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ワルター・ゲール(指) |
ローマ・フィルハーモニック管弦楽団 |
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Treasures
TRT-002(1CDR)
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演奏時間: |
第1楽章 |
14:12 |
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第2楽章 |
12:33 |
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第3楽章 |
6:12 |
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第4楽章 |
13:13 |
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カップリング/チャイコフスキー:弦楽セレナード(フランクフルトCO) |
“オケのイタリア気質と相まった濃厚な節回しで聴き手を翻弄!” |
この「チャイ5」は、世紀の大奇演!ワルター・ゲールという指揮者は、作品の持ち味を生かすことに主眼を置きつつも、オーケストラの個性との相乗効果を取り込むことも重要視していたと見え、どんなニュアンスを引き出すのか、聴くまで全く予想がつかないことが多いのです。このチャイ5は、まさにその典型。
いきなり驚かされるのが、作品の核であるクラリネット主題冒頭の付点四分音符を思いっきり引き伸ばし、複付点音符のように奏でていること。この現象は、終楽章最後のトランペットまでほぼ一貫していることから、単なる思いつきでも奏者のクセでもなく、ゲールの指示であることは明らか。スコアを神聖化し過ぎずに、オケに染み付いている歌心を極端なまでに刻印せずにはいられないゲールの芸術家魂に、まず拍手を送りたいのです。
最大の聴き所は、何と言っても終楽章。小さいことに拘らない大らかさが、曲の終盤へ向かうに連れて王者の風格へを変貌を遂げる様は惚れ惚れするばかりで、スコア表記の意味を考えすぎた演奏ではこうは行きません。特に、モデラート以降の風格は、コンサートホールのバイノーラル録音としては異例のバランスの良さとも相俟って、圧倒的な感銘をもたらします。「大らかさ=大雑把」ではないことを痛感するばかりです。
なお、ゲールの「チャイ5」は、Forgotten Recordsによるモノラル盤復刻も存在しますが、この演奏の面白さをより強く感じさせるのは、明らかにこのステレオ盤です。
一方の「弦セレ」は、これに比べるとはるかに誠実な演奏ですが、決して凡庸な演奏ではなく、フレージングの端々から心からの共感が感じられ、ニュアンスのコントラストに配慮した素晴らしい演奏を聴かせてくれます。【湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
クラリネットの独特の節回しによる哀愁が印象的。ロシア的な情感よりも、素直に感じたニュアンスを表出する姿勢を明確に打ち出す。 |
ツボ2 |
テンポは標準的。木管の融け合いが美しい。 |
ツボ3 |
スラーを生かしてはいないが、綺麗に取り繕う嫌らしさがなく、その素朴さがかえって心に迫る。 |
ツボ4 |
ここでもスコアを微視的に捉えず、素直なフレージングを優先。 |
ツボ5 |
チマチマした表情付けを避ける志向をここでも反映させ、4小節間を一息のスラーで繋げているが、独特のデリカシーが浮かび上がる。116小節冒頭のスフォルツァンドの生かし方が魅力的。120小節冒頭にはスフォルツァンドの表記はないが、ここでも加えている。 |
ツボ6 |
前の部分のデリカシーを受け継ぎ、フォルテを意識的に避けている。 |
ツボ7 |
ピチカートは美感を欠く。管楽器の合いの手はあまりにも脳天気。 |
ツボ8 |
かなり表情が熱く、恋焦がれる青年のようにお音がときめいている。 |
ツボ9 |
冒頭の16分音符はわずかに聞こえる程度。その後の勇壮な響きが素晴らしい! |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭の弦は、一音ごとに念を押すように奏でられ、極めて無骨。ホルンは取り立てて特徴はないが、ソリストとして目立とうとしない姿勢が好感触。 |
ツボ11 |
気負いのないスケール感が見事!まさに職人芸の極み! |
ツボ12 |
クラリネットは、やや明るめの響き。リズムも軽妙。 |
ツボ13 |
ピチカートの木目調の響きが素晴らしい! |
ツボ14 |
巧味は全くないが、渾身の響きとは、計算を感じさせないこういう響きのこと! |
ツボ15 |
美しンラインを形成。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
わずかにテンポを落とす。 |
ツボ17 |
メカニックな動きばかりが際立つ演奏とは一線を画し、微笑みの表情を絶やさない。 |
ツボ18 |
ファゴットのほうが少し強い。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
威厳を湛えながらも威圧感はなく、伸びやかな歌が横溢。テンポは)標準的。 |
ツボ20 |
ホルンは、主旋律とバランスよく鳴り続ける。 |
ツボ21 |
ティンパニは、クレッシェンドなしの一定音量をキープ。テンポは標準的だが、野武士的な進軍が開始される。 |
ツボ22 |
アクセントは完全に無視。 |
ツボ23 |
フォルティシシモを無視!それによる他の楽器とのバランスの取り方が独特。 |
ツボ24 |
主部冒頭と同等のテンポ。 |
ツボ25 |
露骨な強打ではないが、入魂の一撃。 |
ツボ26 |
決然とした意思を漲らせた理想のイン・テンポ進行! |
ツボ27 |
ここからテンポを上げる演奏が多い中で、ここではなんとテンポを落として、辺りを払うような威厳を見せつける |
ツボ28 |
ティンパニは、やや外面的な強調が見られる。467-468小節の長い間合いを意識しているのが珍しい。但し、フェルマータ付きの全休止は、意識していない。複付点は、ほぼスコア通り。 |
ツボ29 |
このモデラートの開始は、チャイ5録音史上最もユニクークな解釈の一つ。テンポは超低速。弱音で、しかも不気味なテヌート!これが曲の進行と共に王者の風格へと表情を変貌させる様には、何度聴いても鳥肌が!そして、例によって、主題を奏する弦は複付点リズムを貫徹! |
ツボ30 |
弦もトランペットも音をわずかに切っている。例によって、弦もトランペットも、主題を複付点リズムで刻んでいる点にご注目! |
ツボ31 |
改変型。510小節からのティンパニが、完全に抜け落ちている。しかも、途中から思い出したようにやおら叩き始めるのが笑える。また、この付近の大音量の捉え方は、コンサートホールのバイノーラル録音としては、奇跡的なブレンド感! |
ツボ32 |
ホルンはそれなりの鳴り方だが、トランペットがイタリア訛り丸出しで痛快! |
ツボ33 |
勇壮な低速を貫徹し、最後の最後でテンポを更に落とすアプローチは珍しくないが、それが確固としたニュアンスとしてここまで結晶化した例は殆ど無い! |