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チャイコフスキー:交響曲第5番〜全レビュー
TCHAIKOVSKY : :Symphony No.5 in e minor Op.64
ジョン・バルビローリ(指揮)
Sir John Barbirolli



掲載しているジャケット写真と品番は、現行流通盤と異なる場合があります。あらかじめご了承下さい。



チャイコフスキー:交響曲第5番
ジョン・バルビローリ(指)
ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ:
Barbirolli Society
CDSJB-1007
録音:1939年11月 ニューヨーク州ユティカ市(モノラル・ライヴ)
演奏時間: 第1楽章 13:30 / 第2楽章 12:43 / 第3楽章 4:59 / 第4楽章 11:02
カップリング/シューマン:交響曲第4番('37)
“トスカニーニ・モードに流されず独自の美学を貫いたバルビローリの手腕!”
録音年代やバルビローリのイメージから、こってりとした耽溺的な演奏を想像しがちですが、実際の演奏はまさにそれと正反対。ポルタメントや即興的なアゴーギクは意外なほど登場せず、前任者のトスカニーニを思わせる直截なダイナミズムと、熱いカンタービレで埋め尽くされ、気高い精神が全編に漲っています。第1楽章は、提示部と再現部の冒頭のみ標準的なテンポですが、展開部を頂点としてテンポはかなり速く、そのテンポが一人歩きせずに確かな表情を伴って迫るのは、バルビローリにこのオケが十分心酔し切っていることの証しでしょう。第2楽章は、熱いカンタービレの応酬!特にクラリネットソロで始る中間部以降の音の凝縮力、確信に満ちたフレーズと色彩放射力は、ストコフスキーを連想させるほど。第3楽章は4分台という高速テンポ。一つ振りによるスウィング感が、見事に華やぎ醸し出しています。終楽章の逞しい造形力にも、一部の隙もありません。最後にはバルビローリらしい凝りに凝ったテンポ設定が登場しますが、これが実に見事に決まり、不思議と時代掛かった臭いを感じさせずに、この曲にふさわしい大団円を築いています。トスカニーニという巨人の後を受けてのバルビローリの抜擢は、必ずしも大歓迎というわけではなかったそうですが、これを聴く限り、強力なコンビネーションが完成されていると感じずにはいられません。この終楽章は、短縮版を採用しています。音の良さも、年代からして信じられないほどです。一部にパチパチというノイズ(第1楽章と第2楽章の各冒頭くらい)が混入し、第3楽章の冒頭では、なぜか電話のベル音が聞こえる(どんな会場なんでしょう?)ハプニングもありますが、擬似ステレオ的な効果と程よい残響の付加が見事に功を奏し、自然な臨場感が得られ、色彩のニュアンスまでリアルに伝わってくるのですから、有難い限りです。【湧々堂】
第1楽章のツボ
ツボ1 テンポ自体は中庸だが、クラリネットも弦もフレージングが即興的で、表情が極めて濃厚。音価は決して一定ではない。クラリネットの色彩も裕だが、。それ以上に、弦の発言力が絶大。フォルテの指示を忠実に守ることで、弱音一辺倒のすすり泣きを回避。
ツボ2 クラリネット&ファゴットのフレージングが後ろ髪を引かれる様に粘る。
ツボ3 予想に反し、ポルタメントは掛けないが、実に甘美。
ツボ4 このスラーの箇所でのデリケートな風合いが印象的。
ツボ5 これまた意外!前の部分から敢然とインテンポで直進フォルツァンドは考慮せずにそのままクレッシェンドするので、独特の推進力を生んでいる。
ツボ6 animatoの箇所で少しテンポを落とす程度。ここもスフォルツァンドを無視して一直線だが、無機質にならず、音が結晶化している。
ツボ7 カラフル!古い録音からこれほど華やぎを感じるのは驚異!展開部では更に、ビシッとキマる。
ツボ8 かなり強拍を強調しているので、一段と推進力が増している。強弱の振幅は大きくとらず、常に強音気味で輝かしさを表出。
ツボ9 前のテンポが相当速いが、ここから更に速める。しかも16分音符が明確に立ち上がって聞こえる!この後、更に加速して、最後に徐々にリタルダンドして終わる。
第2楽章のツボ
ツボ10 弦の導入は弱音にこだわらず、意志の強さを漲らせた濃密なフレージング。ホルンも味わい深く心に染みる。ヴィブラートが強いが、嫌味ではない。
ツボ11 ここもインテンポだが、表情がふくよか。
ツボ12 素朴な味わい。テンポは特に変えていない。
ツボ13 強靭なピチカート!しかしすぐにディミニュエンドを開始し、アルコのフレーズがやや強めに決然と飛び込むこのコントラストの妙!ストコフスキー的な色彩が横溢。テンポの急緩も絶妙。
ツボ14 ここからテンポを一段落として、深い呼吸で見事な頂点を築く。テンポ変動と呼吸が見事に一体化している。
ツボ15 濃厚で充実した響きのカンタービレ。
第3楽章のツボ
ツボ16 一瞬ガクッとテンポを落として吹き始める。
ツボ17 弦が走り気味だが、楽しい音の大パノラマ!
ツボ18 かなり歯抜けで笑える。
第4楽章のツボ
ツボ19 最初の弦の響きの充足感が見事。風格も万全。テンポは標準的。
ツボ20 ホルンはほとんど裏方に徹している。
ツボ21 ティンパニは最初に一山を築き、一打加えてからトレモロ。テンポは平均的なものだが、響きは凝縮され、見事な緊張をかもし出す。
ツボ22 多少アクセントが付く。
ツボ23 210小節から再現部の315小節までをカット。6年後のロジンスキー&NYO盤でも同じ箇所していた。
ツボ24              〃
ツボ25              〃
ツボ26              〃
ツボ27 直前でテンポを落としておいて、その倍のテンポで始める。436小節からもとのテンポに戻る。452小節と454小節で、ティンパニに一打追加あり。これもロジンスキーと同じ。
ツボ28 本来の音価よりかなり長い。
ツボ29 弦も風格美満点だが、トランペットの符点リズムがパーフェクト!バルビローリらしいこだわりを感じる。
ツボ30 弦もトランペットも音を切る。
ツボ31 よく聞き取れないが改変はしていないものと思われる。501〜503小節まで、空前絶後のテンポ・ルバート!その後の超高速テンポがこれによって引き立たせている。その後のテンポ設定も絶妙の極み!。
ツボ32 良く鳴っている。のモルト・メノ・モッソ(9:54)からは再び荘重なテンポに切り替え、次第にアッチェレランドする。
ツボ33 最後の4小節でまたもやテンポを落として、格調高く終える。


