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殿堂入り: 交響曲  管弦楽  協奏曲  器楽曲  室内楽  声楽曲  オペラ  バロック レーベル・カタログ チャイ5



チャイコフスキー:交響曲第5番〜全レビュー
TCHAIKOVSKY : :Symphony No.5 in e minor Op.64
アレクサンドル・ラザレフ(指揮)
Alexander Lazarev



掲載しているジャケット写真と品番は、現行流通盤と異なる場合があります。あらかじめご了承下さい。



チャイコフスキー:交響曲第5番

アレクサンドル・ラザレフ
読売日本交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ:山岸博
オクタヴィア
OVCL-00215
(1SACD)
録音:2005年2月9日 サントリー・ホール
演奏時間: 第1楽章 16:39 / 第2楽章 13:18 / 第3楽章 5:22 / 第4楽章 11:49
“西欧的な洗練とロシアン・ダイナミズムを完全融合させた画期的チャイ5!”
ラザレフのオケのドライブ能力の高さを改めて痛感することしきり!決して過度な要求はしていませんが、独自の音色感、音の厚み、ダイナミズムが隅々にまで浸透し、ライヴの雰囲気とも相俟って10年来の主兵のオケのような一体感を見せているのがまず印象的。しかもそのアプローチは終止確信に溢れ、演奏されつくされたこの曲に一切マンネリなど感じさせる暇を与えず、オケも聴き手もグイグイ牽引する力に圧倒されます。第1楽章は冒頭からロシア的憂いそのものの暗さが耽溺に終わらず、芸術的格調まで高めているのに身が引き締まり、提示部のインテンポに込められた万感の思いも痛いほど伝わります。衝撃的なのは、副次主題のテンポの落とし方!いきなり100年前にタイムスリップしたような超低速による泣きの連続で、特に弦楽器はこの意味を体で感じ取って淀みなく歌いぬくのは相当苦労があったと思いますが、こんな極端な表現も借り物のような鳴り方ではなく、共感が滲んでいるだけに感動もひとしお。しかしあくまでも全体像は逞しい精神を絶やさず、決して悲観を肯定せずに希望を信じてて突き進む姿勢が最後まで一貫しているのがまた見事です。第2楽章でも表現が後ろ向きにならず、常に推進力を絶やさないフレージングの強固さが素晴らしく、それこそよく言われるC・クライバーとの類似を感じさせる構成の凝縮力の強さ!第3楽章はサロン的なワルツとして演奏されること多いですが、速めのテンポの上に響きが骨太。ラザレフがイメージした音色が完全にオケに浸透していることを実感できます。コーダまさに勇壮さの極み。終楽章も非の打ち所のない素晴らしさ!特に提示部冒頭から「運命動機」斉奏までの各声部の緊密な連動ぶりと響きの充実は、ロシアのオケかと思うほどの安定しきった鳴りっぷりで、低弦の動きが独自の推進力に拍車をかけているのも特徴的。金管の運命動機斉奏部で2度目に音量をアップさせるのはテミルカーノフなどの例もありますが、その効果がこれ程激烈な演奏はかつてありませんでした。そういったロシア的な力感を象徴する場面も随所に盛り込みながら、スコアにあるテンポ指示よりもストレートな推進性を優先し、全体のフォルムの美しさも保持している点も見逃せません。キタエンコの演奏などは、ロシアと西洋の狭間で悩みながら終わってしまった感が否めなかったのに対し、ここではその両面を見事に融合させ、しかも普遍的とも言える存在感を示した点で、画期的と言ってももよいのではないでしょうか。【湧々堂】
第1楽章のツボ
ツボ1 温かくも孤独な響きが印象的。低弦も憂いを湛えて雰囲気満点。かなり濃厚に強弱を施して濃厚に歌わせている。
