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チャイコフスキー:交響曲第5番

キングレコード
KIBM-1045
(DVD)

西本智実(指)ロシア交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ/
録音年:2006年6月5日 東京・サントリーホール 【カラー/ステレオ】
演奏時間 第1楽章 15:46 / 第2楽章 13:00 / 第3楽章 6:04 / 第4楽章 12:39
カップリング/交響曲第6番「悲愴」(2006年6月6日 東京芸術劇場)
“さらに踏み込んで欲しかった!70%のパワーで乗り切ったチャイ5”
この6月5日の公演は私も直接会場で聴きましたが、終演後のオバサマ方の花束攻撃、宗教がかったスタンディングオベーションといった異様な空気に呆気にとられたこと、愚作と決めてかかっていた「ジーズニ」が結構楽しめた(特にマーチ風の終楽章)ことが印象に残っていますが、肝心の「チャイ5」の演奏は、日本初演となるこの「ジーズニ」(チャイ5の後に演奏)の方に演奏の力点が置かれ、それに向けてパワーを温存しているような、グッと迫るものに欠ける印象を拭えませんでした。しかしこうして改めて映像作品として触れ直すと、なかなかの手応えで迫るのですから不思議です。全体の設計はごくオーソドックスで、個性的な解釈も、グッと来る表現も特に見当たらず、まさに正攻法。しかし美しく明瞭な録音でも、当日感じたもどかしさ、つまり本当はもっとやれそうなのに…というモヤモヤは、随所で感じてしまいました。ただ一人奮闘しているのがティンパニ。しかしこの奏者も特別な燃え方をしているわけではなく、レニングラードの名物男、イワーノフばりのロシア流儀をそのまま行っているだけで、西本の導き出す音楽性に触発されているわけではなさそうです。さらにそのティンパニが少なくとも感覚的には痛快なのに、他のパートが100%の燃え方をしていないために、微妙な齟齬が終始付きまとってしまうのです。ティンパニが丸裸で激打する第1楽章展開の最後や、終楽章全旧符直後の音楽の小ささに、それがもろに出てしまっていることは否めません。いわゆる「手抜き」の演奏などではなく、まじめに取り組んでいることは確かですし、小澤征爾などよりも訴えかける力を孕んでおり、ここまで煩いことを言わなければ立派な演奏である映像なのですが。
第1楽章のツボ
ツボ1 クラリネットは色彩的な広がりはないものの、しっかりとしたフレージングで着実に進行。テンポは標準的。音価の扱いも楽譜どおり。
ツボ2 ここもごく標準的なテンポ。フルートに主題を引き継いだ後、54小節の途中で一呼吸を置かずにそのまま進行するのが珍しい。
ツボ3 特徴なし。
ツボ4 楽譜どおり。冒頭で打ち込まれるティンパニの重量感が印象的。
ツボ5 前の部分からインテンポのまま進行。強烈な泣きはは見せないが、自然な呼吸感が好印象。
ツボ6 ややテンポを落とし、スフォルツァンドの角を丸くして、フレーズを柔らかく伸縮させる。フォルティッシモも強調はせず、哀愁を漂わせる。
ツボ7 第1音のみが響ききっていないのが残念(再現部では成功している)。ここから少しテンポアップ。
ツボ8 何一つ欠点はなく、美しく歌っているのだが、もうひとつ踏み込んで切々とした歌が聞こえてきて欲しい。
ツボ9 インテンポのまま。冒頭のティンパニがここでも強力だが、奇跡的にフルートの16分音符の連音が捉えられている。
第2楽章のツボ
ツボ10 冒頭6小節目からの第2ヴァイオリンの入り方が実にしなやかで美しい!ホルンの出来はごく普通。ほんの微かにヴィブラートがかかってる。
ツボ11 ティンパニの力に頼っているが、立派な響き。
ツボ12 このクラリネットは感動的!ほの暗いトーンでく悲しみを湛え、しかもリズムをべとつかせる、柔らかなレガートで深々と歌い上げている。
ツボ13 冒頭のテンポに戻る。ピチカートは、もう少し美しいハーモニーを引き出して欲しかった。
ツボ14 根源的な迫力にはやや欠け、呼吸も深くはないが、圧倒的なパワー放射とはいかないが、ティンパニの発言力と巧妙な音量バランスのおかげで、まずまずのスケール感は醸し出している。
ツボ15 意外なほど淡白にさらさらと流れる。
第3楽章のツボ
ツボ16 テンポを落とす。
ツボ17 破綻こそないが、各パート間の連携がより緊密度を増したら、さらにきりっとした印象を与えるだろう。
ツボ18 輪郭が不明瞭。
第4楽章のツボ
ツボ19 標準的なテンポ。際立った特徴はない。特に威厳や
ツボ20 ホルンは裏方。ここに限らず、主旋律中心のバランスで一貫している。
ツボ21 テンポはオーソドックス。ティンパニは58小節で軽くアクセント、62小節と66小節で強烈なアクセントの一撃を置くが、これも音楽全体が高揚するのではなく、弦や管と強固に結束したアクセントであれば、衝撃的だったろうと思うと残念。
ツボ22 全く無視。
ツボ23 自然なバランスだが、表現としては特徴はない。
ツボ24 ここから主部冒頭よりも若干速いテンポを採用。
ツボ25 見事な一打。
ツボ26 主部冒頭のテンポを採用するが、ツボ24(296小節)とのテンポの差がほとんどなく、メリハリ感が弱い。
ツボ27 ことさらテンポを速めることなく、高らかに高揚。しかし、いま一つ興奮させる何かが欠けている。血の滾りを感じさせないのだ。
ツボ28 楽譜の音価よりやや長め。ティンパニは最後にアクセントあり。
ツボ29 冒頭は音楽が小さくなってしまっている。ティンパニもなぜか控えめ。
ツボ30 弦はやや不徹底なテヌート、トランペットは完全なテヌートを慣行。
ツボ31 改変なし。
ツボ32 はっきり聞こえるが、力感が迫ってこない。
ツボ33 最後までインテンポ。最後の4つのティンパニは超強烈な打ち込み!しかし他のパートは決して熱くなっていないので、音楽自体が沸点に達しきらないもどかしさが残る。ちょっと気の毒。


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