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岩城宏之(指) |
NHK交響楽団 |
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Treasures
TRT-012(1CDR)
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録音:1960年9月26日ミュンヘン・コングレス・ザール(モノラル・ライヴ) |
音源:日Victor JV-2001 |
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演奏時間: |
第1楽章 |
14:46 |
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第2楽章 |
12:28 |
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第3楽章 |
5:53 |
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第4楽章 |
12:21 |
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カップリング/リスト:ハンガリー狂詩曲第5番&第4番(ウィーン国立歌劇場O) |
“大和魂炸裂!全てを攻めの姿勢でやり尽くしたN響!” |
1960年のN響の世界一周演奏旅行は、シュヒターの猛特訓を受けたN響が、その成果のみならず、戦後の復興を成し遂げた日本の文化水準を世界に知らしめたという点でも極めて重要な意味を持っています。まさに国を背負った演奏者側の意気込みも並大抵のものでなかったことは、外山雄三がアンコール用にあの「ラプソディ」を作曲し、岩城は演目に各国に因んだ作品を盛り込むことを提案したことなどからも窺えます。
最初の訪問国のインドから次のソ連に移動したときには、団員の多くが急激な気温差で体調を壊しそうですが、モスクワでの「チャイ5」は、そんな不調を吹き飛ばす勢いで、ロシア情緒とは違う独自のロマンと激情を敢然と表現していました。ただ、やや気負い過ぎの面も無きにしも非ず…。
一方、ツアー中盤の西ドイツにおけるこの演奏は、「有り余るやる気」が良い意味でこなれ、足場を固めながら進行するゆとりが感じられ、全体の統一感も格段に向上しています。とは言え、お行儀の良さはどこにもなく、昨今では誰もやらなくなったテンポの激変、ポルタメント、バランスを破るティンパニ強打など、テンションの高さはやはり尋常ではなく、それらが決して借り物ではない自分たちの流儀として確信的に発せられるので、説得力が半端ではないのです。
第1楽章冒頭クラリネットは、モスクワ公演では異様な遅さが際立ってましたが、ここでは確実に美観が備わり、表情の結晶度が上がっています。第2主題は、綺麗事を許さぬ骨太な推進。副次旋律への移行直前のテンポの落とし方は、この作品を完全に手中に収めている証し。コーダでの骨身を削った猛進も感動的。第2楽章は、何と言っても千葉馨のホルン・ソロが超絶品!これだけ即興性をもってフレージングを行い、同時に音を感じきっている演奏など、古今を通じて殆どありません!これを世界に突きつけただけでも、このツアーの意義は計り知れません。微に入り細に入り、工夫と共感を凝らした岩城のテンポ・ルバートにも脱帽。後年の演奏でこんな絶妙さを感じたことはありません。9:14以降の激情の煽り方は体裁など二の次で、フォルテ4つの頂点までの呼吸の持久力と大きさも、N響による最高の成功例と言えましょう。第3楽章も西洋風のエレガンスに向かわず、どこか農耕民族らしい逞しさを感じます。終楽章も音楽の感じ方が実に直感的で、その表出もストレート。持って回った小賢しさが一切ないので、その迫力たるや壮絶を極めます。終盤10:12からのトランペットの主題斉奏時に、ティンパニが一貫して強打を刻み続けますが、これほどバシッと決まった例は他に思い当たりません。間違いなくN響の、いや日本人によるチャイコフスキー演奏の最高峰に位置する名演です。【湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
