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ヴァレリー・ポリャンスキー(指) |
ロシア国立交響楽団《シンフォニック・カペレ》 |
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fine NF(N&F)
NF-928801(2CD)
税込定価
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録音:2015年7月18日 東京芸術劇場第ホール・ライヴ |
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演奏時間: |
第1楽章 |
14:47 |
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第2楽章 |
12:25 |
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第3楽章 |
6:00 |
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第4楽章 |
12:20 |
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カップリング/チャイコフスキー:交響曲第4番&第6番「悲愴」 |
“ロシアの郷土色より純粋な音楽美を追求するポリャンスキーの矜持!” |
一晩にチャイコフスキーの後期3大交響曲を演奏するという無謀とも言えるコンサートのライヴですが、演奏は、ルーティンな惰性で流れる箇所などどこにもない入念さ。何というスタミナでしょう!「シンフォニック・カペレ」は、ソビエト国立文化省交響楽団として知られていたオーケストラ。その音楽監督だったロジェストヴェンスキーに師事していたのがポリャンスキー。ここでは合唱音楽のスペシャリストとしてのその才能が遺憾無く発揮された名演を聴くことができます。
最大の特徴は、郷土色と熱い共感を馬力任せの迫力だけに集約させていないこと。「合唱のカラヤン」の異名を取るのは独自の美学とセンスゆえだと思いますが、そのこだわりが押し付けがましくならず、珍解釈としての面白さに傾くこともなく、自 ここまで意味深いことは稀。提示部最後の7:00以降は、最後まで曖昧にせずに響かせるこだわりを見せ、フォルテのホルンへ確実にバトンタッチ。コーダを完全イン・テンポで通すのも、甘美なだけの単純なチャイコフスキーとは別次元の説得力を生んでいます。
スコアの強弱指示を遵守する箇所は徹底遵守する姿勢も徹底しており、例えば、第2楽章108小節からのピチカートの音量を最後まで弱めないのもその好例。ここには確かにスコアにディミヌエンドの指示などないのです。逆に、第2楽章冒頭の低弦は弱音の指示がありますが、これは破って克明な隈取りを伴う音色で荘重さな空気を敷き詰めます。
第3楽章も独特の味わい。まず冒頭部がデリカシーの極み!内省的なレガートが美しく、音の育みには常に優しさが溢れています。この楽章は、決して内容の薄いバレエ風の曲などではないとうことを痛感します。
終楽章は、ポリャンスキーの品格ある芸が横溢!長い序奏のどこにも攻撃に向けた臨戦態勢などなく、一見インパクトの薄いアプローチが続きますが、決してその内容は希薄ではありません。何でもないフレーズでも曖昧にしないポリャンスキーは、5:14からの音型を明瞭に響かせますが、そのこだわりを誇示するような嫌らしさがないのが流石。全休止以降のテーマの歌い上げのしなやかな感触はロシア勢とは思えぬ健康美に溢れていますが、共感の深さは人一倍。そのブレることのない芯の強さが確かな説得力に繋がっています。
一口にロシア指揮者と言っても様々な個性があるのは当然ですが、ポリャンスキーのスタイルは誰の亜流でもなく、またM.ヤンソンスのようにグローバル志向に走るのでもない独自路線。その資質がチャイコフスキー以外のオーケストラ作品ではどう活かされるのか、是非聴いてみたいものです。【2023年5月・湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
テンポは中庸。クラリネットの音色は明るく、ニュアンスがやや平板。テヌートも特に意識していない。弦とのバランスは良好。 |
ツボ2 |
スコアの指示通りのアレグロが自然に響く。クラリネットとファゴットのユニゾンが美しい。 |
ツボ3 |
61小節の4分音符と8分音符をスラーで繋げているのが珍しい。切なさが滲む。 |
ツボ4 |
スラーは意識せず、やや単調。 |
ツボ5 |
スコアのスラーを一旦解きほぐし、全て一息でフレージング。これが美しい!合唱指揮者の本領発揮! |
ツボ6 |
スコアの強弱指示をほぼ忠実に再現し、ニュアンスとして確実に結実。 |
ツボ7 |
明確に陽気なニュアンスに転換。テンポもアップ。 |
ツボ8 |
ここの味わいも独特。土臭さのないピュアな共感のみで育まれたたフレージングがなんとも魅力的。17小節結尾の8分音符を短く切り上げることで儚さが浮き上がる!他の箇所はここでもスラーの細分化を避け、大きなスパンでのフレージングが功を奏している。 |
ツボ9 |
インテンポのまま進行。16分音符は不明瞭。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
弱音の指示を破り、朗々の響かせ、かつ一定音量で響かせる弦にびっくり!ホルンは、かなり遅いテンポにもかかわらず息の長いフレージングを見事に達成。ニュアンスも深い。但し、クラリネットの合いの手が煩い。 |
ツボ11 |
大きな山場として設定していない。自然な大きな呼吸。 |
ツボ12 |
はっきりとテンポを上げて別世界を展開するが、クラリネットが調子に乗って能天気ぶりを発揮しているようにしか聞こえない。 |
ツボ13 |
テンポはホルン・ソロよりも速め。ピチカートは縦の線がよく揃い、温かみもある。第1ヴァイオリンがテーマを弾き始めてからも音量を弱めないのが珍しい。 |
ツボ14 |
見事なルバートの伸縮力、呼吸の深さ! |
ツボ15 |
耽溺を避けた淡々とした進行を貫徹。決して無機質に陥らない。背後の管楽器のリズムの刻印も曖昧にしない。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
冒頭のみテンポを落とす。 |
ツボ17 |
管楽器の連動の愉しさに比重を置いた解釈がユニーク。 |
ツボ18 |
見事な美しいラインを形成! |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
風格ある進行。テンポは標準的。 |
ツボ20 |
ホルンは完全に裏方。 |
ツボ21 |
テンポは標準的。ティンパニは58小節頭にアクセントを置き、その後はクレッシェンドなしで一定音量。74小節、76小節はテヌートを施している。 |
ツボ22 |
軽くアクセント。 |
ツボ23 |
殊更には強調しない。 |
ツボ24 |
明確にテンポアップ、 |
ツボ25 |
極めて控えめ。 |
ツボ26 |
ここも直前で急激にテンポを落とす。主部冒頭のテンポ。 |
ツボ27 |
かなりの高速。トランペットは一息で吹き切るような勢いだが、乱暴には響かない。 |
ツボ28 |
8分音符は本来の音価よりやや長め。ティンパニは最後に一撃あり。 |
ツボ29 |
伸びやかでしなやか。心の底から歌っていることがこれほど強く感じられる演奏も珍しいい。ロシア勢では珍しく、弦によるテーマの4分音符と符点2分音符をスラー処理していない。 |
ツボ30 |
弦がスラーなしに対し、トランペットはスラーあり。 |
ツボ31 |
改変なし。 |
ツボ32 |
やや強靭さに欠ける。 |
ツボ33 |
わずかにリテヌートする程度。最後の4つの和音の響きのバランスの良さが印象的。 |