|
ドリアン・ウィルソン(指)東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 |
|
LIVE NOTES
WWCC-7625 |
録音年:2008年10月17日 東京オペラ・シティ・コンサート・ホール(デジタル・ライヴ) |
|
演奏時間: |
第1楽章 |
15:40 |
/ |
第2楽章 |
13:56 |
/ |
第3楽章 |
6:14 |
/ |
第4楽章 |
12:47 |
|
カップリング/ムソルグスキー:「ボリス・ゴドノフ」〜序奏とポロネーズ、R・コルサコフ:組曲「金鶏」〜シュマハ女王の踊り-ドドンの踊り |
“紳士的な迫力を備えた大人のチャイコフスキー!” |
衒いのオンパレードだったヤンソスンス盤と偶然にも同時期に耳にしたこの演奏。そのヤンソンスとは音楽性、オケに対する自身のヴィジョンの浸透のさせ方、作品への愛情・愛情のみならず、そもそも音楽をするモチベーションからして根本的に異なっていることを痛感させられます。ここでもまず反論から始めなければなりません。レコ芸誌の月評での「大人しい演奏」という論評にとても違和感を覚えるのです。ブラームスよりも後の大きな編成の交響曲では響きが飽和状態になりがちなオペラ・シティ・ホールでの録音なので、ソリッドで明瞭な録音とは言いがたく、感覚的には迫力不足と思えるのかもしれません。しかし、空虚な響きの入る込む隙がないほど出てくる音の一つ一つに愛情が宿り、造形力も揺るぎなし。何よりも根底に宿る意思が頑丈なので、作品自体が持つ味わいが確実に紡がれ、一見地味ながら、どこを取っても優等生的な無難さには収まらないセンスを結実させた素晴らしい演奏なのです。カリフォルニア生まれのウィルソンは決して華々しい経歴の持ち主ではありませんが、幼少期からロシア音楽に深い共感を持ち続けてきたという、このCDの宣伝文句にも大きく頷け、掛け値なしで推奨したい逸品です。 |
|
|
第1楽章のツボ |
ツボ1 |
クラリネットはフレージングの余韻をしっかり感じながら進行。弦の醸し出す音増と共に、暗雲から抜け出そうとする意志の強さを感じさせる。 |
ツボ2 |
テンポは標準的。弦は機能性こそ高くはないが、切々と心を込めたフレージングは本物。 |
ツボ3 |
わずかにポルタメントが掛かるが嫌味ではない。 |
ツボ4 |
スコアどおり。 |
ツボ5 |
まさに共感そのもの!一見何の変哲もないフレージングだが、胸に秘めた抑えがたい衝動のやり場のなさをまざまざと感じさせる素晴らしさ! |
ツボ6 |
フォルティッシモでも声高にむせび泣くことはないが、簿妙な感情の陰影が伝わる。 |
ツボ7 |
テンポはわずかに速める程度で、強烈なコントラストは回避。優しい憧れに満ちたピチカートのニュアンスにもご注目。再現部はさらに素晴らしい! |
ツボ8 |
大きくテンポを落とす。その移行は多少ぎこちないが、弦は惰性で鳴っている箇所は一つもなく、愛情の限りが尽くされている。 |
ツボ9 |
冒頭は完全に埋没。そのままイン・テンポ。内面で熟しきった感情を強固に凝縮した響きが素晴らしい。 |
|
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
弦の導入は自然な流れで、第2ヴァイオリンの入りもしなやか。ホルンは巧味には欠けるが、音楽を十分に感じ、木管との連動も美しい。 |
ツボ11 |
冒頭のフォルティシシモを精力満点の爆発ではなく、しなだれるような感情を振り絞って立ち上がる状態として捉え、今までの音楽の築き方との一貫性を痛感。このように内なる感情も吐露できず、思い切った爆発もできないどっちつかずの演奏が実に多い。 |
ツボ12 |
クラリネットは表情が硬すぎるが、それを取り巻く他の声部のニュアンス作りの何と素晴らしいこと!ここから108小節のピチカートに至るまでの音楽の充足感は格別。 |
ツボ13 |
このピチカートは聴きもの!音量は弱音寄りに抑制しているが、ただの弱音でないことは言うまでもなく、こんな切なさと一体となったピチカートは久しぶりに耳にした。 |
ツボ14 |
大伽藍のような強靭さはないが、素直なフレージングを崩さず、フォルテ4つの頂点直前の呼吸のためも着実で、全体の大きな流れを見据えた素晴らしい構築。 |
ツボ15 |
裏のホルンの刻みと一体となってに実に丁寧なフレージング。 |
|
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
テンポを落としてからファゴットが入る。 |
ツボ17 |
もう少し潤滑油の効いたアンサンブルを望みたくなるが、全楽章を通じて一貫している音の余韻を感じながらの進行にはマッチしており、もどかしさはない。 |
ツボ18 |
一本のラインで美しく連動している。 |
|
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
テンポは標準的なものよりやや速め。品格と威厳を兼ね備えた響き。 |
ツボ20 |
ホルンは完全に裏方しているが全体のブレンド感が良く、テンポとの均衡が保たれているのが特色。ティンパニのトレモロ開始前の大きな構えは実に壮観。 |
ツボ21 |
中庸のテンポながら、重厚さ確実に表出し、真に威風堂々たる進行を実現。その後は決然としたインテンポが続く。ティンパにはスコアどおりにクレッシェンドを行い、62小節でアクセントあり。 |
ツボ22 |
アクセントは完全に無視。 |
ツボ23 |
録音の特性上、音の輪郭は不明瞭だが、入魂のフレージングを実現している。 |
ツボ24 |
主部と同じテンポ。 |
ツボ25 |
鈍い一撃。 |
ツボ26 |
一段テンポを落としてから主部冒頭と同じテンポへ戻る。 |
ツボ27 |
テンポは安定感が抜群で、トランペットのピカピカと輝きすぎない音色がこれまた曲想にマッチ。 |
ツボ28 |
音符本来の音価よりもかなり長めに引き伸ばす。 |
ツボ29 |
品格と味わいに満ちた進行。 |
ツボ30 |
弦は明確に音を切るが、トランペットは曖昧。 |
ツボ31 |
トランペットを弦の動きと合わせる改変型。この改変を採用すると音楽が安易に緊張の解放へ向かってしまう演奏が多い中、ウィルソンの指揮は気高さを保持している点は画期的! |
ツボ32 |
明瞭に鳴り響き、、全体との調和も良好。 |
ツボ33 |
最後の4小節でテンポを落とすが、決して大向こうを狙わずに意志の力のみできちんと終結。 |