ロシアの哀愁と涙が横溢!クラリネットも弦も濃密な表情を湛え、表現に対する意思と確信を惜しげもなく表出。当時の日本のオケにこういうニュアンスが出せたことに驚愕。 |
ツボ2 |
やや遅めのテンポで、テヌートを活かしたロシア情緒満点のニュアンスが広がる。木管の暗い音色も魅力。 |
ツボ3 |
ごく僅かにポルタメント気味にして、後ろ髪を引かれるようなニュアンスを醸し出す。 |
ツボ4 |
スラーの掛かったスタッカートの意味を忠実に再現。 |
ツボ5 |
極めて求心力の高いフレージング!119小節の付点2分音符の心のこもった響きなど、真の共感なしには成し得ない! |
ツボ6 |
呼吸の深さにむせ返るほど。アニマートからのテンポの落とし方も完全に堂に入っている。 |
ツボ7 |
ここから一弾テンポアップ。副次主題までの束の間の愉悦として実に効果的に響く。 |
ツボ8 |
イン・テンポを貫徹した洗練美。甘美な旋律美に身を委ねるシーンと、このように距離を置くシーンとのメリハリが、音楽に画一的ではない奥行きを与えている。 |
ツボ9 |
ここからテンポアップ。その直感力が素晴らしい!16分音符は聞き取れない。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭の弦は、漫然と響くこと無く、全てに心が宿っている。そしてホルンの切ない嘆きの歌!ホルンがこれほど物言う楽器であることを改めて痛感。単なるノスタルジーではなく、人生の片鱗を機微を刻み込んだような絶妙なニュアンスは、決して他では聴けない! |
ツボ11 |
神がかり的パワーを放射。音量の大きさではなく、地面に染み込むような浸透力が独特のコクを生み出している。 |
ツボ12 |
むしろテンポを落として、哀愁の限りを尽くす。これが岩城の正直な感性として素直にニュアンスに直結。 |
ツボ13 |
テンポを落とし、全てのピチカートに別の表情を与えるように丹念に響かせる。 |
ツボ14 |
多くの指揮者が手本とすべき呼吸の妙味が全開!即興的な緩急の間合いが完全に業すy鬼雨された芸術と化し、圧倒的な底力を発揮。 |
ツボ15 |
このシーンもチャイ5音盤史上屈指のニュアンス。これほど内省的な響きと可憐な表情が美しく融合した例はほぼ皆無。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
冒頭で僅かにテンポを落とす。 |
ツボ17 |
浮足立つこと無く、丹念に音の意味を表出。 |
ツボ18 |
一本のラインで美しく連動している(特に1回目)。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
テンポはやや遅め。来たるべきドラマを予感させる静かな緊張が漲る。 |
ツボ20 |
ホルンは基本的に裏方ヘ回っているが、他の管楽器と見事に調和が取れている。トランペットが運命動機を奏する39小節からテンポアップするのが珍しい。 |
ツボ21 |
テンポは標準的。ティンパニは冒頭に一撃あり。その後はスコア通り。決して先を急がず、興奮を煽らず、安定感重視の大人のアプローチ。 |
ツボ22 |
完全に無視。 |
ツボ23 |
全身で弾きまくっているのが目に浮かぶ。 |
ツボ24 |
主部冒頭より少し速いテンポ設定。 |
ツボ25 |
強烈さはないが、明確な強打。 |
ツボ26 |
主部冒頭と同じテンポ。 |
ツボ27 |
超激烈!チャイコフスキーの想定さえも超えていると思われるほどの凄まじい噴射力と凝縮力!やはりこのシーンは、火の中に飛び込むような決死の覚悟を表明して欲しい! |
ツボ28 |
音価を最大限まで引き伸ばしている。 |
ツボ29 |
決して突出はしていないが、低弦のリズムの刻みが利いて、全体の流れにに弾力を与えている点が素晴らしい。 |
ツボ30 |
弦トランペットも、音を切る。ここからティンパニが硬い強打を連発。類例は他にもあるが、それが説得力の有るニュアンスに結びついている点が当時の岩城の冴えたセンスを象徴。 |
ツボ31 |
改変型。 |
ツボ32 |
大強奏ではないが、まさに渾身の響き。 |
ツボ33 |
決然とした意思を湛えたイン・テンポ終結。「ブラボー」の声が意外と冷静に聞こえるのは気のせいか? |