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ウラディーミル・ユロフスキー |
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 |
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LPO
LPO-0064(2CD)
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録音:2011年5月4日 ロイヤル・フェスティヴァル・ホール,サウスバンク・センター【デジタル・ライヴ】 |
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演奏時間: |
第1楽章 |
13:22 |
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第2楽章 |
11:38 |
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第3楽章 |
5:34 |
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第4楽章 |
10:56 |
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カップリング/交響曲第4番 |
“一昔前の凄みとは決別!表現として結実した瑞々しいニュアンス!” |
この「チャイ5」は、現代的な洗練性を全面に打ち出した快演。ユロフスキーはロシア出身といっても18歳でドイツへ移住し、指揮活動もイギリス中心だっただけに、民族的な土壌性表出よりもグローバルなアプローチに徹しても何の不思議もないのですが、ここまで純音楽的表現に徹するとは予想外でした。とにかく、チャイコフスキーの青春時代の作品のように瑞々しく響くのが画期的であり、しかもその表現に「青臭さ」が付きまとわない点が、ユロフスキーの恐るべき才能の為せる技と言えましょう。微視的にスコアを掘り下げることより、素直で直感的なアプローチを確信を持って行なっており、テンポを激しく揺らしたり見得を切らなくても、十分に説得力の音楽を再生可能だということを実証しているのです。
まず、さっそうとしたテンポの運び自体がまず洗練されていますが、第1楽章や終楽章の各冒頭部に見られるように、弦のユニゾンにおけるヴィブラート抑制も印象的。昨今流行の古楽的アプローチの片鱗とも言えますが、肝心なのはそれがユロフスキー自身の内面から出たイメージと直結した表現として迫る点です。結果として、ヌメリのあるロシア的土壌性が削ぎ落とされ、息を深く吸い込まず、リズムの重心を高めに維持する効果とも相まって、確実にユロフスキー固有のフレッシュな「チャイ5像」が具現化されている点が素晴らしいのです。かつてのロシアの巨匠たちのような凄みだけを期待すると物足りないかもしれませんが、どうかこの「表現として結実した瑞々しさ」を感じ取っていただければと思います。
なお、第1楽章展開部266小節では、ティンパニが3度低い音を鳴らしているように聞こえますが、ロストロポーヴィチ盤で顕著だった「LPOオリジナル版」とも言える改変の名残りでしょうか?【湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
速めのテンポで情に溺れないずスッキリと進行。弦はヴィブラートを抑制。全体の陰影も濃くはないが音に求心力がある。 |
ツボ2 |
標準よりもやや速め。リズムの小気味良いが軽薄さはなく、木管の歌いまわしは淡白だが、そこはかとない悲しみが滲む。 |
ツボ3 |
スラーならではのニュアンスは無視し、清潔なリズムの刻みを優先。 |
ツボ4 |
自然体。ユロフスキーのこの曲にアプローチは、スコアを神経質に掘り下げるタイプではなく、スタイリッシュなフレージングを目指していることが分かる |
ツボ5 |
完全にイン・テンポのまま突入。強弱の指示は遵守。 |
ツボ6 |
アニマートの直前までイン・テンポを貫徹。アニマートの4小節だけ若干テンポを落とす程度で、殊更感情を放射することなく推進力の維持を優先。ユロフスキーの世代になって、かつての高圧的なロシア路線とは一線を画す洗練されたスタイルが、決して借り物ではなく、完全に自身のスタイルとしてようやく身に付いていることを窺わせる。 |
