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ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(指) |
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 |
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東芝
TOCE-7140
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録音:1976年10月6日〜7日 キグスウェイ・ホール【ステレオ録音】 |
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演奏時間: |
第1楽章 |
16:42 |
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第2楽章 |
14:37 |
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第3楽章 |
6:19 |
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第4楽章 |
14:13 |
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カップリング/ |
“ロストロの指揮者としての手腕が最高に発揮された感動作!!” |
指揮者としてEMIに録音したロストロポーヴィチの演奏は、どれも感銘深いものばかりですが、これはまさにその筆頭!全体にテンポは遅く、また遅くしなければ盛り込みきれない表情の多彩さ、尋常ではない作品への共感の深さが全編に浸透し、オケも完全にその意を汲んで全身全霊で弾ききっています。「遅い」というとチェリビダッケを思い出しますが、チェリの場合は、遅くすることにまず意味があり、それによって曲本来の構造を解き明かそうとするのに対し、ロストロはまず共感が最優先で、そのイマジネーションを音楽に仕上げると結果的に遅くなってしまう、というに、好対照をなしているように思われます。したがって、遅さに辟易することなく、嘘のない心から発した音楽の波にどっぷりと身を委ねることができます。とにかく、第1楽章第1音から別世界!出だしの超スローテンポによる凍てつくロシアの大地を思わせる深々としたピアニッシモ、深い嘆きの色合いに、さっそく心が打ち震えます。そのテンポ感と濃厚な翳りは全楽章を通じて(優雅な3楽章までも)尾を引き、一貫した音楽のイメージを作り上げ、なおかつ、これほど濃厚な表情を込めながら、意外なほどテンポの揺れを抑制し、客観的なフォルム構築への配慮も十分に感じられるのですから、指揮者としてのロストロの力量に感服せざるを得ません。その一途な音楽作りが最大に開花しているのが第2楽章!特に終結部に入る前の部分で、感情の高まりを見事な緊張感で構築していく様は、まさに圧巻!終楽章の弛緩のない感情の盛り込み方、クライマックスへ持っていく設計の見事さも注目です。オケがLPOというのも、この名演を生んだ大きな要因で、全パート漏れなく渾身の力を振り絞っているのが目に浮かびますが、威圧的な汚い音はどこにも見当たらず、美しい大音像を繰り広げてくれるのです。出しゃばらずに核心を突くティンパニの巧さにも唖然とします。ムラヴィンスキーの影を全く踏まず、独自のチャイコフスキー像を打ち立てた画期的名演として、忘れるわけにはいきません。なお、ティンパニ・パートには随所にバティス&LPO盤同様の改変が施されています。ざっと挙げると以下のとおりです。
第1楽章:101〜106小節(4:56)、255〜266小節(9:11)、499〜500小節(15:38) 第2楽章:164〜165小節(12:16,他の全てのパートと同じリズムを叩き続ける) 第4楽章:74〜76小節(4:23)、179〜186小節(6:03)、195〜205小節(6:20)、452〜454小節(10:32)、490〜501小節(12:12)、531〜533小節(13:27)、546小節〜553小節(13:39) 【湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