チャイコフスキー:交響曲第5番
ジョン・バルビローリ(指)
ハレO
第2楽章ホルン・ソロ:
TreasuresTRT-023(1CDR)
録音:1959年3月30日-31日月 マンチェスター・フリー・トラッド・ホール(ステレオ) ※原盤:Pye
演奏時間: 第1楽章 14:55 / 第2楽章 12:40 / 第3楽章 5:42 / 第4楽章 11:57
カップリング/モーツァルト」「魔笛」序曲、ワーグナー:「タンホイザー」序曲、チャイコフスキー:スラブ行進曲
敵なし!バルビローリならではの怒涛のロマン!
NYO盤は、ここぞという箇所以外はテンポの揺れを抑え、逞しい精神が漲る名演でしたが、基本ラインはこちらも同じ。随所に弦のポルタメントを挟むなど、ややロマン的なニュアンスに傾斜していますが、テンポ自体は一層正当的なものになり、過度に感傷的なニュアンスに陥らない配慮も変わりません。第1楽章で、特に展開部に照準を合わせて、テンポ加速とともに激情を過熱させるのもNYOと同じ。全楽章を通じで一貫したコンセプトを感じ、共感の熱さも並々ならぬものを感じます。
 第1楽章第2主題でのテンポを落とさなず一気呵成を貫くのは、聴き手の期待から少しズレたアプローチをするバルビローリらしさですが、副次主題(5:32〜)では、バルビローリならやってくれるだろうという期待以上のむせ返るようなポルタメントの大放出!ただそれが、お上品なのレガートに流れない点にご注目。その直後の猛烈な突進力にも唖然としますが、その勢いを温存したまま弾丸モードで進行する展開部以降は手に汗握ること必至。コーダにおける決死の熱さは、逆に寸分の隙もない高性能なオケだったらなら醸し出されなかったかもしれません。
 第2楽章は、素朴な愛の告白の連続。表面的な美などどこにも存在しません。中間のクラリネット・ソロの後に現れるチェロのフレージング(5:26〜)は絶妙な強弱を交えてリアルに感情を吐露するねど前代未聞。そして、8:47以降のヴァイオリン群の弦が切れんばかりの夢中な歌いっぷり!一流オケによる数々の名盤を思い返しても、これほど音楽の本質を抉ったアプローチはなかったと思います。まさに体裁など二の次のバルビローリ節の真骨頂と言えます。
3楽章は、バルビローリ独自の色彩力が開花。コーダのティンパニを軸とした強烈なパンチ力はこの復刻を通じて初めて認識。
 CDではとかくこのティンパニの音は細身で硬質に感じられましたが、本来はこのように男性的な逞しさを湛えたものだったのです。
それをさらに痛感するのが終楽章。テンポこそ中庸ですが、ニュアンスは常に勇猛果敢を貫き通しますが、全休止直前は世界の終わりの如き絶叫!それだけならまだしも、多くの演奏が小さくしぼんでしまう全休止後においても、音の張りと輝きを後退させない凄さたるや他に比類なき成果で、それを実現させているのも愚直な愛だけというところに、本物の芸、本当の美を感じずにはいられません。【2024年6月(修正,追加)・湧々堂】

