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チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 Op.64
林克昌[リン・クーチャン](指)ニュー・ロシア管弦楽団
第2楽章ホルン・ソロ/
入手不可 録音年:1998年7月 【デジタル録音】
演奏時間 第1楽章 16:13 / 第2楽章 14:23 / 第3楽章 6:10 / 第4楽章 12:02
カップリング/チャイコフスキー:イタリア奇想曲
“ポルタメント頻出!最後まで熟練技を貫徹させた天晴れな名演奏”
林克昌という名前は日本人と間違えそうですが、インドネシア系の中国人。1928年生まれですから、既にこの録音当時70歳の巨匠だったわけですが、でてくる音楽も正に長年の音楽人生の年輪を感じさせる風格が全体に漲り、最後まで聴き飽きることがありません。しかも、かつてヴァイオリンも専攻していたせいか、弦の扱い、フレージングの強弱配分等には最後までこだわり貫いており、作品全体のトーンも完全に練られ、統一感があるので、通常あまりにかれない表情でも奇異さが際立つことなく、美しい音楽の流れを確立している点に感服!独特の表情で特に目立つのは、メンゲルベルクをはるかに上回る弦のポルタメントの多用。それが連続して登場する箇所はさすがにくどいと感じないわけでもないですが、正にその場面にふさわしい表情として心から発したものとして迫るので、少なくとも嫌らしさがなく、むしろ、分からない程度に一部だけ施すなら、最後まで貫徹してしまえ!という心意気が天晴れです。ロシアのメジャー・オケから選抜されたオケはさすがに優秀ですが、そのパワーに寄りかかっていない姿勢も素晴らしく、メカニックに高速にかっこよく仕上げることに完全に背を向け、自身の共感を込めるのに最もふさわしいテンポと音量が採用されている点にも要注目。第1楽章展開部直前、202小節からはスコアにはフォルテ3つの指示がありますが、弱音からクレッシェンドを施して登りつめるその音色の深みと風格美は、この指揮者がこの時点で完全に独自の音楽センスを確立し、オケにルーティンな演奏をさせることのない求心力を保持していることを証明する瞬間と言えるでしょう。第2楽章終結部直前のフォルテ4つも、もっと大音量で圧倒する演奏はいくらでもありますが、一貫性のある音楽つくりと感情表現の上に立った音として発せられるので不足はなく、むしろ内面で飽和する感情の高ぶりとして結実しているように聴こえるのす。好き嫌いは分かれると思いますが、そんな一途な音楽への打ち込みを最後まで貫徹させたこの演奏には、心から拍手を送りたいと思います。
第1楽章のツボ
ツボ1 なかなかにメロウなクラリネットが印象的。フレージングもテンポもごく標準的だが、ヴィオラ以降の低弦のアクセント、メリハリにかなりこだわっており、の先何かやらかしてくれそうな予感が…。
ツボ2 程よく潤いを含んだテクスチュアで緩やかに進行。クラリネットとファゴットのユニゾンも美しい。
ツボ3 58小節の冒頭でいったんPに音量を落とし、更に新たな場面設定を行なう。弦の歌い回しにも情感が込められている。スタッカートも滑らか。
ツボ4 楽譜どおり。
ツボ5 フォルテ・ピアノをしっかり感じながら奏で、絹のようなしなやかさでフレージング。基本的にここでもインテンポだが、前の部分とは明らかに違う感情を込めているのがはっきりと分かる。
ツボ6 なんと128小節でチェロが上行ポルタメントを行なう!そのなんと自然なこと!!
ツボ7 ピチカートはごく普通。クラリネットの跳躍は少し音が汚れている。
ツボ8 これまた独特の美しさが香る。弦の流麗なフレージングに対して管楽器が微妙に先走りがちだが、全体的には美しいフォルムを形成している。176小節からの息の長いクレッシェンドの最高音(178小節)の音価を思い切り引き伸ばして耽溺にふけり、181小節でポルタメンとを掛けるという、昨今ではなかなか耳にできない表現。
ツボ9 16文音譜は明瞭ではないが聞き取れる。ここのインテンポで最後までこの荘厳なテンポを維持。最後の低弦の音型がモコモコせずに歌いきっているのが素晴らしい。
第2楽章のツボ
ツボ10 弦の序奏は憧れに満ち溢れている!ホルンは、冒頭からのピアニッシモの安定感とかげりの表情に惹きつけられる。18小節の最後の音が少しひっくり返るのが実に残念。
ツボ11 音量で圧倒しない風格の勝利!全体の音楽作りからして、ここで鋭利な強烈なパンチを出しては、かえって感興が削がれる。
ツボ12 クラリネットのできは普通だが、ファゴットのフレージングが絶品。この中間部のテーマが弦に移行してから、各小節の最高音のほぼ全てにポルタメンとがかかるが、これはさすがにくどいかもしれない。
ツボ13 楽譜どおり。
ツボ14 冒頭はパンチ力という点では弱いが、強力に後ろ髪を惹かれるような、内面からあふれ出る真の情感の量感に圧倒される。
ツボ15 紙をやさしくなで上げるような美しさ。ここでもポルタメンとが功を奏している。
第3楽章のツボ
ツボ16 完全にインテンポ。
ツボ17 メカニックな動きを見せず、一音ずつ表情を付ける一途さが見事の結実。
ツボ18 クラリネットとファゴットの連携は普通の出来栄え。
第4楽章のツボ
ツボ19 標準的なテンポ。威厳というよりもどこか人間味を感じる風格が滲んでいる。
ツボ20 ホルンは完全に裏方。
ツボ21 ティンパニは完全にスコア遵守。高速の一歩手前の快適テンポだが、力みは感じられずごく素直な進行に徹している。
ツボ22 このアクセントは無視し、その代わり156小節にアクセントを施して、強弱のメリハリを明確にしている
ツボ23 縦の線がきちんと揃い、存在感をアピールしているが、強烈な張り出しはない。
ツボ24 直前までにぎりぎりまでテンポを落とすが、ここから主部冒頭のテンポに戻る。
ツボ25 鈍い音。
ツボ26 インテンポ。
ツボ27 ここからテンポを速めるが、スピード感よりも風格が優る。
ツボ28 楽譜の音価より長め。
ツボ29 圧倒的な勝利の歌というより、ベートーヴェン「田園」終楽章のような幸福感に満ちたフレージング。
ツボ30 トランペットも弦と同様にレガートで統一。トランペットの音色がいかにもロシア的。
ツボ31 トランペットの音型に改変は施していないようだが、449小節から全体をピアニッシモにした上で、トランペットとホルンは聞こえないほどに音量を抑えきている。そこから少しづつクレッシェンド。全休止
ツボ32 はっきり聞こえ、音色の質感が極めて高い。
ツボ33 大きな見得も切らず落ち着いた締めくくり。


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