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チャイコフスキー:交響曲第5番
小澤征爾(指)ボストン交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ: チャールズ・カヴァロフスキ
DG
431603
録音年:1977年2月 ボストン・シンフォニー・ホール  【ステレオ録音】
演奏時間 第1楽章 15:02 / 第2楽章 12:43 / 第3楽章 6:13 / 第4楽章 12:22
※カップリング/ロメオとジュリエット(サンフランシスコSO '72)
“チャイ5の「民主的名演」の典型”
強弱変化やテンポ変動といったスコアの指示を平均化してしまったり、主旋律を尊重するあまり、音に一定以上の厚味が出なかったりといった小澤らしさが、前回の録音以上に反映されていますが、エキセントリックな要素を全て排し、現代的なフォルムの中に美しい歌を盛り込んだこの演奏は、「独自スタイル」の一つとして無視できないと思いますし、ボストン響の魅力も、この1曲だけで十分に知り得ます。第1楽章は些細な弦の刻みにも意味が込められ、共感の熱さ、音色の安定感、再現部冒頭のフォゴットの巧さが聴きもの。ソロ奏者の巧さの点では2楽章が一層顕著に際立ち、中間部のクラリネットの涙を誘う歌いまわしと完璧なフォームは、全チャイ5録音の中でも傑出しています。この中間部から運命動機の斉奏にかけての有機的でしなやかなフレーズの流れと、木管群の緊密な溶け合いは、全曲の白眉といえます。第3楽章中間部では、ボストン響のアンサンブルと色彩センスを痛感させられ、音そのものが音楽的です。終楽章は、重量感に欠けますが、逆にスポーティな痛快さが魅力。このように、ボストン響の奏者のセンスが直に伝わる部分以外は、感情の襞にビリビリと触れるような瞬間は少ないのですが、ボストン響という名器の魅力と、「小澤らしさ」を知るのには外せない1枚です。残響がやや遠め録音ですが、第2楽章のホルン・ソロでは素晴らしい雰囲気作りに役立ち、全体的にも自然な音像を引き出しています。なお、カップリングの「ロメ・ジュリ」は、小澤渾身の名演であるばかりか、この曲の代表盤として忘れるわけにいきません!ここでも持って回った表現など行わず、どこまで行ってもストレートな演奏ですが、全ての音に生命が宿り、ティンパニの強打が終始見事に功を奏し、実にドラマティックな演奏になっています。
第1楽章のツボ
ツボ1 テンポは標準的。クラリネット自体は単色的だが、弦と一体となって雄渾のうねりを見せる。フレーズ末端まで心が通っている。
ツボ2 弦の刻みから憂いを湛える。クラネットとファゴットのフレージングが丹念で、音色にもコクがある。
ツボ3 多少アクセントが付く。
ツボ4 呼吸の潜め方が絶妙。
ツボ5 CSO盤同様、タイで繋がった音符を長めに引き伸ばし、深々とした共感を込める。
ツボ6 一貫して入念に表情を施し、響きにもムラがない。
ツボ7 とても色彩的でチャーミング。
ツボ8 テンポを落とさず、ストレートな歌い方に徹するのが前回と同様だが、音色美が際立ち、呼吸も安定している。
ツボ9 これは稀少!はっきりと16分音符が聞えるように音を立たせて吹かせているようだ。それによって、全体のリズムが締まり、フレージングにも緊張が漲っている。最後に弱音に沈んでからも、響きと緊張が充溢。
第2楽章のツボ
ツボ10 弦の導入はやや平板だが、ボストン響の弦のコクが素晴らしい。ホルンはホールの残響と見事に溶け合い、郷愁を湛えた美しい空間を表出。フレージングも技術も安定しきっている。やはりこの箇所は、デッドな録音では効果半減であることを思い知らされる。クラリネット、ファゴットの一瞬のフレーズ感動的。
ツボ11 前回の録音同様、露骨にパワーを出さず、フォルティシシモの山がなだらかな流線型を描くのが小澤らしい。
ツボ12 このクラリネットの感動的な歌心は、全チャイ5録音の中で傑出している。テンポを落として、耽溺的なまでに歌い込んでいるが、気品も湛えている。その歌をファゴットが完全に引き継ぎ、感動的。
ツボ13 弱音で優しくかなで、ボストン響の木目調のニュアンスと共に優しく語り掛ける。
ツボ14 フォルティシシモ、フォルテ4つ、それぞれアタックが弱く、小澤らしい爽やか路線で直進する。呼吸も決して深くない。それでも、一途な推進力に惹かれるのは、オケの音色によるところが大きいのかもしれない。
ツボ15 響きの安定感が抜群。ここも後味爽やか。
第3楽章のツボ
ツボ16 出だしで少しテンポを落とすが、少し手前から吹き始め、その余韻でフレーズをつなぐのが他では聴けないセンス!しかも、美しいフォルム!!小澤のアイデアではないだろう。
ツボ17 これほどニュアンスが次々と香りを放つ演奏は少ない。単なる「つなぎ」で鳴っているパートが皆無!
ツボ18 全ての音のアタックが明快。
第4楽章のツボ
ツボ19 中庸のテンポで丁寧にフレージング。それ以上に踏み込んだ表情はない。
ツボ20 ホルンは裏方。
ツボ21 冒頭でクレッシェンドして一撃を置く。すぐにディミニュエンドして、そのままトレモロ。テンポは標準的。スポーティに直進するが、リズムが生き、全声部がバランスよく発言することで、見事な響きの充実が図られている。
ツボ22 少し生かしている。
ツボ23 よく張り出しているが、全然汗をかいている感じがしない。。ややバランスを意図的に調性しているようだが、不自然なほどではない。
ツボ24 主部冒頭のテンポ。
ツボ25 芯のある理想の一撃!
ツボ26 テンポ変わらず。
ツボ27 無理のない快速感。金管の響きが実に美しいが、ホルンが一瞬フライングするのが惜しい!452小節と454小節で大時代的なテンポ・ルバートを見せるのは前回同様だが、自然に響く。
ツボ28 8分音符の音価は長め。ティンパニは最後に一撃を置くが、決して突出しないセンスが素晴らしい。
ツボ29 輝き全開!健康的に進行。
ツボ30 弦もトランペットも、テヌート気味。
ツボ31 改変なし。
ツボ32 丁寧に良く鳴っている。
ツボ33 重量感に欠ける上、55小節辺りから中途半端に加速するので、さらに腰が軽くなってしまっている。最後の4小節はテンポを落とすが、力感に乏しい。


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