※以下は以前に正規盤(EMI:763962)を聴いた上でのコメントですが、オケの技術的な不完全さが演奏全体が低水準のようにしか伝わらないことが多いCD化の弱点を象徴していますので、あえて併記しておきます。
ただ、ここでのハレ管の響きはやや量感、重量感に欠け、全体の響きも、ティンパニが硬い響きで強打される箇所以外は、雑然とした印象が最後まで拭えません。第2楽章や終楽章は、構築の妙が光り、終楽章最後の4小節の響きは、素晴らしく凝縮し切っているだけに、素朴なニュアンスばかりが目立ってしまうのが残念でなりません。
第1楽章のツボ
ツボ1 テンポ自体中庸。クラリネットの音色が、2管の効果とともに暗い色彩を見事に表出。弦も入念に表情が付いている。
ツボ2 冒頭は、バルビローリ特有の短めのスタッカート。クラリネット&ファゴットは線が克明。悲哀よりも素朴さを感じる。
ツボ3 多少アクセントが付く。
ツボ4 虚弱の振幅の幅は大きくなく、インテンポでで直進するが、響きが熱い。スラー付きのスタッカートは、通常より短め。楽譜に忠実かもしれない。
ツボ5 NYO盤同様、完全なインテンポ。ここでも共感の熱さが顕著。
ツボ6 animatoの箇所で少しテンポを落とすだけで、基本的にインテンポを崩さない。
ツボ7 南国的な色彩。
ツボ8 この直前で大きくテンポ・ルバートして、ここから初めてテンポが落ちる。172小節で現にポルタメントをかける。この後も、弦の上行音型ではポルタメント気味にするが、恣意的な嫌らしさはない。
ツボ9 前の部分でテンポを速めておいて、そのままインテンポで直進。パッション炸裂!NYO盤では最後にテンポを徐々に落としていたが、ここでは最後までそのテンポをキープしている。
第2楽章のツボ
ツボ10 ここの弦も線が明確。過度に感傷に浸らない。テンポもやや速めで毅然と佇まいを醸し出す。ホルンは巧妙さはなく、ロシアの大地よりもイギリスの田園風景を思わせる雰囲気。その後のオーボエが絶品!ロスウェルか?
ツボ11 あまり響きに厚味がないが、豊かに呼吸している。
ツボ12 ここでも泣かない。クラリネットの音色は明快で素朴。テンポは変えない。
ツボ13 弱音寄りの優しげなピチカート。
ツボ14 深く熱い呼吸で盛り上げ、フォルテ4つの直前で急加速して、見事な頂点を築くが、NYO盤ほどの熾烈さはない。
ツボ15 繊細なカンタービレだが、ホルンの伴奏のひなびた音色が不釣合い。174小節頭(10:51)でポルタメントが掛かる。
第3楽章のツボ
ツボ16 少しだけテンポを落とす。
ツボ17 器用さは全くなく、牧歌的なニュアンス。
ツボ18 しなやか。
第4楽章のツボ
ツボ19 弦の導入は、最初やや不安げに始る。音量もむしろ控えめで、風格よりも優しさが先に立つ。テンポは標準的。
ツボ20 ホルンはほとんど裏方。
ツボ21 クレッシェンドしてから一撃を加え、その後は強弱をつけずにトレモロを続ける。テンポは標準的なもの。弦の切り込み激しいものの、量感に乏しい。
ツボ22 無視。
ツボ23 ことさら強靭ではないが、バランス良好で、しっかり主張を果たしている。
ツボ24 テンポ不変。
ツボ25 強打ではないが、弱すぎでもない。
ツボ26 テンポ不変。
ツボ27 中庸のテンポを守り通す。ティンパニの固い強打が、全体の全体の緊張を高めるのに効を奏してしている。
ツボ28 本来の音価よりかなり長い。
ツボ29 重量感に欠けるが、やや遅めのテンポで入念にフレージング。
ツボ30 弦は音を切るが、トランペットは切らない。
ツボ31 改変している。
ツボ32 良く鳴っている。のモルト・メノ・モッソ(9:54)からは再び荘重なテンポに切り替えるのはNYO盤と同じ。その後は、少しだけ加速する程度。
ツボ33 最後の4小節で和音の打ち込みは、渾身の強打!全体も見事に凝縮。


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