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野生のしらべ |
エレーヌ・グリモー:著、北代美和子:訳 |
ランダムハウス講談社 |
税抜\1,700 |
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“グリモーの人並みはずれた鋭敏な感性の結晶!” |
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フランスの名ピアニスト、グリモーの幼い日の思い出から、音楽院時代の体験、音楽観、彼女が強い関心を持ち続けているオオカミとの共同生活(NHKでドキュメンタリーが放送された)についてなど、彼女のありのままの姿を綴った一冊。幼い頃から、人と違った感性を持ち合わせていることに気付き、他に迎合することも嫌ったグリモーは、そんな自分に苛立ちながらも、自分だけの独特の感性に次第に確信を持つようになり、それがやがて、ピアニスト、グリモーを生む大きな土台になったのでした。最初に彼女にピアノ芸術の素晴らしさを教えたのは、ピエール・バルビゼ。彼の言葉の一つ一つから途方もないエネルギーをもらったと、彼女は語っています。レオン・フライシャーのマスタークラスへの参加時の心温まるエピソード、バレンボイムによる励まし、ジャック・ルヴィエが、レコーディングのため来訪していたデンオンのプロデューサーに彼女の演奏のカセットテープを渡したことがきっかけで、デビューアルバム誕生となる話もとても興味深く読めました。音楽院では、信念を曲げない彼女の性格が災いして、教授陣との対立もあったようですが、その戦いの中で潰れてしまうような芯の弱さなど彼女にはないのです。才能と幸運がバランスよく運命に働きかけるのは、大成したアーチストのほとんどに言えることですが、それ以上に彼女の場合は、常に「人とは違う」という意識に苛まれながら、力強く信念を通す活力に、女性という性を超えた逞しさも大きな活力になっていると感じずにはいられません。不当に人間から敵視されているオオカミへの共感も、彼女自身の性格、境遇との共通点を自然に見出したうえでの、自然な行動なのでしょう。なお、プロムスで涙しながら弾いた、ベートーヴェンの第4協奏曲(共演はエッシェンバッハ指揮のパリ管)の思い出も登場しますが、これはクラシカ・ジャパンでも放映され、実に素晴らしい演奏でした。 |
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〜本文中の名言〜 |
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・前もって試演をしておくというのは、本当にばかばかしい考え方ね(中略)想像していた高みに達することが本当に必要なのは、何かを最初に演奏するときよ-マルタ・アルゲリッチ(305頁)※アルゲリッチがグリモーに語った言葉。グリモーも一つの作品を何度も練習するのを好まない。 |
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・芸術家は全てを演奏しなければならないと言われることがある。なんと奇妙な考え方だろう!私たちは機械なのか?-エレーヌ・グリモー(188頁) |
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