ツボ7 |
機能美も音の美感も確保した素晴らしいピチカート。ここでややテンポアップ。腰の入ったリズムが顔をもたげる。ピチカートの上行音型の響きが充実の極み! |
ツボ8 |
若干テンポを落とすが、このテンポの移行のさせ方が洗練美の極み!全くもったいぶらず素直でしなやかなフレージングは、それだけで説得力大。 |
ツボ9 |
冒頭の16分音符は克明に聞こえる。前の部分からイン・テンポのまま進行しそのまま最後まで貫徹。物々しを廃して、純音楽的な表現を結実させている。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭の弦は、ヴィブラートをかなり抑制しているのがユニーク。ユロフスキーが泥臭いニュアンスをこの曲に求めていないことがよく分かる。ホルンは音が美しい上に技巧も万全。しかし、強弱のニュアンスが皆無に等しい。絡む木管群も慎ましい。 |
ツボ11 |
音量自体に爆発力はないが、オンが的な説得力は確保されている点が流石。一切構えや溜めを見せず、速めのテンポによるにストレートな進行を重視しているので、瞬発的なフィルティシシモはむしろ物理的に無理があるのかもしれない。 |
ツボ12 |
クラリネットは9連音がやや怪しい。 |
ツボ13 |
爽やかな畳み掛けの後、ホルン主題と同じテンポに戻る。ピチカートはやや淡白だが、アルコのパートはLPOの元の質感の高さを痛感させる。 |
ツボ14 |
ここでも大見得を切る素振りを見せず、ストレートな高揚を築く。142小節最後の8分音符は143小節冒頭の装飾音のように短い音価で扱っている。 |
ツボ15 |
これほど肩の力を抜いた演奏も珍しい。バレエの1シーンのよう。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
イン・テンポのまま。 |
ツボ17 |
全体を引き締めすぎない自由さが溢れていて愉しい。弦の対抗配置効果も大。 |
ツボ18 |
特に2度めの連携が美しい。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
テヌートを回避し、ヴィブラートも最小限に抑えながら拍節をきっちりと刻む。スッキリしたテンポで爽やか。 |
ツボ20 |
ホルン、木管の主旋律、弦はそれぞれが出しゃばらず均衡のバランを保つ。 |
ツボ21 |
ティンパニは、終始弱音でクレッシェンドも施さない。ほとんど弦の躍動感のみで速めのテンポで押し切る。 |
ツボ22 |
アクセントはわずかに生かしている。 |
ツボ23 |
コントラバスの旋律はよく聞こえるが、むしろヴァイオリンの刻みを重視するカラヤンに近いアプローチ。 |
ツボ24 |
主部冒頭のテンポに戻る。 |
ツボ25 |
ややデッドで決して強打ではないが、一撃の意味は伝わる。 |
ツボ26 |
主部冒頭のテンポに戻る。 |
ツボ27 |
ほぼイン・テンポ。 |
ツボ28 |
8分音符の音価は長めだがティンパニは一定音量を維持し、締めくくりの一撃もないが、瑞々しい歓喜を表す手段として大いに説得力がある。 |
ツボ29 |
重戦車モードとは正反対。やや速めのテンポで颯爽と進行し、弦のテクスチュアの清潔さは古今を通じて屈指のもの。運命動機475小節の4分音符も明確な意志を持って音を切り上げ弾力性を持たせている。 |
ツボ30 |
弦は音を明確に音を切り、トランペットも同様。トランペットが490小節の間でフレーズを2分割して吹いているのがユニークだが、ユロフスキーの解釈自体が、大地を這うような重厚さや、後ろ髪を引かれるようなフレージングを避けているので、その一環の解釈として整合性が感じられる。 |
ツボ31 |
改変なし。但し、449小節からわずかにトランペットの音量を落として弦主体で進行させる。他の指揮者でも同様な解釈をする人もいるが、あからさまな「操作性」を感じさせる場合がほとんどで、ユロフスキーのようにさらりとやってのけるセンスこそ真に「現代的」と形容したい。 |
ツボ32 |
殊更突出させない自然なバランス。 |
ツボ33 |
健康的なイン・テンポの畳み掛けるが、最後の4小節のみテンポを落とし、なおかつ、締めくくりの4つの音は更にテンポを落として確実な着地を行なう。全曲を通じ、念を押すようにリズムを刻印する箇所はここが唯一! |