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若杉弘(指)ケルン放送交響楽団 |
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Altus
ALT-203
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録音年:1982年10月29日 ザール1(ステレオ・ライヴ) |
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演奏時間: |
第1楽章 |
15:12 |
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第2楽章 |
13:12 |
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第3楽章 |
:37 |
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第4楽章 |
11:59 |
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カップリング/ハイドン:交響曲第99番(1979年9月15日 ステレオ・ライヴ) |
“モーツァルトと変わらぬ熱い共感!これぞ若杉の美学の真骨頂。” |
これはあのケンペ&BPOのような木目調の風情とハーモニーの美しさを重視するファンにはたまらない名演奏!以前にFMで流れたウィーン響との「第4番」では、若杉のアプローチはベートーヴェンなどのドイツ音楽の時と基本的に変わらず、リズムの重心を低く保ちながら、丹念にフレーじジングを重ね、律儀にハーモニーを積み上げていくその姿勢が、パワー炸裂型が似合う曲調とあまりにもかけ離れてりていたのに驚き、ベーム以上にベームっぽかったのが忘れられませんが、この「5番」もほぼ同様。一般にイメージされる金管の咆哮や、テンポの加速といった小手先の興奮ではなく、本当の意味での純音楽的な美しさと味わいを紡ぎ出すことに愚直なまでにこだわっています。全てのフレーズ、楽想が本来そうあるべきという美しさを伴って発せられるので味わいと説得力が尋常ではないのです。この演奏でかけるものがあるとすれば民族的なローカル色ですが、それは演奏において些細なスパイスでしかないことも改めてここで痛感させられます。金管の強奏は、一件排除されているように感じられますが、これを聴けば、いかに他の演奏が金管を主役にしすぎているか実感できます。しかも、第2楽章終結部直前や、終楽章コーダなど、ここぞという核心部分では躊躇なく金管を全面に立てているので、若杉がいかに安易なイメージに囚われずにあるべき姿の再現に心を砕いているかわかります。第1楽章展開部の弦のハーモニーは比類なき有機的なブレンド見せ、深みも満点。若杉自身の敬愛していたケンペを彷彿とさせるのが第3楽章。遅めのテンポで優雅な気品が漂います。ただ、「あるべき姿」と言っても、そこに本物の共感がなければ説得力がでるはずもありません。その点でも若杉のアプローチは迫真のもの。例えば、拍節の一つ一つが決して杓子定規ではなく、微妙にずれて刻まれるのを至る所で確認できますが、それと共に溢れ出すフレージングは、まさに感情剥き出し路線とは対極にある、心底溢れ出す共感の証しなのです。 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
やや遅めのテンポ。暗い詩情をたたえるクラリネットに加え、厚い弦がしっかりと主張。全体にレガート主体だが嫌味のない気品を感じさせる。 |
ツボ2 |
ややテンポ。リズムを着実に着地させ、先を急がず丹念に進行。クラリネットがやや素朴すぎるが、その後のフルートも含め、遅いテンポによく乗って、音楽を十分に感じながら歌っているのがわかる。 |
ツボ3 |
スラーは意識していないが、デリカシーが持続しており、優しく語りかける。 |
ツボ4 |
スラーで繋がった8分音符はテンポこそ落とさないが、後ろ髪をひかれるような憂いが込められ、フレーズが横にスーッと流れる現代的な運びとは一線を画す。 |
ツボ5 |
イン・テンポのまま凛とした表情で進行するが。微妙にテンポを伸縮させるセンスが素晴らしい。 |
ツボ6 |
フォルティッシもは強調せず、今までの気品を維持。強弱の克明な表出よりも、呼吸の深さで勝負。 |
