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チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 Op.64
セルゲイ・クーセヴィツキー(指)ボストン交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ: ウィレム・ヴァルケニエ
AS disc
AS-565
廃盤

Music&Arts
M&ACD-1135
(2CD)
録音年:1943年11月6日 ボストン・シンフォニー・ホール 【モノラル・ライヴ録音】
演奏時間 第1楽章 15:25 / 第2楽章 13:45 / 第3楽章 6:05 / 第4楽章 11:30
AS discのカップリング/チャイコフスキー:フランチェスカ・ダ・リミニ
Music&Artsのカップリング/チャイコフスキー:交響曲第4番、第6番「悲愴」
“決して二流指揮者じゃない!クーセヴィツキーの知られざる造形力!”
第2楽章の冒頭でパチパチというノイズが気になるのと、特に音のピッチが若干高いことを除けば、クーセヴィツキーの芸術性の高さを知るうえで、最適な演奏です。素人臭い(トスカニーニの言葉)とか、豪快なだけで精神的な深みにかけるとか言われがちですが、この曲の全楽章に漲る作品への真摯な態度、雰囲気に流されず、作品の構成のメリハリを表出するためのテンポや表情の細かい操作の徹底ぶりを知ると、改めてこの巨匠の芸術性の高さを痛感せずにはいられません。とにかく、この演奏が目指す最大のものは、揺るぎない造型。そのためであれば、スコアに書いてなくても、テンポに変化を与え、強弱の振幅を排除するなど、全体を一本の太いラインで統合しようという意思が強固に張り巡らされいます。第3楽章でさえ軽やかに弾まず、一音ごとの語りかけが強いのも、その姿勢の成果でしょう。終楽章では一変して、テンポの変動が激烈で、特に速い部分のスピード感は史上最高と言えますが、それが単なる思いつきやノリではなく、作品構成にメリハリを与えるのにどれだけ絶大な効果を発揮しているか、この曲を知る人なら納得していただけると思います。終楽章で運命動機が高らかに斉奏する部分でテンポを倍近くにまで落とし、そのテンポをどう展開させるか、クーセヴィツキーだけのハイセンスな至芸を是非体感して欲しいものです。また、クーセヴィツキーの過酷な要求に完全に応え、決死のアンサンブルを披露する当時のボストン響の凄さにも注目です。ところで、この終楽章の721小節(7:17)のトロンボーンとチューバの入りの前に、8分休符が置かれています。この改変は、クーセヴィツキーとバーンスタインの全てのチャイ5に共通していますが、現在のところ他の指揮者には見られない現象です。おそらくこれは、クーセヴィツキー独自の解釈で、バーンスタインも若き日の恩人に敬意を表してそのスコアを採用したものと思われます。
※MUSIC&ARTSから交響曲第4〜第6番の2枚組(M&ACD-1135)でも発売済み。こちらはノイズを除去し、ピッチも補正されていますが、ティンパニの強連打部分などで音がビリつきがあります。両盤は一長一短。
第1楽章のツボ
ツボ1 弦のクラリネットも音色が異様に太い。繊細な陰影よりも逞しさが際立つ。テンポも揺れを見せない。
ツボ2 強弱の振幅をあまり意識せず、淡々と歌われる。全体に意外と洗練されて意。テンポは標準的なもの。
ツボ3 多少ポルタメント気味だが、フォルムの崩れを見せず、美しい流れ。
ツボ4 楽譜どおり。
ツボ5 全ての音符を一続きでレガートで弾かせている。テンポをここから少し落とす。
ツボ6 アニマートに入ってからもテンポは変えないが、情感が込められている。
ツボ7 ピチカートはややメカニック。
ツボ8 ポルタメントこそ使わないが、テンポを落として徹底的に甘美に歌いぬく。
ツボ9 古い録音にもかかわらず、なんと16分音符の音が明確に聞き取れる。ここから猛スピードに転じるが、直後に落ち着きを取り戻し、荘重に締めくくる。
第2楽章のツボ
ツボ10 最初の低弦はフレージングが入念で、旋律線も明確に打ち出す。ホルンは素朴な味。
ツボ11 それほど呼吸は深くないが、不思議と風格を感じさせる。
ツボ12 このクラリネットもファゴットも目立った表情はないが、単調に響かない。しっかり音楽を感じているのだろう。
ツボ13 この直前、スコアどおりの間隔を空けるだけで、すぐピチカートを飛び込ませるのが洗練の極み。
ツボ14 小細工なし。テンポもフォルテ4つの直前まで不変で通す。
ツボ15 なんと優しいフレージング!恣意的な表情は一切なく、ただ弾いているだけのようでいて、全ての音が意味を持って語りかける。
第3楽章のツボ
ツボ16 直前の弦のフレーズからテンポを落とし、そのテンポでファゴットが入り、少しづつ元のテンポに戻すハイセンスな技!
ツボ17 全パートが軽妙に舞うが、浮き足立たず、しっかり音を確認するよう奏でられる。
ツボ18 一音一音を丁寧に吹いている。この辺りのアゴーギクはかなり濃厚だが、品格が保たれている。
第4楽章のツボ
ツボ19 多々音のピッチが高い。全体に格調高く、これ見よがしの表情はつけず、中庸のテンポで進行。
ツボ20 ホルンは裏方。
ツボ21 ティンパニは、最初にクレッシェンドして一撃強打。その後一定音量でトレモロ。弦に切込みが壮絶!テンポもムラヴィンスキー的な高速。
ツボ22 超高速ながら、しっかりアクセントを施している。一貫して超高速進行を続けるが、167小節の運命動機斉奏部(4:24)から倍近くまでテンポを落とす。しばらくその低速進行を続け、展開部冒頭から、再び元の超高速に戻る。これが、展開部の入りを明確に印象付けるのに効果絶大!
ツボ23 強靭に轟く。
ツボ24 この直前でも一旦超低速に転じ、この再現部から再び超高速に戻る。ますます全体の構成がくっきりと浮き上がる結果になっている。
ツボ25 明快。
ツボ26 そのままのテンポで猛突進!
ツボ27 ここもかなりの高速。
ツボ28 8分音符の音価は、かなり長め。
ツボ29 強い意志が漲る堂々たる進行。テンポは普通だが、凄み満点。命動機を弦が弾き始めてすぐの、金管の符点リズムをきちんと処理した例としても貴重!
ツボ30 弦もトランペットも音を切る。
ツボ31 改変なし。
ツボ32 勇壮な響きが聴ける。
ツボ33 546小節から遅いテンポで低い重心を保ちながら堂々とインテンポ最後まで進行する。最後の4つの和音の打ち込みはさらにテンポを落として、ガッチリと締めくくる。


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