ツボ2 その雰囲気を引きずりながら優しく開始。テンポは標準的なアンダンテ。クラリネットとファゴットのバランスも理想的。
ツボ3 楽譜どおりだが、多少アクセントが掛かる。
ツボ4 楽譜に忠実。呼吸が減衰する中でも逞しさは保持。参照楽譜冒頭(68小節)の符点リズムが厳格なまでに正確
ツボ5 冒頭で弱音部分を長く引き伸ばすのが特徴的で、120小節から繰り返す時には強弱の振幅を更に大きくして情感を煽る。
ツボ6 タイでつながった音符と次の音符を少し切り離し、後ろ髪引かれるニュアンスを表出。
ツボ7 低弦を良く効かせた骨太な音色。
ツボ8 ここまで一貫してインテンポを通してきたが、ここから突如、テンポを約倍にまで落とす!ここまで低速で、ヴィヴラートもたっぷりと楽譜の指示通り連綿と歌いぬいた演奏は例がない!これが、194小節のTempTの指示まで続く。展開部からは、また提示部冒頭のテンポ。
ツボ9 インテンポ。なんと16分音符が聞き取れる!まさにロシア的な重心の低いリズム感と厚味たっぷりの音像が見事!
第2楽章のツボ
ツボ10 低弦の導入の表情が実に入念!ホルンが入る直前の弱音の意味深さと響きのクオリティの高さが絶品!山岸のホルンは、その雰囲気とはやや異質でゴツゴツとしたドイツ風の歌いまわしと音色だが、日本の誇りであるこの技量はかけがえのないもの。
ツボ11 テンポを溜め込まず、直前の2連音の流れのままフォルティティに達する。
ツボ12 ここでのクラリネットはあっけらかんとしているが、続くファゴットが素晴らしい。ヴィヴラートがまさに心の震え!
ツボ13 堂々とフォルテで鳴らしきっている。直前の大高揚を受けるには、これが自然に思えてくる。
ツボ14 ここからややテンポを速めて一気に駆け上がり、迫力満点で、フォルテ4つに達しても腰砕けにならない。
ツボ15 繊細ながら男性的な強さも感じさせるフレージング。直前の11:20で携帯電話のような音が聞こえる。このような不心得者は、罰金を徴収した上で向こう5年間演奏会には出入り禁止にすべきだ!
第3楽章のツボ
ツボ16 強固な意志が漲るインテンポ。
ツボ17 クラリネットが音を外し気味。急速なテンポだと軽いテクスチュアになりがちだが、骨太さを保っているのが流石。
ツボ18 見事な連鎖。
第4楽章のツボ
ツボ19 テンポは標準的。繊細さと逞しさの入り混じったニュアンスを見事に表出。
ツボ20 ホルンと木管はほぼ同等バランス。
ツボ21 最初にクレッシェンド。62小節でクレッシェンドして66小節で一撃アクセントを置くスコア指示通り。テンポは、文字通りのアレグロ・ヴィヴァーチェ。ここから運命動機斉奏部までの響きの立派さは近年稀な見事さ!ティンパニは、58,62小節の頭にアクセントあり。弦とともに見事な高揚感を作り出す
ツボ22 忠実にアクセントを生かしている。
ツボ23 バランス的にはヴァイオリンのほうが強いが、コントラバスの力感に不足はなく、ブレンド感も良好。
ツボ24 テンポを変えない。
ツボ25 意図的には強調はしないないようだが、明快に響かせている。
ツボ26 ここも同じテンポ。
ツボ27 テンポアップ。緊迫の度を高めながら、トランペットも破綻せず見事に高揚。
ツボ28 音価を思い切り伸ばす。ティンパニは最後に一撃を置いている。
ツボ29 直前の全休止は、やや長すぎる感じ(編集の跡は感じられない)。テンポは標準的だが、響きの制御が行き届き、輝かしい進行。特に弦が熱い!
ツボ30 弦も金管もレガートで「統一。
ツボ31 改変型。しかもかなりトランペットを強調。
ツボ32 強奏ではないが、明瞭に鳴っている。
ツボ33 凝ったテンポ操作こそないが、堂々と確信に満ちた進行が素晴らしく、インテンポのままの終結にも納得させられる。

