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パーヴォ・ヤルヴィ(指) |
チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 |
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ALPHA
ALPHA-659(1CD)
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録音:2020年1月 トーンハレ・マーグ、チューリヒ、スイス |
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演奏時間: |
第1楽章 |
15:59 |
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第2楽章 |
13:08 |
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第3楽章 |
5:56 |
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第4楽章 |
12:40 |
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カップリング/フランチェスカ・ダ・リミニ |
"ロシア的哀愁に固執せず、チャイコフスキーを洗練されたフォルムで徹底再構築!" |
聴きながら一体何回スコアをを見返したことでしょう。とにかく、慣習に囚われず根底からスコアをを見つめ直し、ヤルヴィの感性で音に変換させるヤルヴィの能力は尋常ではありません。特定のパートが強調されるシーンも頻出しますが、そこには常に確固とした意味付けがあるのでの、単なるデフォルメとして響くことがありませんし、逆に、意味もなくスコアの指示を無視する愚行も存在しないのです。「スコアに忠実」な指揮とは、単に額面通りのコピーではないということを実証した意義は計り知れません。
ハーモニーの見通しも常に明瞭。核となるパートが埋没することがなく、引き締まった音像を構築しているのもP・ヤルヴィならでは。ここまで入念な表現は一朝一夕に成し遂げられるものではありません。P・ヤルヴィは、録音でもN響とのコンサートでもチャイコフスキーを殆ど取り上げていないので、なぜ避けているのかと疑問に思っていたのですが、むしろ言いたいことが多すぎて、それらを整理するのに長い時間を要したことは想像に難くありません。
チャイコフスキーを軽視していたわけではないことは、豊かな歌心からも明らか。第1楽章再現部の副次主題では弱音の意味を強調し、憚ることなくすすり泣きます。第2楽章はハイセンスなアゴーギクとも相まって更に多彩な歌の彩が連動し、音楽に新鮮な息吹を与えています。楽章最後の弦のテーマの掛け合いは、対向配置が一定の効果を上げていますが、最大の聴き物は99小節。スコアの指示通りテンポを落として運命動機を際立たせると共に、低弦の連音を怒濤のごとく響かせるのは前代未聞!、スコア指示の意味をしっかり受け止めて感じ切るヤルヴィのブレない姿勢がここでも生かされているのです。164小節最後の8分音符の音価を実際より短くするのも新解釈!明らかに切迫感が増しています。
第3楽章は、ホルンのゲシュトップ音を当然のように明瞭に響かせますが、音楽的なスパイスとしてこれほど確実に作用した例は滅多にありません。
P・ヤルヴィのスコア解釈のセンスが縦横無尽に飛び交うのが終楽章。展開部冒頭(202小節)からの弦の音量を抑え、ピッコロ&フルートとの調和を取ることでかつてない響きを獲得し、ピッコロが消得た途端に今度は渾身の力でフォルティッシモを響かせるなどは、他に誰が思いつくでしょう!再現部のテンポの切り替えの指示は一部簡略化し、スマートさ、合理性を優先した感がありますが、これまたスコアを鵜呑みにしないP・ヤルヴィらしさの現れ。最後のプレスト以降は急速なテンポで進行し、546小節からのテンポにインテンポで突入するスタイル(ゲルギエフ型)ですが、このスタイルで最もスマートの成功した実例と言えましょう。
ただ、最後の最後で残念な事態が!なんと終楽章結尾の2小節で明らかに編集で音量を上げているのです!ホールの特性なのか、録音のせいなのか、オケの特徴なのか判然としませんが、全曲を通じて響きにやや量感が乏しい気はしていたのですが、この音量処理も、その弱点を補うためにせめて最後はバシッと決めたいという欲が出たのかもしれません。いずれにしてもこの不自然さは興ざめも甚だしく、正規録音のパッケージ商品として通常ならお勧めできないところですが、全体的な他に例を見ない魅力の多さから、あえて推薦と致します。【湧々堂 2022年4月】
