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ハインリヒ・ホルライザー(指)バンベルク交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ:
VOX
ACD-8804
録音年:1960年代初頭(?)  【ステレオ録音】
演奏時間
第1楽章 14:55 / 第2楽章 13:25 / 第3楽章 5:55 / 第4楽章 13:01
“戦前のドイツ指揮者には珍しいチィコフスキーへの共感ぶり!!”
おそらく1969年代初頭のものと思われるVOV原盤の録音。ホルライザーというと、いかにもドイツの田舎風味の素朴な演奏を想像させますが、このチャイ5はそういう面も感じさせながらも、意外なほどの共感と妥協のないフレージングによって音楽が強固なものになり、人を音楽的な感動に導く源は何であるかということを教えてくれる、かけがえのない存在です。戦前から活躍していたドイツの指揮者のほとんどがロシア音楽をレパートリーに取り入れず、演奏したとしても独特の感傷性をバッサリ排して意地でもベートーヴェンを演奏するのと同じスタンスで押し通すのが通例ですが、ここでは第2楽章などで顕著なように、迫真のカンタービレや、テンポの切り返しの妙が場面の鮮やかな変化に絶妙に作用するなど、オペラの経験が物を言っていると思われる部分が随所に感じられ、単なる純朴路線に止まっていないところが画期的です。いわゆる昔の流儀のルバートや、ティンパニの追加(第2楽章終結部直前11:25)や、トランペットの音型を弦と合わせる(終楽章)などの改変も見られますが、これも「古さ=無価値」などとは言わせない味わいと説得力を誇っています。オケがバンベルク響というのもミソで、純ドイツ・サウンドの権化とも言うべき渋い音色が一般的なチャイコフスキーのイメージとは遠いものの、溢れる音楽性を全開にしているのが肌で感じられるのです。第2楽章のホルンの豊かなニュアンスなど、類例を見ません!圧倒的な迫力で全身を揺るがして欲しい人には物足りないと思いますが、音楽の真の息づかいを理解した指揮者による至芸というものを体感していただきたいと思います。特にクリップスのチャイ5や、ホルライザーが晩年に読響に客演して聴かせてくれたシューベルトの「未完成」(何とこのときは、ベートーヴェンの「戦争交響曲」も演奏された!)に心惹かれた方は、特に必聴です。ちなみに、終楽章の371小節でチューバがフライングしますが、致命的なミスという程ではありません。のどかな時代でした。コントラバスは指揮者の左手後方に配置していますが、ヴァイオリンは両翼配置ではありません。
第1楽章のツボ
ツボ1 冒頭の音がほんのわずか欠落している。クラリネットの響きはまろやかで味わい深い。かなり長いスパンでのフレージングをキープ。弦もしっとりとした情感を湛えている。
ツボ2 弦の刻みは繊細なスタッカート。テンポはやや遅め。木管の吹く16分音符と8分音符が短めで、素朴に弾む。
ツボ3 ややポルタメント的で、甘美さが漂う。
ツボ4 スラーの8分音符の箇所でテンポ・ルバートが掛かる。メンゲルベルクやケンペ等と同じ手法だが、まさに堂に入ったニュアンス。
ツボ5 呼吸の膨らみと包容力が見事!オペラチックな息づかい。
ツボ6 アニマートの箇所の弦の響きの凝縮力が素晴らしい。テンポの落とし方も自然体。
ツボ7 ドイツ的な平凡だが、ピチカートの質感がよく伝わる。
ツボ8 テンポこそ落とさないが、意外なほどハイセンスなカンタービレを聴かせる。純音楽的な味わい。
ツボ9 16分音符の頭はしっかり聞える。テンポは特に速めないが、緊張の付加加減が絶妙だが、音圧で圧倒する演奏とは対照的な純朴な佇まい。終結のコントラバス(第1ヴァイオリンの背後に位置)がゴリゴリと唸る様が印象的。
第2楽章のツボ
ツボ10 弦の導入は特徴こそないが、深々とした情感を湛えている!ホルンが素晴らしい!2本で吹かせているのか(「ブラ1」の終楽章のようにフレーズ結尾で二人の奏者が連携して音を引き伸ばしているように聞こえる)、たっぷりとした量感とニュアンスを湛えて、純ドイツ・サウンドで朗々と奏でられ、それでいながら弦と絶妙なブレンドを見せる味わいは格別!
ツボ11 風格美の極み!巨大なスケールで圧倒するのではなく、地の底からふわっと沸き立つ振幅は、まさに熟練技!
ツボ12 クラリネットもファゴットも虚飾が一切なくストレートな語り口だが、全体の流れに沿った風情を保っている。
ツボ13 全ての音がコクを湛えている!アルコで主題が現われる直前までディミニュエンドしないのも不思議な余韻を残す。
ツボ14 ここから全く別の場面であることを明確に打ち出す意味からか、決然と遅いテンポに切り替え、その切り替え自体が絶妙な味を残す。フレージングは内燃のエネルギーの高まりを見事に携え、入念なアゴーギクを従えながらのフォルテ4つの頂点の築き方も、小手先の芸ではない!
ツボ15 神経質なピアニッシモとは別次元の朗々としたカンタービレ。
第3楽章のツボ
ツボ16 ほとんどテンポを落とさない。
ツボ17 全パートが人肌の温もりに満ち、表情がこちらに擦り寄ってくる。
ツボ18 太い筆致で着実に連携し、見事な下行ラインを描いている。
第4楽章のツボ
ツボ19 かなり低速で、このテンポを主部突入まで崩さない。威圧感はなく、たっぷりとニュアンスを噛みしめながら進行。弦のピチカートの味わいも格別。
ツボ20 オーボエとホルンはほぼ同等のバランス。
ツボ21 弦の最後の音が消えないうちからティンパニのトレモロを開始し、長くクレッシェンドした後に徹底的に音量を聞えないくらいに抑えてトレモロ。テンポはやや遅め。現代的なカッコ良さはどこにもない。
ツボ22 不器用ながら実直に生かしている。
ツボ23 ヴァイオリンの刻みと共に同じ方向から聞こえるバスの渾身の響きが胸に迫る。
ツボ24 テンポは不変。
ツボ25 音自体は弱いが、皮の質感が感じられる。
ツボ26 テンポ変動ほとんどなし。
ツボ27 少しテンポを上げる。
ツボ28 8分音符の音価は本来の長さを遵守。
ツボ29 かなり遅めのテンポでドイツ風フレージングに徹して進行。弦の運命動機の16分音符を短めに詰めなど、決して縦割りリズムに縛られていない伸びやかさが魅力。スコアには弦のこのフレーズに一貫してスラーの標記がないことを再認識させるくらい、一音ごとの明確な弾き込み様が胸に迫る。
ツボ30 弦もトランペットも、音を切る。
ツボ31 ご多分に漏れず改変型この後の531小節〜532小節でも弦の音型と合わせている。
ツボ32 まろやかに響く。
ツボ33 546小節から最後までインテンポ。全く見栄など切らずに淡々と終結。しかし、不思議な余韻が残る。


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