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ヨーゼフ・クリップス(指) |
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 |
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Treasures
TRT-001(1CDR)
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録音:1958年9月15-16日 ムジーク・フェライン大ホール |
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演奏時間: |
第1楽章 |
15:57 |
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第2楽章 |
11:27 |
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第3楽章 |
6:15 |
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第4楽章 |
12:07 |
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カップリング/ハイドン:交響曲第99番 |
“当時のウィーン・フィルだからこそ達成し得た、独自の「チャイ5」像!” |
クリップスのチャイコフスキー録音は、他に「悲愴」があるだけ。当時のウィーン・フィルにとっても、「チャイ5」は十分体に染み付いている作品ではなかったはず。だからというわけではないでしょうが、クリップスは音楽のイメージの大枠だけを示し、あとはウィーン・フィルの流儀で伸び伸び演奏させることに徹しており、結果的に「ロシア的な哀愁とダイナミズム」とは全く別世界の独自の音楽を確立することができましたという、特異な名演と言えましょう。
特定の声部をデフォルメしたり、ニュアンスのコントラストを強調する素振りも皆無。オケの響きのバランスは弦が主体で、金管はあくまでもスパイス。随所で顔を出すポルタメントも、完全に素のウィーン・フィルそのもの。それらが音楽的な味わいに全面的に作用することを前提として成り立った名演であり、だからこそ、激しい激情の放出も甘美な演出もなく、第2楽章締めくくりのテンポが誰よりもそっけないく通りすぎても、無機質どころか独自の魅力として胸に迫るのでしょう。
テンポも、ウィーン・フィルにとっての自然体が生かせるものが常に選択されていますが、、終楽章の展開部の途中から加速するのは非常の珍しい現象なので、妙に興奮を掻き立てられます。また、これだけウィーン流儀に徹しながら、第3楽章ではウィンナ・ワルツの片鱗を見せず、独自のメルヘン世界を築いていいる点にも、控えめながら決してこだわりは捨てないクリップスの意思が感じられます。
ウィーン・フィルは、この後マゼール、シャイーとも「チャイ5」の名演を遺すことになりますが、ここまでウィーン・フィルの魅力を全面に立てた演奏は他に無く、次第にこのオケがウィーン・フィルらしさを失っていったという事実を差し引いても、これだけ魅力的な演奏に結実したというのは、奇跡に近いのではないでしょうか?例えば、このコンビは同時期にJ・シュトラウス作品集を録音していますが、これは何度聴いても「ウィーン・フィルらしい演奏」という以上の感興が湧き上がってこないことを考えると、なおさらそう思えてなりません。【湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
クラリネットの温かな音色が心を捉え、素朴そのものながら、余計な味付けなど一切不要と思わせるほど。弦も同様にウィーン風の柔らかさ。 |
ツボ2 |
テンポはかなり遅めだが、低速感が際立たたずに味わい深いのは、柔和なリズムの刻みと歌心の反映しているからこそ。 |
ツボ3 |
わずかにポルタメントが掛かる。もちろん、わざとらしさは皆無。 |
ツボ4 |
馥郁たる呼吸の妙!極めて自然体でありながら、音楽に奥行きを与えている。 |
ツボ5 |
スラーの細分化を省き、4小節を一息でフレージング。 |
ツボ6 |
強弱のコントラストを極力抑え、呼吸の持続感を大切にしている。 |
ツボ7 |
まさにウィーン・フィルの弦!真珠を散りばめたような煌き! |
ツボ8 |
ウィーンフィルで聴く「チャイ5」の醍醐味の極み!団員の体に染み付いたポルタメントが芳しい空気を放つ! |
ツボ9 |
イン・テンポのまま進行。16分音符は不明瞭。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭の弦のフレージングは意外と淡白。ホルンもこれ以上考えられないほど、肩の力を抜ききったフレージング。独特の芯を伴うウィンナ・ホルンの音色の魅力を堪能。クラリネットは実に控え目。 |
ツボ11 |
ふんわりとした感触を失わないウィーン・スタイルの典型。 |
ツボ12 |
クラリネットは、ソロの妙技を聞かせようとする素振りが皆無で、全体との溶け合い方が絶妙。 |
ツボ13 |
何も手を加えないことによるこの味わいも、当時のウィーンフィル以外ではなかなか体感できないもの。 |
ツボ14 |
これぞ阿吽の呼吸!ウィーン・フィルの呼吸を全面的に信頼し、クリップスはわずかに手を差し伸べる程度というような、絶妙なコンビネーションを痛感。 |
ツボ15 |
テンポ自体は相当速く、サラサラと進行するが、決して疾走ではなく、全ての音からニュアンスが紡ぎ出ているので、得も言われぬ余韻が生まれている。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
ほとんどイン・テンポ。 |
ツボ17 |
弦楽器と管楽器が家族対話を繰り返し、フレーズを緊密に連携させようとする緊張からこれほど解き放たれた雰囲気は他では得難いもの。 |
ツボ18 |
ファゴットのほうが若干強い。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
悠然としたテンポながら威圧感は全くなく、何よりも歌を重視。 |
ツボ20 |
ホルンは、完全に裏方。この志向は全体に言えることで、内声を意図的に抉りだすことは決してしない。 |
ツボ21 |
ティンパニは、クレッシェンドなしの一定音量を保持。テンポは標準的。管楽器を突出させず、弦楽器を主体として響きを凝縮させるウィーン・スタイル。 |
ツボ22 |
アクセントをスコア通りに順守。 |
ツボ23 |
物々しさは皆無。しかしそれ以外のかけがえのないニュアンスが方横溢。 |
ツボ24 |
主部冒頭より若干速いテンポ。 |
ツボ25 |
強打ではないが、響きのニュアンスは確実に伝わる。 |
ツボ26 |
ここから主部冒頭のテンポに落とす。 |
ツボ27 |
ここから推進力を高めるが、あくまでもウィーン風の“モルト・ヴィヴァーチェ”で、高圧的にねじ伏せるような響きは出さない。 |
ツボ28 |
8分音符はかなり長め。最後にティンパニの一打有り。 |
ツボ29 |
リズムの重心を低く保ち、流麗な推進性を持つフレージングとは対照的。 |
ツボ30 |
弦もトランペットも音を明確に切っている。 |
ツボ31 |
改変型。 |
ツボ32 |
まさしく、ウィンナ・ホルンならではの雄渾な響き。決して絶叫では味わえないニュアンス。 |
ツボ33 |
イン・テンポを基調とし、最後の2小節で若干テンポを落とすオーソドックスなスタイルながら、オケ全体が灼熱の響きに達しており、独特の興奮をもたらす。 |