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
クラリネットと弦では弦がやや目立つバランス。深い呼吸で絶妙なルバートに込めて歌われるが、女々しさがないのはいかにもパーヴォらしい。 |
ツボ2 |
テンポは中庸。フルートが加わってからのデルカーシーに富んだ歌い口が印象的。リズムの刻み方はいかにも現代的。 |
ツボ3 |
スラーはほとんど無視。意外なほど繊細に囁くフレージング。 |
ツボ4 |
強弱の振幅を大きく取らず自然な歌をを大切にしている。 |
ツボ5 |
直前でややアッチェレランド。第2主題に入るとぐっとテンポを落とし流麗なレガートで歌い抜く。素晴らしい洗練美! |
ツボ6 |
深い呼吸!間合いも絶妙で、スコアの強弱指示を額面通りに捉えない見事な解釈。 |
ツボ7 |
軽く受け流して入るが、後半に力感がやや増すことでクラリネットが生き生きと立ち上がる。 |
ツボ8 |
ヴァイオリンが惜しげもなくヴィヴラートを掛けながら、愛しさを全面に出したフレージングを聞かせる。181小説の最後の四分音符はポルタメントが掛かり、更に音価を引き伸ばすという大胆さにも関わらず、古さを感じさせない。 |
ツボ9 |
テンポアップせず、慎重な足取りを保ったまま、次第に鉛のような重苦しい闇へと進行。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
対向配置の効果で、コントラバスが右側から重々しい空気を誘発。ホルンは技術的破綻はないもののやや単調。マイクにも近すぎて、ほのかな哀愁や余韻が感じにくい。絡むクラリネットのニュアンスが素晴らしい! |
ツボ11 |
めったに聞けない、レガートを維持しながらのフォルティシシモ! |
ツボ12 |
テンポはイン・テンポ。クラリネットはもう少し陰影がほしいところ。 |
ツボ13 |
冒頭のホルン主題と同等のテンポへ落とす。まろやかで深みのあるピチカート。 |
ツボ14 |
142小節頭のティンパニの一撃が決然と打ち鳴らされるのが痛快。フォルテ4つへの上り詰めは、やや膨張力、持久力不足の感あり。 |
ツボ15 |
デリカシーに富んではいるが、音が痩せ気味。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
なんとなく慣例でテンポを落としているという印象を与えず、ここまで確実に意思を携えてテンポを落とす例は稀有。 |
ツボ17 |
見事なアンサンブル。低弦の末端まで神経を通わせて豊かなハーモニーを形成。 |
ツボ18 |
美しい一本のラインを描いている。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
スコアの指示からも逸脱することなく 荘重な雰囲気再現。 |
ツボ20 |
ホルンは前半は裏方に徹しているが、次第に前面に出てくる演出。それにより、トランペットの運命動機との連動が鮮やかになっている。その間、弦の3連音に確実に意味を持たせているのも画期的。 |
ツボ21 |
ティンパニは、58小節と62小節にアクセントの一撃あり。テンポはごく標準的。元の動きを克明に再現。 |
ツボ22 |
ここまでの例で予想できる通り、しっかりアクセントを置いている。 |
ツボ23 |
コントラバスの浮上の仕方が物凄い!ただ、血しぶきが飛ぶような凄みではなく、音のエッジはマイルド。録音の特性かも知れない。 |
ツボ24 |
主部冒頭のテンポとほぼ同等までテンポを速める。 |
ツボ25 |
一定音量のまま。 |
ツボ26 |
インテンポ。 |
ツボ27 |
この直前でテンポを落として高速で進行するのが一般的だが、終結部に差し掛かる前の422小節からテンポを落とす。これも類例が思い当たらない。おそらく、終結部冒頭から弦が細く3連音を刻み出すので、それを克明に出すための配慮だと思う。そして、436小節の直前でさらにテンポダウンさせる。 |
ツボ28 |
8分音符の音価はやや長め。。ティンパニは最後の一打なし。 |
ツボ29 |
輝かしい勝利の行進曲というより、流麗さが勝っている。 |
ツボ30 |
弦もトランペットも音を切る。トランペットの音色がなぜか曇り気味なのが残念。 |
ツボ31 |
改変なし。改変の必要性を全く感じさせない素晴らしいバランス感覚!テンポの落とし方も実に自然。 |
ツボ32 |
明快だがどこか腰が軽い。 |
ツボ33 |
完全にイン・テンポ。但し、明らかに編集で音量をアップさせているのが見え見え!ヤルヴィの指示なのか、プロディーサーのセンスなのか?いずれにしても、最後の締めがこれではあまりにも残念。 |