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アレクサンドル・ラザレフ |
日本フィルハーモニー交響楽団 |
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日本フィルハーモニー交響楽団
JPS-46CD(1CD)
非売品 |
録音:2010年9月19日 東京芸術劇場 (第198回サンデーコンサート・ライヴ)
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演奏時間: |
第1楽章 |
16:07 |
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第2楽章 |
12:51 |
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第3楽章 |
5:27 |
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第4楽章 |
11:55 |
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カップリング/バレエ「くるみ割り人形」第1幕より4曲 |
“ロシア流儀の最後の伝道者が見せつける新鮮なアプローチの数々!” |
★基本コンセプトは2005年盤と変わりないようですが、数々の個性的なアプローに一層磨きがかかっていることが分かります。例えば金管の内声を突出させるシーンが散見されますが、どれも確信に満ちており、表現としての説得力もを携えているのです。ロシア・ローカル色を隠さないのも特徴的。ラザレフは、そのスタイルを取る最後の世代と言えるかもしれません。
第1楽章、第2主題前で超粘着質なテヌートを惜しげもなく見せつける指揮者があと何人現存するでしょうか?副次主題が倍近くテンポを落とすのはラザレフ以外誰も行っていない大胆解釈で、これはどう考えても不自然ですが、それを本人が気付いていないはずなどないのですから、そうしなければならない根拠が彼の中にはあるのです。その思いは決して蔑ろにしてはならないと思いつつ、オケの共感度がもっと高ければより効果的なカンタービレになったであろうことは想像に難くありません。展開部最後の高揚した響きの凝縮のさせ方や、コーダの重油を敷き詰めたような質感も本場指揮者ならでは。第2楽章は9:00からのホルンのの出し入れを含む色彩の付加は誰も思いつかない素晴らしいアイデア!第3楽章は更に注目すべき名演で、強弱に対する深い洞察、ホルンのゲシュトップなどの効果がすべてプラスに出て、見事なまとまりを見せています。終楽章は主部開始直後の74小節から弦を思い切りテヌート。これは今まで以上にロシア流儀を貫くことの決意表明のように迫り来ます。172小節からの運命動機斉奏はトランペットの8分音符を短く詰めて推進力を与えているのも痛快。テミルカーノフなど数例しかない188小節からのフォルティッシモの遵守も見られます。
このように、ロシアの伝統的な響きを今に伝えようとしていながら、少しもスタイルの古さを感じさせないのは、ロシアには音楽にもその再現方法にもグローバル化が簡単には通用しない盤石の仕組みがあるためだと思いますが、ラザレフやシモノフ亡き後にもその仕組みが引き継がれ、いかにも系のロシア指揮者が誕生し続ける可能性は極めて低いと思われます。しかし、少なくとも次世代を担うロシア出身の指揮者には、従来のロシア流儀に凝り固まっていれば良いというのではなく、安易にピリオド・アプローチに走って他者と差別化を図ろうなどと考えず、自らの血と汗を誇りを持って表現に注入できる人が登場し続けることを願ってやみません。【2025年5月・湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
中庸テンポ。クラリネットと弦の比率バランスがやや崩れる箇所あり。強弱の不可にも恣意的な操作を感じさせる。 |
ツボ2 |
ごく標準的なテンポ。弦の刻みが弱すぎてニュアンス伝わらない。木管のフレージングは美しい。 |
ツボ3 |
スラーを全く意識していない。 |
ツボ4 |
強弱操作がにこだわっているわりには、ここでは全く強弱の陰影を持ち込んでいない。特にメゾフォルテへの移行を完全に無視している理由が不明。 |
ツボ5 |
冒頭のスフォルツァンドを完全敢行!インテンポながら切々と情感が染み渡る。 |
ツボ6 |
ここのスフォルツァンドもしっかり敢行。全ての指揮者はこれを見習うべき! |
ツボ7 |
やや乱れがち。 |
ツボ8 |
直前まで全くリテヌートせず、いきなり倍近くのl超低速に転じる。スコアのテンポ指示を根底から洗い直す姿勢を終始見せているならともかく、このデフォルメは音楽的な興を増幅させるのに役立っているかといえば微妙に思える。オケの共感度合いも微妙。抑えがたい歌心の現れというよりも、予定調和的な演出に聞こえなくもない。 |
ツボ9 |
インテンポのまま。やや遅めのテンポを基調としていることで、細かい木管の動きが捉えられている。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
ホルンはミスはないものの、テンポに乗り切れておらず、ヴィブラートも中途半端。。 |
ツボ11 |
やや呼吸が浅い。 |
ツボ12 |
テンポは変えない。クラリネットもファゴットも素晴らしいニュアンスを醸している。この先、ピチカート登場までの木管のニュアンスは一貫して素晴らしい! |
ツボ13 |
思い切りの良いフォルテで打ち鳴らす。意思の塊! |
ツボ14 |
フォルテ4つの頂点までイン・テンポを貫き、直後に一気に脱力!これはありそうでなかなか耳にできないスタイルで、なかなかに効果的。 |
ツボ15 |
弱音一辺倒ではなく、最後までニュアンスを刻印しようとする意思が漲っている。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
インテンポ。直前のクレッシェンド付加。 |
ツボ17 |
各パートの連動の妙味を効かせた素晴らしいアプローチ!オケの機能美にも不足はない。 |
ツボ18 |
個々の奏者の技量不足で、一本のラインが築けていない。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
テンポは標準的。堂々とした推進力を湛える。 |
ツボ20 |
ホルンと木管は裏方に徹しているが、声部バランスが絶妙で確実に色彩の下支えと鳴っている。 |
ツボ21 |
標準的テンポ。ティンパニは一切クレッシェンドなし。 |
ツボ22 |
さり気なくアクセントを付加。 |
ツボ23 |
コントラバスだけにパワーを集中させる手法を完全放棄!全体一丸となった推進力で乗り切る。 |
ツボ24 |
イン・テンポののまま。 |
ツボ25 |
意図的には強調はしないないようだが、明快に響かせている。 |
ツボ26 |
ここもイン・テンポ。 |
ツボ27 |
テンポアップ。トランペットの破綻もなく素晴らしい高揚感を見せる。 |
ツボ28 |
音価を思い切り伸ばす。ティンパニは最後に一撃を置いている。 |
ツボ29 |
直前の全休止はたっぷり確保。ほとんどのロシア指揮者と同様に、濃密なレガートの弦が印象的。 |
ツボ30 |
弦も金管もレガートで「統一。 |
ツボ31 |
改変型。これほど曖昧さのないトランペット強調も珍しい。清々しいことこの上ない! |
ツボ32 |
もっと野太さがほしいところ。 |
ツボ33 |
堂々と確信に満ちた進行が素晴らしいが、音像の芯がやや弱く、全曲を締めくくるにはやや手応えが弱い。もっと凝縮度が高ければイン・テンポ進行の果敢さがはっきり際立ったことだろう。 |