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ジュゼッペ・シノーポリ |
ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団 |
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ローマ聖チェチーリア音楽院管
archivi-1937(8CD)
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録音:1996年2月25日 ローマ 【デジタル録音】 |
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演奏時間: |
第1楽章 |
14:59 |
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第2楽章 |
14:09 |
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第3楽章 |
6:11 |
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第4楽章 |
13:01(拍手込み) |
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カップリング(シノーポリの指揮による)/ベートーヴェン:「エグモント」序曲 |
“本物の呼吸と共感!チャイコフスキーの深層心理に優しく寄り添った名解釈!” |
ローマ聖チェチーリア音楽院管の自主制作盤からの一枚。明瞭な音の鳴らし方や、レガートを主体としたフレージングは一瞬カラヤンを思わせますが、その共感の方向性や歌のセンスは明らかに異なります。1992年盤と基本的な解釈は同じであることを考えると、演奏に望む際には完全に確信を持って練りきったものだけを表現したいたことが窺えます。楽想と楽想の間は常にゆとりをもって連動し、決して威嚇的な音で圧倒することなく、大河のごとく大きな音楽を構成しているのが特徴です。
シノーポリというとその医学的な素養から極度に細部を掘り下げた神経質な音楽を作るというイメージを持たれがちですが、ニュアンスのどこをとっても学術的な根拠を優先したような冷たさはなく、純粋な愛に満ち溢れています。
第1楽章冒頭のクラリネットの陰影には決して嘘がなく、後ろ髪惹かれるような憂いを湛えたカンタービレは美しさも感覚てきな訴えを超えて胸に迫るものばかり。終楽章167小節の高らかな運命動機の斉奏でテンポを落としたり、同じく再現部開始直後のテンポの入れ替えの指示も額面通りには受け取らず、自然なインテンポを貫く点、ことなどからも、大局的に直感的に全体像をイメージして音楽作りをしていたことが実感できます。
また、同じイタリア人同士として阿吽の呼吸で歌い上げる一体感もこの演奏の説得力の一因。「指示されたからそう弾く」という痕跡を感じさせない自発性が、この演奏の魅力に大きく貢献しています。
なお、カップリングのベートーヴェンの「エグモント」はよりコントラストが克明で、特に曲の出だしの鉛色の色彩からコーダの猛烈なスピード感まで、表現の幅の広さに圧倒され、「チャイ5」を降るシノーポリとは別人のようですが、いかに個々の作曲家と一体化を図れるか、そこがシノーポリの最大のテーマだったと思えてなりません。 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
クラリネットの音色は、隈取が明瞭な上に恐ろしく深淵。しかもテンポは超スロー。その中に細やかな陰影を可能な限り注入。弦とのブレンドも美しい。 |
ツボ2 |
テンポは中庸。リズムの刻み自体に憂いがあり、木管のテーマも音色は明るいのに不思議な暗さが宿る。 |
ツボ3 |
スラーは意識していない。 |
ツボ4 |
スコアに忠実なフレージング。デリカシー満点。 |
ツボ5 |
冒頭のfpは無視して、ここからテンポをわずかに落とし、スラーの囚われずに息の長いフレージングを敢行。 |
ツボ6 |
実にソフトで丁寧なフレージングに深い共感が滲む。ffでも音量はほぼ一定だが、束の間の幸せを見出したようなニュアンス。 |
ツボ7 |
ここでテンポを上げるが、ここまでの憂いを払拭はしない。 |
ツボ8 |
