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チャイコフスキー:交響曲第5番
ジークフリート・クルツ(指)シュターツカペレ・ドレスデン
第2楽章ホルン・ソロ/ ペーター・ダム
BERLIN CLASSICS
BC-0014072

録音年:1978年1月 ドレスデン・ルカ教会 【ステレオ録音】
演奏時間: 第1楽章 14:07 / 第2楽章 12:22 / 第3楽章 5:55 / 第4楽章 11:48
“ドレスデンの地が育んだカペルマイスターの底力!”
この演奏を聴いたことのあるほとんどの方は、「地味な演奏」というイメージをまずもたれたと思います。私も例外ではありません。ただ、漫然とやり過ごしただけの演奏ではないことだけは分かっていたので、いつかあらためてじっくり聴き直そうと思っていました。そしてこうして聴きなおしてみると、やはり素晴しい!クルツは1930年ドレスデン生まれ。以来当地で徹底的にその空気を吸い、音楽的素養を身につけ、カペルマイスターとして堅実に活動してきた人。その指揮は自己アピールを徹底的に避け、オケの鳴らし方にしても恣意的な操作を徹底して排除しているので、どうしても強烈なインパクトは与えにくいようです。しかも、当時のこのオケは古来の端麗な響きを信条としたいたので、怒涛のような迫力で圧倒することもなく、一層この演奏を地味なイメージに仕立ててしまったのでしょう。
「男性的な力感」「色彩的な操作」「感情の起伏の表出」等、通常この曲に必要と思われる要素をまず重要視していないところがこの演奏のポイント。それゆえに地味に聞こえもするのですが、クルツ自身がスケールの小さな指揮者でないとことは、第2楽章108小節直前のスケール感、同142小節以降の品格ある高揚を聴けば明白。ダムのふくよかでありながら芯を湛えたホルンの魅力も全開。何時間でも浸っていたいほど魅力的です。「色彩感」も、ドレスデンの魅力を十分認識していればこそ、あえて再操作など必要ではなく、第3楽章中間部を聴けば、何もしなくても、否何もしない方が、このオケに限っては色彩的な面白みが増すことを体で認識しているのです。結果的にこの第3楽章は、ケンペ&BPOど同列に並べたいほどの名演となっています!終楽章ももっとドラマチックな演奏は他にいくらでもあります。しかし淡々と進んでいるだけのようでいて、各フレーズの意味を斟酌しながら音楽に淀みを生じさせないこのセンス、やはり只者ではないことを痛感させます。
私の安物機材でこれだけの音楽的情報を感じ取れたのです。より高級な機器をもって再生すればさらに驚くべき発見があるかもしれません!
第1楽章のツボ
ツボ1 2本のクラリネットの音色が絶妙に融合。このブレンドの妙が序奏部の最後まで続いているのは極めて稀。テンポはごく標準的で、煩悩皆無の淡々とした進行。
ツボ2 このクラリネットとファゴットの融合の美しさも印象的。テンポはここでももったいぶらず、淡々と進行。
ツボ3 フワッとした膨らみは感じさせず、無骨。
ツボ4 ほんのわずかだがテンポを落ち。オケに染み付いている古い伝統の名残りを感じさせる。
ツボ5 鋭角的なスフォルツァンドを回避ししなやかにクレッシェンド。
ツボ6 テンポの揺れ幅を抑えながらも、強弱の信服は有機的に保たれている。
ツボ7 いかにも木目調の温かいピチカートだが、当時のこのオケなら、もっとまろやかな音色が出せたと思われる。
ツボ8 今まで何もなかったかのようにストレートに滑り込む。ここでもインテンポで一切泣きをを見せず、丹念に音を紡ぐことに専念。
ツボ9 ここからテンポを若干上げ、そのまま最後の小節までインテンポ。16分音符はわずかに聞こえる程度。
第2楽章のツボ
ツボ10 弦の序奏は強弱記号を遵守する以外は余計な表情を施さないが、弦の響きにコクがある。ルカ教会と完全に溶け合ったダムのホルンは絶品!佇まいはクールだが、そのフレージングには愛と憧れがたっぷり詰まっているのを感じる。ヴィブラートも鼻につかず、余情を広げるのに功を奏している。音程も完璧!クラリネットとの美しい絡みも聴きもの。
ツボ11 ここでもテンポを大きく振幅させない。音楽の作りこそ小さいが、それが決定的な弱点には感じられず、指揮者の頑固なまでのこだわりに聞こえるのが不思議。
ツボ12 クラリネットの音は極めて明瞭。その分陰影には乏しいが、完璧な9連音も含めて、決して機械的にならないテクニックのさえを堪能できる。
ツボ13 これぞドレスデンの端麗ピチカート!
ツボ14 ここまでを聴いてスケールが小さいと感じた方は、このシーンをとくとお聴きいただきたい!142小節の冒頭は今まで同様、恣意的は大音量こそ出さないが、その先の内面から込み上げる情感の噴出を着実に積み上げ、フォルテ4つに達するまでの緊張感は職人芸の極み!しかも153小節のティンパニが他との融合を崩さずに強靭さ発揮しているのは驚異的。158小節冒頭のティンパニの一撃激しさも、今までの流れからは想像できない凄さ!
ツボ15 情に溺れず、淡々としたモードで進行。しかし決して無表情なのではなく、凛とした佇まいが魅力的に響く。
第3楽章のツボ
ツボ16 もともとゆったりしたテンポなので、そのままのテンポで進行。
ツボ17 これほど各パートが緊密に連動していて、聴き手の最後まで意識を逸らさない演奏も珍しい。とにかくこの中間部がこれほど面白く聞ける演奏はめったにない。特にヴィオラに注目を!
ツボ18 一つの楽器のように、とまでは行かないが美しい連動。
第4楽章のツボ
ツボ19 ゴリゴリとした音は発せず、厳かにしなやかに弦を歌わせる。
ツボ20 ホルンは裏方に徹する。この間の木管群の遊具の美しさ、スッキリと立ち上がる音色のコクと味わいは他では決して聴けない!
ツボ21 ティンパニは完全にスコアどおり。61小節と、65小節でクレッシェンド。しかも変に出しゃばらず、センス満点。この主部冒頭ではフルートの音型を含めた木管の動きが実に音楽的で、ティンパニの煽りに頼らずともここまで含蓄のある音楽に仕立てられることを実証している。テンポはごく標準的。
ツボ22 完全に無視。
ツボ23 これは理想の極み!細かい動きが克明に捉えられている。しかも意図的にクローズアップした録音ではないので、その入念な表情が手に取るようにわかる。
ツボ24 テンポを変えずそのまま進行。
ツボ25 これもセンスの賜物!強打ではないが、この一打で確実に存在感を示し、しかも決して突出していない!
ツボ26 提示部冒頭のテンポに戻る。
ツボ27 金管の3連音が確実に聞き取れる安定感の落ち着いたテンポを採用。
ツボ28 楽譜の音価どおり、極めて堅実な!
ツボ29 何と素晴しい響き!あけっぴろげの明るさではなく、しっかりと凝縮された張りのある音色が全ての楽器に共通しており、肩をいからせて猛進する演奏にはない高潔さを感じさせる。482小節以降のホルンの対旋律がここまで意味深く融合した例も珍しい。
ツボ30 弦は音を切り、トランペットは伸ばす。
ツボ31 改変なし。
ツボ32 ドレスデンならではのホルンの質感がはっきりと伝わる。
ツボ33 無骨なまでにインテンポで進行し、最後までそのまま。それでも音楽が軽く締めくくられた感じを与えない。


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