ツボ7 |
木目調の味わい。ここでもテンポをキープし、その直前のシーンも含め、ピチカートの可憐な呟きは、いちいち心を捕らえる。 |
ツボ8 |
ここまでが相当遅いテンポで一貫しているので、ここから更にテンポを落とすことは回避。「極めて表情豊かに」という指示を拡大解釈せず、まさに抑制の美学で見せつける。 |
ツボ9 |
冒頭16分音符は、明確に聞き取れる。テンポは不変。この遅いテンポのままで緊張感と味わいを醸し出し得る手腕は、やはり本物であると再認識。 |
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第2楽章のツボ |
ツボ10 |
このオケの言のクオリティの高さを認識。他の部分にも共通するように、特に低減の主張が強いにもかかわらず、決してバランスを欠かないのは、若杉の配慮とオケの持つ自然なバランス感覚の相乗効果によるものだろう。ホルンは、楽譜どおりに丁寧に吹いているという範囲の印象だが、この光りすぎない演奏が、今まで気づいた演奏にはむしろ相応しい。 |
ツボ11 |
もちろん威嚇的なフォルティシシモではないが、全体に呼吸バランスが絶妙で、大きなスパンでフレーズを捉えることに成功。 |
ツボ12 |
ここでもクラリネットはやや明るく素朴だが、続くファゴットはなかなかの深みを見せる。 |
ツボ13 |
このピチカートもまろやかな味わい。直前のトゥッティはワーグナーのごとき壮大さを見せつけるのが意外だが、これが後のピチカートと見事に対比をいなしている。 |
ツボ14 |
一切大見得を切らずに頂点に達する職人芸! |
ツボ15 |
弦のフレーズは比較的淡々と進行させるが、裏のホルンのリズム打ちも含め、全体で安息の雰囲気を確立している。 |
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第3楽章のツボ |
ツボ16 |
入りでわずかにテンポを落とす程度。 |
ツボ17 |
小気味良くスタスタと進行することがないのが若杉ならでは。推進性よりも温かい風情を重視して疑わない純朴な精神はケンペを彷彿とさせる。 |
ツボ18 |
決してスムースではないが、この演奏の中にあっては取るに足らないこと。 |
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第4楽章のツボ |
ツボ19 |
テンポは標準的。特に特徴はなし。 |
ツボ20 |
ホルンはほぼ裏方。ただ、冒頭部分も含め、どの楽器を突出させるかではなく、全体をいかにあるべきバランスで美しく響かせるかを至上命題とする若杉の姿勢は、この段階ですでに十分すぎるほど徹底しており、ここでもそれを粛々と実行しているだけだと考えると若杉の偉大さを更に痛感。それほど楽器感のバランスは完璧! |
ツボ21 |
主部のテンポはやや遅め。ティンパニはトレモロのまま。表面的に興奮を煽ることを徹底して嫌う若杉らしい厳格な進行。しかし、その音に緊張感がなければ何の感興も得られないが、そういうツボは外さないので、独特の手応えがある。 |
ツボ22 |
完全に無視。 |
ツボ23 |
強力な張り出しはないが、猛獣のように唸りがここで登場すると、逆に奇異に感じられるだろう。 |
ツボ24 |
完全にイン・テンポ。 |
ツボ25 |
やや弱いが、全体へのブレンドが感じられる。これは滅多にないこと!直後のトロンボーンの張り出しがかなり強烈あのも特徴的。 |
ツボ26 |
そのままイン・テンポ。 |
ツボ27 |
他のどの演奏よりも金管を抑えてているが、そこに恣意性は感じられず、弦楽器の動きを掻き消さない自然な配慮として感じられ、その後はその特徴が一層顕著となり、弦と金管とティンパニのトレモロが完璧なバランスで制御されていることに驚かされる。 |
ツボ28 |
8分音符はほぼ本来の音価どおり。ティンパニは思い切って主張するが、露骨ないやらしさがない。最後に一撃のアクセント有り! |
ツボ29 |
弦にはスラーば付いていないことを再認識。ただ書かれているとおりに音を発しているようで、共感は並々ならぬもの宿っている。 |
ツボ30 |
弦もトランペットも音を切る。 |
ツボ31 |
改変型。502〜503小節でついにこの演奏最大のヴォルテージを示す。 |
ツボ32 |
いかにもドイツ風深遠な響き! |
ツボ33 |
遅めのテンポで、内燃パワーを最大限に熟成させた感動的な結末。最後の最後まで完全イン・テンポ! |