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トゥガン・ソヒエフ |
トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団 |
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Naive
V-5252(1CD)
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録音:2010年7月 ラ・アル・オ・グレン(トゥールーズ) |
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演奏時間: |
第1楽章 |
14:39 |
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第2楽章 |
13:18 |
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第3楽章 |
5:42 |
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第4楽章 |
11:50 |
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カップリング/ショスタコーヴィチ:祝典序曲 |
“ロシア流儀を押し付けず、フランス的な洗練味と合体した新鮮なニュアンスが横溢!” |
数々の名盤が乱立する中で、かつてない感動に出会えることは望外の喜びですが、その感動が、指揮者の斬新なアイデアによってハッとさせられる瞬間が多いという事実に起因する場合と、そのアイデアが目的化せずに作品へのひたむきな愛情を誠実に表現するための手段に使い尽くされている場合の、という違いがあるとすれば、この演奏は明らかに後者。ソヒエフは、誰の亜流でもない独自の感性を携え、その感性とスコアの指示をがっちり結合させて一貫性と緊張感に満ちた見事なドラマを築きあげています。
フランスのオケによる「チャイ5」は、ショルティ&パリ音楽院盤など数える程度しか存在しないという点でもこれは貴重な録音ですが、そのフランス的なしなやかな機能性と柔らかな感触をもソヒエフ自身の音楽表現の大事なファクターとして生かし切っている点も見逃せません。音楽の根底には終始逞しい精神を宿らせつつ、音色自体は洗練さが保たれ、その調和によって生まれるニュアンスが常に瑞々しさを湛えているのです。
スコアの掘り下げの深さも驚異的。それは決して理詰めではなく、各楽想の意味を感知した上で確信を持って音に表現しているので、説得力が違います。例えば第1楽章展開部267小節でホルンと木管が唐突にフォルティッシモで咆哮しますが、これはきちんとスコアに書かれている指示。単に聴き逃していただけかもしれませんが、過去の演奏でここではっきりとその事実を打ち出し、ここから第ニの展開部が幕を開けるような衝撃を引き出した演奏は皆無!これに象徴されるように、強弱の変化によってもたらされるニュアンスの変化に敏感に反応し、それをセンスよく統合する手腕はソヒエフの最大の魅力と言えましょう。
その他、以下のように聴きどころは満載ですが、終楽章コーダの締めくくりの妙まで、ソヒエフの閃きに満ちた表現、オケのコントロール能力の高さを存分に感じ取っていただきたいものです。ただ一点、第1楽章冒頭のクラリネットをあえて一人で吹かせている意味だけは、どう考えても不明。どなたか謎解きしてください。
なお、カップリングの「祝典序曲」がこれまた超名演!ただのお祭り騒ぎではない、これほど美しく華やぐ演奏がかつてあったでしょうか? 【湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
何と冒頭のクラリネットは一人で演奏!ポツンと一人取り残されたような孤独感を表出するためかとも思うが、そのフレージングは一時代前にタイムスリップしたような非常に濃密なアゴーギクが駆使されており、弦の食い込み方も主張が明確なことを考えると、クラリネット一本の意味合いは別のところにあるようだ。しかし、作曲者の指示を退けてまで行なう必然性は感じられない。 |
ツボ2 |
テンポは標準的だが、弦の刻みは慰めるような柔らかな感触。クラリネットとファゴットのユニゾンは完全に調和。リズムは洗練されているが、常にデリカシーがあり、曲想のニュアンスが深々と迫る。 |
ツボ3 |
スラーは特に意識していない。 |
ツボ4 |
羽毛のような軽い感触のスタッカート。オケの持ち味が生きている。 |
ツボ5 |