シノーポリの面目躍如たるハリのあるカンタービレ!豊かな表情が説明調に陥らず切々と迫る。 |
ツボ9 |
残響が多めなので冒頭の16分音符は曖昧だが、最後の力を振り絞るような一途なインテンポ進行で、独特の緊張感を生んでいる。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
弦の導入は、1992年盤同様一音ごとに表情が入念。響きの厚みも魅力的。ホルンは技術は万全。出だしだけは表情は固いが、次第にオケと渾然一体化して見事な広がりを感じさせる色彩を生んでいる。 |
ツボ11 |
大音量で突き刺すようなトゥッティは回避して、徹底的に歌を大前提落とした大きなフレージング。そのシノーポリの感性は、このイタリアのオケの特質と完全に波長が合致しており、説得力絶大。 |
ツボ12 |
クラリネットの音色は基本的に明るいがセンス満点!呼吸感が絶妙で、微妙な儚さがある。シノーポリの敷き詰めるニュアンスとピッタリ合った雰囲気作りが涙を誘う。 |
ツボ13 |
実にソフトな弱音!この直前までは、大きくテンポを落として極限まで壮麗な音楽を気付いているが、そのコントラスト効果も手伝って、一層胸に迫るものがある。 |
ツボ14 |
この直前のテンポの落とし方が尋常ではない!142小節冒頭のfffは1992年盤同様に強烈な打ち込みは避けているが、力感不足ではなく、あくまでも弦主体旋律美を際立たせるのに役立っていることを実感できる。ffffの頂点も爆発的ではなく、呼吸と一体化したフレージングの緊張感是素晴らしい。 |
ツボ15 |
デリケートで美しいカンタービレ。ヴァイオリンの旋律と呼応する低弦の輪郭が明瞭ならさらに素晴らしかっただろう。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
一旦テンポを落とすが、ファゴット奏者の間のセンスが絶品!入りはインテンポでありながらその直後に微妙に恩かを伸ばすことによって新たなシーンへの移行が流麗なものになっている。 |
ツボ17 |
残響が多いので細やかな音型が曖昧になりがちだが、決して高速ではないので、夢の様なニュアンスが広がる。特に管楽器の動きが面白い。 |
ツボ18 |
クラリねっとよりファゴットのほうが音量が強い。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
チェリビダッケばりのテンポの遅さ。音の重心も低いが、ニュアンスに深刻さはなく、しなやかな歌心が着実に息づいている。 |
ツボ20 |
ホルンはほとんど裏方。 |
ツボ21 |
ティンパニは58小節と62小節、66小節でアクセントでアクセント。テンポはカラヤンに近く、響きのバランスもカラヤンに似ている。90〜94小節のオーボエの主旋律が完全に抜け落ちている |
ツボ22 |
アクセントは無視。 |
ツボ23 |
残響が多いにもかかわらず、量感がしっかりと伝わってくる。 |
ツボ24 |
主部冒頭と同じテンポを採用。 |
ツボ25 |
鈍いが不満は感じさせないl. |
ツボ26 |
そのままインテンポ。 |
ツボ27 |
落ち着いたテンポで格調高く進行。452小節から更にガクッとテンポを落とす。 |
ツボ28 |
8分音符の音価はスコア通り。最後にティンパニは軽くアクセントを置く。 |
ツボ29 |
全休止はやや長めだが、直前のパワーを持ち込まずに流麗な音楽を流すことに徹していることを考えると、その空白の長さは納得でき、唐突に別の音楽が始まるような違和感もない。モデラートのニュアンスを最大限まで広げ、完全に視界の開けた悠然たる流れを築く。481小節の弦の3連符は殆どの場合文字通りの均等な3連音として奏でられるが、ここでは全ての音を感じきっていることにご注目を。 |
ツボ30 |
弦もトランペットも音を切って入るが、決してエッジは立てない。 |
ツボ31 |
改変版。驚くべきことに、この499小節から約2小節間アッチェレランドを掛け、502小節で再び元のテンポに戻るという操作を行なっているが、これはステレオ初期のワルター・ゲールとほぼ同じ手法! |
ツボ32 |
明瞭に響いているが、野人的な凄みとは一線を画す。 |
ツボ33 |
1992年盤とのニュンンスの説得力の差が歴然。560小節付近で加速するのは同じだが、最後の2小節でテンポを落とすタイミングが実に自然。 |