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ハンス・シュミット=イッセルシュテット(指) |
北ドイツ放送交響楽団 |
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Treasures
TRT-019(1CDR)
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録音:1952年952年9-10月 ハンブルク【モノラル】 ※音源:DECCA
ACL-3 |
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演奏時間: |
第1楽章 |
15:20 |
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第2楽章 |
14:06 |
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第3楽章 |
6:10 |
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第4楽章 |
11:16 |
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カップリング/シューベルト:交響曲第5番 |
“ロシア的色彩とは無縁!無骨なカンタービレで真剣勝負!” |
★堅実そのものの演奏ですが、決して型に嵌って安住しているのではなく、作品への並々ならぬ共感を端正な造形の中に凝縮しています。特にチャイコフスキーにおいてこの種のタイプの演奏はとかく面白味に欠けると一蹴されがちなうえに、モノラル録音なので聴き手の側からニュアンスを感じ取ろうとする姿勢が必要ですが、聴けば聴くほど地味さだけを理由に退けられない魅力が詰まっています。
第1楽章でまず唸るのは主部のテンポ設定。「付点四分音符=104」のスコア表記はかなり速めで、採用例もほとんどどありません。ここではもちろんそれよりも遅いテンポを採用。中庸と言えばそれまでですが、音符の一つ一つの意味がくっきり浮かび上がるようにテンポを慈しんでいるように感じられるのです。特に付点リズムが持つニュアンスは、このテンポより遅くても早くても表出されないでしょう。因みにこのテンポはムラヴィンスキーの1960年盤とほぼ同じですが、そのアポロ的な威容とは対極的な純朴さが心に染みるのです。第2主題にも色気を注入するなど眼中になく、ひたすら自分たちの流儀を通す一途さと確信性は、スタンダードな「ロシア的アプローチ」が確立していなかった時代だからこそ生まれたものと言えましょう。
第2楽章もホルン・ソロをはじめとして流麗なカンタービレで化粧を施すことなく、ドイツ風の入念なフレージングを貫徹。クラリネット・ソロ(6:02〜)以降では類例のない独自の陰影を見せ、その後はますます呼吸の深度を深めます。10:27辺りからの熱いフレージングも現代ではあり得ない無骨さ丸出しですが、その体を張った打ち込みをどうして笑えましょう。3楽章のワルツも当然レントラー風。終楽章は当時としては珍しくない短縮ヴァージョン(ロジンスキー等と同じく210小節〜315小節までカット)を採用。しかも206小節からの4小節は弦を抑え、フルートを追加しています。
172小節からの運命動機の斉奏は、伝統的なドイツ流儀が最も顕著に出た箇所。テンポを落とし、リズムの重心を下げ、ロシア的な攻撃性とは異なる粘りのある進行。ステレオ時代以降にもドイツのオケでこれとよく似たバランスの響きを耳にしますが、これがムラヴィンスキー・スタイルが世界に知れ渡る以前から培われてきたドイツ人による「ロシア的」なイメージだったことを窺わせます。
チャイコフスキーの交響曲第5番は、北ドイツ放送響の第1回演奏会(1945年)の演目でもあり、オケも指揮者も特別な思いで録音に臨んだことは想像に難くありません。【2022年9月・湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
いかにもドイツ的な仄暗い音色によるクラリネットが独特の悲しみを表現。触れーうが横に流れずに念を押すように進行す。バックの弦も雰囲気がある。 |
ツボ2 |
弦の刻みに温かみがあり、決して能天気に弾まない、テンポも中庸より遅めで、テーマのニュアンスをもっとも活かすテンポに感じられる。 |
ツボ3 |
スラー意識せず、無骨に呟く感じ。 |
ツボ4 |
ここも同様。 |
ツボ5 |
わずかにテンポを落とし入念に歌い上げるが、感覚的な美しさは全く狙わず、心のこもったフレージングを渾身の思いで行う。 |
ツボ6 |
大声で騒がず、心の震えを内面でハグ組ながら表出。 |
ツボ7 |
直前のテンポの落とし方が絶妙の極み!そして、このピチカートがまた絶品!まさに身を削って発する魂の音!この箇所だけ何度も繰り返し効きたくなるほど。 |
ツボ8 |
一見地味に聞こえるが、弓をたっぷり使って思いの丈をぶちまけている。ここでも媚や感覚美とは無縁だが、これが再現部においてはよりセンチメンタルに変貌して登場する点のご注目を。 |
ツボ9 |
インテンポのまま進行、16分音符は曖昧。ここでようやくやや攻撃的な推進性を見せる。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
弦の導入の深遠な雰囲気は史上屈指の素晴らしさ!各付点2分音符の中にニュアンスが充満!それを少しづつヴェールを剥がすように白日に晒す。ホルンはスマートさは無縁。先へ進むのを拒むように丹念にフレージングし、芯のある音色が心を打つ。これを聴くと、個人芸のひけらかしに走る演奏がいかに多いか、思い知らされる。 |
ツボ11 |
モノラルなので感覚的に猛烈な迫力では迫らないが、内面の燃焼度は相当熱い。 |
ツボ12 |
完全にノン・ヴィブラートで、音量は弱めなので、いささか地味すぎる印象。 |
ツボ13 |
第1楽章同様、このピチカートも 木の感触を感じさせる見事なもの! |
ツボ14 |
胡蝶を感じさせずに興奮を増幅させるというイッセルシュテットらしい堅実なアプローチが光る。ここも、モノラルというハンデがなかったら相当の爆発力で迫ったことだろう。 |
ツボ15 |
背景のホルンの刻みも含め、レガートとは無縁の純朴なフレージングで、カラヤン流の美しさとは全く異次元。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
イン・テンポ。 |
ツボ17 |
超真面目!全ての音符を手抜きなく弾ききるる一途さ! |
ツボ18 |
不明瞭。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
やや弱音にすぎる気がするのは録音のせいかとも考えたが、総合的に考えてイッセルシュテットの意思と言えそうだ。 |
ツボ20 |
ホルンは裏方だが、しっかり響いている。 |
ツボ21 |
テンポはやや遅め、ティンパニはクレッシェンドなしで一定音量。70小節からの木管はフルートのみで、オーボエ、クラリネット、ファゴットは聞こえない。 |
ツボ22 |
ほとんど無視。 |
ツボ23 |
ここから全体の音量を抑えて、テンポも落とす。バスは必要以上に強調していない。 |
ツボ24 |
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ツボ25 |
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ツボ26 |
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ツボ27 |
切迫感のある高速ではなく、後の3連音も潰れない範囲でのテンポ設定。 |
ツボ28 |
8分音符は本来の音価を守る。 |
ツボ29 |
ハリある弦の響き!威圧的な力感ではなく精神の効用の音化に徹している。 |
ツボ30 |
弦はしっかり音を切っているが、トランペットはレガート気味。このトランペットは一人で吹いているように聞こえる、 |
ツボ31 |
改変なし。 |
ツボ32 |
546小節からのトランペットととホルンの響きは、芯のあるスタッカート気味の音色が魅力的、ドイツ・オケ・ファンには必聴! |
ツボ33 |
最後の一音まで魂を注入し尽くす、ドイツ風リテヌートの最高の実例! |