スフォルツァンドはエッジを立てず、角の丸みを持たせて切なさを表術。強弱変化と呼吸が見事に一体化し、しかもその振幅にはあざとさがないので、安定感は抜群。 |
ツボ6 |
これは画期的にして感動的!124小節の8分音符では既に音量を落としているが通常だが、続く付点2分音符までを克明に浮上させ、(しかもスコアの強弱指示うぃ生かし切ったニュアンスの揺らぎを引き出している。 |
ツボ7 |
決然としたピチカートを皮切りに、吹っ切れたような推進性を見せる。 |
ツボ8 |
ここもオケの洗練美が功を奏し、美しいフレージングを実現。 |
ツボ9 |
冒頭は完全に埋没。ここまで颯爽と進行を続けて来たが、ユニークなのは、この先503小節から突如音の重心を下げ、脂ぎったテヌートを駆使しながらロシア臭を徹底的に醸しだして締めくくる点。晩年のスヴェトラーノフのライヴのよう。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭の弦のブレンド感が最高!弱音に囚われず、音の深みを徹底追求し、広大なロシアの大地が眼前に広がるような見事な音像を実現している。ホルンがまた絶品。奏者のセンスか、ソヒエフの指示によるものなのか、とにかく強弱指示をここまで遵守した演奏は珍しい。また、ソヒエフが醸し出す前へ進むのを拒むような憂いのあるテンポ感と完全な調和を取りながら、一切先走るすることなく歌いぬくのは見事というほかない。なお、ヴィブラートはほとんどなし。 |
ツボ11 |
これまたソヒエフの感性の鋭敏さに脱帽!フォルテ3つの指示でも、心の奥底でぎりぎりまで膨れ上がった切ない情感が一気に吹き出すという微妙なニュアンスを出すには、ここでの演奏のように半分だけ脱力したような絶妙なダイナミズムの制御が必要だということを再認識させる。 |
ツボ12 |
クラリネットにもファゴットにもこれみよがしな表情を付けず、軽いカデンツァのように扱っているが、それぞれが今まで築いてきた音楽の余韻を感じた演奏を行なっており、決して軽く受け流した演奏ではない。 |
ツボ13 |
弦の質感、縦の線の揃い方、共に上質。 |
ツボ14 |
まさに大人の解釈!見栄を切ったり、フォルテ4つの頂点でトランペットを突出察せるなどの手段に走らず、全体の調和をと持ちながら大きなフレージングを繰り広げている。 |
ツボ15 |
幸福感一杯なフレージング。弦の質感も美しい。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
わずかにテンポを落とすが、それだけでなく、直前の弦をリテヌートして、しなやかな伏線を張る細やかな配慮に感服。 |
ツボ17 |
声部間の交代、連携の絶妙さ! |
ツボ18 |
美しいラインを形成。フォルティッシモの指示は生かしていない。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
テンポは標準的。レガート全体に風格があるが、第1楽章コーダのような重戦車モードではなく、希望をを反映した響き。 |
ツボ20 |
ホルンは裏方に徹しているが、主役のオーボエとのハーモニーが美しい。 |
ツボ21 |
ティンパニはスコア通り。テンポはカラヤンに近い標準的なものだが、安定感が破格!70小節からのホルンのスフォルツァンドがただの突出ではなく、これほど美しく浮上した例は過去にほぼ皆無! |
ツボ22 |
完全に無視し、その代わりに全体をスラーで統合して息の長いフレージングを築いている、 |
ツボ23 |
低弦は量感たっぷり。続くクラリネットが驚きの明瞭さ! |
ツボ24 |
主部冒頭と同等のテンポ。 |
ツボ25 |
強打ではないが、よく通る良質な一撃。 |
ツボ26 |
そのままのテンポ。 |
ツボ27 |
快速進行。金管の斉奏はブレスの位置を感じさせない素晴らしい疾走感!まさにここはこうあって欲しい! |
ツボ28 |
スコアの音価よりもやや長め。最後にティンパニの一撃は無し。 |
ツボ29 |
全休止で緊張を途切れさせることなく、同じテンポで進行。弦の質感は相変わらず上質で、品格のあるレガートを実現。 |
ツボ30 |
弦は終始レガート。トランペットは音を切る。このトランペットのアーティキュレーションには疑問符がつく。 |
ツボ31 |
スコアどおりで改変なし。 |
ツボ32 |
テヌートを効かせ、明瞭に鳴り響く。 |
ツボ33 |
最後までインテンポで決然と締めくくるが、最後の最後で前代未聞の技が出現!562小節で一旦一呼吸を入れてから最後の3小節を結び、かつ最後の4つの四分音符の全てに強烈なアクセントを施して、遂に人生の全ての肯定に至ったような確信に満ちた結末を迎える。 |