進曲風に登場する箇所の金管の咆哮の2度目(176小節)を最初よりも音量を上げる効果(テミルカーノフの来日公演なども同様)や、コーダの巧妙な設計には演出めいた嘘がなく、思わず身を乗り出し、はたまたのけ反り、聴き手を体ごと揺さぶらずにはおかない迫真の表現です。
これらの音楽的な表情が、オケの自発性から生まれただけでなく、バレンボイムが明確に指示した結果であることは、DVDでその指揮ぶりを見れば明らか。特に好んで採用されるスフォルツァンドの指示は煩いほど徹底して行なっています。バレンボイムの汗だくになりながらのせかせかした雰囲気のない指揮ぶりはここでも相変わらず。しかし冷房を入れていないせいなのか、団員全員が汗びっしょりで、男性団員のほとんどはシャツの第1ボタンンを外し、女性はファンデーションが浮きかけています。しかも演奏がこの熱さ。バレンボイムは終楽章コーダで感極まり、足の激しい屈伸も織り交ぜて暴れまくり。よく最後までスタミナを保持できたものです。なお、カップリングの「運命の力」もテンポ設定が独特で、ダイナミズム溢れる名演奏です。
ウエスト・イースタン・ディヴァン・オーケストラは、バレンボイムが文学者/教育者のエドワード・サイード(2003年没)と1999年に創設したオーケストラ。イスラエルとアラブ諸国の才能ある若い音楽家が集結しています。
第1楽章のツボ
ツボ1 意外なほどクラリネット(3人で吹かせているのがDVDで確認できる)が仄暗く、弦に掻き消されそうなくらい伏目がちのニュアンスを通している。テンポはごく標準的。悲嘆に暮れるクラリネットと現実の厳しさを象徴するような弦の対比が素晴らしい。
ツボ2 弦の刻みが柔らかい。続いて主題を吹く木管の16分音符と8分音符のリスムも角が立ちすぎないように配慮。
ツボ3 58小節だけでなく、最初のスラーからわずかにポルタメント風にして感傷に浸る。さらに2小節ごとに強弱をつけているのも特徴的。それらがわざとらしくなくく、表情として生きている。
ツボ4 呼吸の伴った見事な減衰!
ツボ5 テンポは変えない。冒頭のフォルテピアノを徹底的に強調し(再現部でも同様)、強い意思を見せる。その後の強弱の振幅はそれほど大きくないが、一音ごとに表情が違うといっても過言でないくらい味が濃い!バレンボイムの指揮でこんな素晴らしいフレージングが引き出されたのを聴いた記憶がない!
ツボ6 タイで繋がった音符と次の8分音符の間を明確に開けて、嗚咽のような雰囲気を見事に表出。これをやりすぎるとフレージングが寸断されかねないが、根底で呼吸が保たれているので、その点でも素晴らしい!
ツボ7 テンポは変えていない。ピチカートが瑞々しい。
ツボ8 感動的!テンポを落とし、弦全体が音楽を感じ切っており、ポルタメントがふんだんに盛り込まれているのも大いに納得させられる。これが再現部で登場する際には、更に
ツボ9 テンポを変えず、前の緊張をそのまま持続。その先の強固な造形力も見事!締めくくりのコントラバスは大抵の場合、モゴモゴしたまま終わるが、ここでは最後の一音まで意味深い陰影を湛えている。
第2楽章のツボ
ツボ10 弦の導入は一音ごとに極めて入念で心を打つ。ホルンは巧さに酔っているきらいが在るのが残念。
ツボ11 ティンパニだけに頼らない理想的な音のブレンドで、熱いフォルティシシモを聴かせる。
ツボ12 クラリネットもファゴットも個性的な表情こそないが、ハイセンス。
ツボ13 ややフォルテ寄りで、力強さを強調。110小節からピアニッシモに転じる。
ツボ14 ここからややテンポを速める。一気に頂点を目指す意気込みを剥き出しにし、壮大な呼吸よりもピード感を強調。
ツボ15 なんともデリケートで美しいカンタービレ。しかも表面的でない!
第3楽章のツボ
ツボ16 ガクッとテンポを落として、徐々に加速。
ツボ17 アクロバット的な面白さのみならず、強弱の入れ替えも含めて、こんなに徹底して表情を盛り込んだ例は稀少!108小節で一旦ピアニッシモにするなど見事なアイデア!
ツボ18 各音の立ち上がりが曖昧。
第4楽章のツボ
ツボ19 決然とした切込みが見事!テンポはやや速め。そんな中でも強弱の対比はおろそかにしない。運命動機リズムを吹き始めるトランペットの第一音は、急速なフォルテピアノ
ツボ20 ホルンはほとんど裏方。
ツボ21 ティンパニは徹底して控えめで、弦の力感のみで進撃。テンポは標準的だが、闘志に満ち溢れている。ティンパニは64〜65小節でようやく浮上するが、このタイミングがまた見事!
ツボ22 アクセントは無視しているが、その代わり2分音符と8分音符をつなげて大きくうねらすという粋な技!
ツボ23 冒頭、やや音程がふらつくが、意気込みがひしひしと伝わる。
ツボ24 直前に失速し尽くすが、ここでまた同じテンポで再起。
ツボ25 最強打しているが、やや空転気味なのが惜しい!
ツボ26 テンポ不変。
ツボ27 やや速くなる程度だが、緊迫感が漲る。通常トランペットのリズムはここで軽くなりがち(特に2つの8分音符)だが、ここでは重心を低く保ち荘重さを維持しているのが素晴らしい!
ツボ28 8分音符の音価はやや長め。しかも、最後のタイの持続音を誰よりも思い切り引き伸ばし、間髪入れずモデラートになだれ込む!フェドセーエフの新盤に近いスタイル。
ツボ29 漲るパワーを惜しげもなく放射!テンポは前の箇所から引き続き速めで一貫。なんという素晴らしい音の輝き!ホルンの対旋律のブレンド感も最高!
ツボ30 弦は音を切る、トランペットはテヌート気味。
ツボ31 改変版。503小節のsfffを強調するのはアバド&BPOと同じだが、これはもっと強烈!
ツボ32 芯のある見事な鳴りっぷり!
ツボ33 激高を極めたインテンポのまま一気呵成に終結。響きに全くムラがなく、感動的な締めくくり。拍手が綺麗にカットされているが、ここだけ録り直したのだろうか?


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