超スローテンポで、クラリネット、弦、共に音価をたっぷり確保。全く弛緩せずに深い呼吸を保ち続け、これ以上不可能なほど哀愁を漂わせる。クラリネットの色彩感も素晴らしく、あえて2本で吹かせている意味をこれほど実感できる演奏も珍しい。正確な4拍子の拍節感など、ここでは意味を成さない。 |
ツボ2 |
ここも超スローテンポで、全ての音符がすすり泣いている。音の立ち上がりが実に柔らかく、美しい。 |
ツボ3 |
柔らかな感触でデリケートに処理。強弱の振幅を付けずに、弱音のまま囁き続ける。 |
ツボ4 |
特に特徴はないが、引き続き表情は濃厚。 |
ツボ5 |
スフォルツァンド効果が絶妙!強弱に表情がしっかり寄り添っている。 |
ツボ6 |
共感を込め抜いた、美しいテンポ・ルバート。 |
ツボ7 |
第一音が、コルクの栓を抜いたような妙な音がするが、全体に美しい。 |
ツボ8 |
ここからテンポを落とし、ピアニッシモ寄りの繊細な弱音で切々と歌う。しかし、基本はインテンポで、洗練された美しさを併せ持つ。確か以前、ロストロポーヴィチは、一般にこの箇所を過剰に歌いすぎること問題提起していたと記憶している。 |
ツボ9 |
テンポ変動なし。16分音符は良く聞き取れない。この後、503小節(15:43)からのティンパニの難所がパーフェクト! |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
弦は、聞えないくらいのピアニシシモで、ロシアの凍える冬を思わせる。それに伴いホルンも見事に美しい弱音で、全く間延びせずに歌いぬく。絡むクラリネットも実に繊細。オーボエも切ない! |
ツボ11 |
ふくよかに高揚。十二分に共感を込めながらも、見栄を切るような真似はしない。 |
ツボ12 |
クラリネットもファゴットもハイ・センス!楽譜に忠実でストレートに吹きながらニュアンスが滲み出ている。 |
ツボ13 |
直前でかなり長い間(ま)をとり、その呼吸を持ち込みながら、情感を保ったピチカートが一音ごとに丁寧に鳴らされる。 |
ツボ14 |
ティンパニの一撃が裸で突出せず、全体と見事にブレンド。ここでもティンパニ奏者の力量が窺える。ここからフォルテ4つまでのエネルギーの保ち方、緊張の持続、最高潮点での渾身の咆哮は、古今を通じて滅多に味わえない感動の瞬間! |
ツボ15 |
耽溺してボロボロになる寸前!極美のピアニッシモによるフレージングに言葉を失う。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
若干テンポを落としてから入る。全体のニュアンスにマッチした翳りのある奏で方が見事。 |
ツボ17 |
お互いによく聞き合ってじっくりと連携をとっていくので、ニュアンスもじんわりと染み出る。 |
ツボ18 |
見事な連携。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
いきなり止まりそうな超低速、超テヌート!にもかかわらず、深々とした呼吸は絶やさず、フォルムも美しい。このバランス感覚の凄さ! |
ツボ20 |
ホルンはほとんど裏方だが、テヌートで綿々と美しい背景を醸しだしている。 |
ツボ21 |
これもあまり例がない。最初にクレッシェンドして、その音量のまま最後まで通す。74小節から全ての音をテヌートで弾かせるのも独特。 |
ツボ22 |
全く無視。 |
ツボ23 |
鋭く突出はしないが、全体のニュアンスの範囲内で調和がとれている。 |
ツボ24 |
ほとんどテンポは変えていない。 |
ツボ25 |
強打ではないが、音楽的に響いている。 |
ツボ26 |
ここでもテンポは変えない。全体に遅めのテンポを採用した場合、再現部冒頭から一定のテンポで進み、自然な流れが築けることが多いようだ。 |
ツボ27 |
「きわめて速く」は採用せず、厳粛な宣告のように荘重なテンポで進む。 |
ツボ28 |
本来の音価より長めだが、遅いテンポの中なので、感覚的に長くは感じられない。 |
ツボ29 |
遅いテンポでとうとうと流れる弦のレガートが胸を打つ。 |
ツボ30 |
弦、トランペットもレガート。 |
ツボ31 |
改変なし。この辺だけ微妙に加速がかかるが、ティンパニもそのテンポに完全に合わせているので、指揮者の指示によるものだろう。これが奇異に感じず、ヴォルテージの高まりと見事に合致。恐るべき裏技! |
ツボ32 |
朗々と良く鳴っている。 |
ツボ33 |
インテンポで終結。4つの打ち込みは、ここでも全体と見事に溶け合っている。 |