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アラン・ギルバート(指)ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団 |
第2楽章ホルン・ソロ: |
マルクス・マスクニィティ(?) |
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島津製作所
番号なし
(非売品) |
録音年:2004年9月24日 サントリー・ホール【デジタル・ライヴ】 |
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演奏時間: |
第1楽章 |
15:23 |
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第2楽章 |
12:35 |
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第3楽章 |
5:43 |
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第4楽章 |
12:35(拍手込) |
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カップリング/マルティンソン:「A.S.の追憶」、ベルワルド:歌劇「エストレッラ・デ・ソリア」序曲 |
“確信を持って節度あるニュアンスを徹底!近年稀な大人の「チャイ5」” |
島津製作所130周年記念CD(録音自体はオクタヴィアが受け持ったようです)。ロシア的な民族色を拝したしたいわゆる純音楽的なアプローチとしては最高の部類に属す名演奏!N響と聴かせたベートーヴェンの「英雄」でも感じたことですが、楽器奏法や時代背景などのもっともらしい「学術的根拠」など持ち出すことなく、スコアを見たまま感じたままに純粋に再現し、聴き手の心にしっかり音楽を根付かせることができるギルバートという指揮者の存在は本当に貴重なものです。このチャイ5も全くアプローチは同じ。よりダイナミックに、よりセンチメンタルになどと余計な色気を出さなくても、全てはスコアに作曲家の思いは記されているという固い信念を持って演奏に臨んでおり、はらはらどこどきするような表現こそありませんが、音楽の方向性がぶれず、普通なら巨匠の域に達して初めて為しえる安定感と安心感が音楽に満ち溢れているのですから、ただただ感服するしかありません。
第1楽章は冒頭から落ち着き払ったアプローチ。テンポにも音色にも、この先一切奇を衒うつもりなどないことを予感させる誠実さに満ちています。副次主題など何もしていないようでいて、音符に共感だけを込めぬいて、デュトワをドイツ風にしたような安定感に酔いしれます。第2楽章でも、冒頭からギルバートの原寸大の解釈が心に迫り、しかもホルン・ソロが聴かせるニュアンスはギルバートの志向にぴったり合致した素晴らしさ!第3楽章は足取りは軽やかでも音楽がうすっぺらになることは皆無。終楽章に至っては、本来なら何十年もこの曲を指揮し続け練り上げた末でなければ見出し得ない熟達した構築力とフレーズの関連付けの自然さがあまりに見事。
演奏言う行為を行う以上、100%客観的にアプローチすることなどあり得ませんが、このようなロマン派を象徴するような超有名作品において、作品そのものの魅力に徹底的にスポットを当てつつ説得力を持たせる演奏を実現できるギルバートの力量は計り知れません。 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
冒頭のクラリネットは感情過多にならず、ゆっくり丁寧に進行。単に丁寧なだけでなく、そこにはフレーズを末端まで聴き取り響かせる強いこだわりを感じさせる。 |
ツボ2 |
テンポは標準的。2小節目からのクレッシェンドを丁寧に実行。弦も木管も暗いトーンが浸透しきって、雰囲気に流れることなどないギルバートの凛とした音楽作りを象徴している。 |
ツボ3 |
スラーには配慮せず、伏目がちなニュアンスを引きずっている。 |
ツボ4 |
あからさまなディミニュエンドを避けている。 |
ツボ5 |
スフォルツァンドを強調せず、流麗なフレージングを重視。 |
ツボ6 |
実に堅実。幾分テンポは落ちるが、コントラストを強調せず、自然な進行を目指す。 |
ツボ7 |
縦の線が揃った美しいピチカートだが、もう少しパリッとした強さも欲しいところ。 |
ツボ8 |
全く身構えることなくサラッと進入。テンポもほとんど変えず、スコア以上の感傷味を加味することを避ける姿勢が窺える。 |
ツボ9 |
冒頭は完全に埋没しているが、その後はドイツ風の剛直で強固な意志で貫かれた見事な進行を見せる。 |
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第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭の弦は、確信を持って厚く張り出す響きを徹底して表出。しかし陰鬱さを誇張せず、むしろ速めのテンポの中で微妙な陰影を盛り込み、さっとホルンへつなげてしまう手腕に脱帽。このホルンへの橋渡し部分の屈指の妙演!ホルンがこれまた絶品”スコアの指示をこれほど遵守して味わいを感じさせる演奏は皆無に近い。特に11小節で再びクレッシェンドを開始する際の絶妙なタイミングには鳥肌!。 |
ツボ11 |
爆発的は放射こそないが、入念で大きな呼吸が全体を包み、何よりも音楽が浮き足立たない安定感がある。 |
ツボ12 |
ここでもギルバートの見識の高さが。スコアどおりテンポを上げ、前の部分と関連付けながらも明確に場面を切り替えるという難題をクリアしている数少ない例。クラリネットの技巧も良好。 |
ツボ13 |
ホルン・テーマと同じテンポに戻す。冒頭のピチカートはややハーモニーのバランスが曖昧だが、木管が入った後のニュアンスは素晴らしい。 |
ツボ14 |
ここもギルバートの堅実な音楽作りを象徴するシーン。派手に身構えることなく、全体像を掌握した上で深く大きはうねりを築いている。 |
ツボ15 |
こういうデリケートなシーンで、さらにそのニュアンスを上塗りするようなまねをしないのがギルバートの特徴。 |
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第3楽章のツボ |
ツボ16 |
インテンポで進入。 |
ツボ17 |
弦の管の連携が緊密で、凝縮力が強い。 |
ツボ18 |
もう少しラインの明瞭さが欲しい。 |
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第4楽章のツボ |
ツボ19 |
大人の風格。テンポは標準的なものだが、安定感抜群。 |
ツボ20 |
ホルンはほとんど裏方。 |
ツボ21 |
ティンパニは途中でアクセントを置かず、完全にスコアどおり。テンポはカラヤンに近い標準タイプ。 |
ツボ22 |
完全遵守。 |
ツボ23 |
コントラバスは量感に申し分なし。 |
ツボ24 |
主部冒頭よりわずかに速いテンポ。 |
ツボ25 |
極めて明瞭かつ深い! |
ツボ26 |
主部冒頭と同じテンポ。 |
ツボ27 |
直前の最大限までエネルギーを溜め込んでから一気に放出するが、決して疾走せず風格豊かな進軍を見せる。 |
ツボ28 |
完全にスコアどおりの音価を遵守。最後にティンパニの一撃を置かないのも納得。 |
ツボ29 |
疲れ知らずの漲るパワー!アンサンブルは極上とはいえないが、それを上回る表現欲と闘志で有無を言わせぬ進軍を続ける。 |
ツボ30 |
弦は明確に音を切るが、トランペットはスコア表記の音価そのままで吹く。但し、そこには曖昧さがなく律儀さが感じられるのが他の指揮者とは違う点。 |
ツボ31 |
スコアどおりで改変なし。503小節のスフォルツァンドも完全履行。 |
ツボ32 |
明瞭に鳴り響いており、全体との調和も万全。 |
ツボ33 |
555小節がごっそり抜け落ちているのは明らかに編集ミス。最後まで風格ある進行を崩さず、最後の締めくくりでも決して見栄を切らずに完全にインテンポで終わりながらこの手応え! |