チャイコフスキー:交響曲第5番

アレクサンドル・ラザレフ
日本フィルハーモニー交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ:
日本フィルハーモニー交響楽団
JPS-46CD(1CD)
非売品
録音:2010年9月19日 東京芸術劇場 (第198回サンデーコンサート・ライヴ)
演奏時間: 第1楽章 16:07 / 第2楽章 12:51 / 第3楽章 5:27 / 第4楽章 11:55
カップリング/バレエ「くるみ割り人形」第1幕より4曲
“ロシア流儀の最後の伝道者が見せつける新鮮なアプローチの数々!”
★基本コンセプトは2005年盤と変わりないようですが、数々の個性的なアプローに一層磨きがかかっていることが分かります。例えば金管の内声を突出させるシーンが散見されますが、どれも確信に満ちており、表現としての説得力もを携えているのです。ロシア・ローカル色を隠さないのも特徴的。ラザレフは、そのスタイルを取る最後の世代と言えるかもしれません。
 第1楽章、第2主題前で超粘着質なテヌートを惜しげもなく見せつける指揮者があと何人現存するでしょうか?副次主題が倍近くテンポを落とすのはラザレフ以外誰も行っていない大胆解釈で、これはどう考えても不自然ですが、それを本人が気付いていないはずなどないのですから、そうしなければならない根拠が彼の中にはあるのです。その思いは決して蔑ろにしてはならないと思いつつ、オケの共感度がもっと高ければより効果的なカンタービレになったであろうことは想像に難くありません。展開部最後の高揚した響きの凝縮のさせ方や、コーダの重油を敷き詰めたような質感も本場指揮者ならでは。第2楽章は9:00からのホルンのの出し入れを含む色彩の付加は誰も思いつかない素晴らしいアイデア!第3楽章は更に注目すべき名演で、強弱に対する深い洞察、ホルンのゲシュトップなどの効果がすべてプラスに出て、見事なまとまりを見せています。終楽章は主部開始直後の74小節から弦を思い切りテヌート。これは今まで以上にロシア流儀を貫くことの決意表明のように迫り来ます。172小節からの運命動機斉奏はトランペットの8分音符を短く詰めて推進力を与えているのも痛快。テミルカーノフなど数例しかない188小節からのフォルティッシモの遵守も見られます。
 このように、ロシアの伝統的な響きを今に伝えようとしていながら、少しもスタイルの古さを感じさせないのは、ロシアには音楽にもその再現方法にもグローバル化が簡単には通用しない盤石の仕組みがあるためだと思いますが、ラザレフやシモノフ亡き後にもその仕組みが引き継がれ、いかにも系のロシア指揮者が誕生し続ける可能性は極めて低いと思われます。しかし、少なくとも次世代を担うロシア出身の指揮者には、従来のロシア流儀に凝り固まっていれば良いというのではなく、安易にピリオド・アプローチに走って他者と差別化を図ろうなどと考えず、自らの血と汗を誇りを持って表現に注入できる人が登場し続けることを願ってやみません。【2025年5月・湧々堂】
第1楽章のツボ
ツボ1 中庸テンポ。クラリネットと弦の比率バランスがやや崩れる箇所あり。強弱の不可にも恣意的な操作を感じさせる。
ツボ2 ごく標準的なテンポ。弦の刻みが弱すぎてニュアンス伝わらない。木管のフレージングは美しい。
ツボ3 スラーを全く意識していない。
ツボ4 強弱操作がにこだわっているわりには、ここでは全く強弱の陰影を持ち込んでいない。特にメゾフォルテへの移行を完全に無視している理由が不明。
ツボ5 冒頭のスフォルツァンドを完全敢行!インテンポながら切々と情感が染み渡る。
ツボ6 ここのスフォルツァンドもしっかり敢行。全ての指揮者はこれを見習うべき!
ツボ7 やや乱れがち。
ツボ8 直前まで全くリテヌートせず、いきなり倍近くのl超低速に転じる。スコアのテンポ指示を根底から洗い直す姿勢を終始見せているならともかく、このデフォルメは音楽的な興を増幅させるのに役立っているかといえば微妙に思える。オケの共感度合いも微妙。抑えがたい歌心の現れというよりも、予定調和的な演出に聞こえなくもない。
ツボ9 インテンポのまま。やや遅めのテンポを基調としていることで、細かい木管の動きが捉えられている。
第2楽章のツボ
ツボ10 ホルンはミスはないものの、テンポに乗り切れておらず、ヴィブラートも中途半端。。
ツボ11 やや呼吸が浅い。
ツボ12 テンポは変えない。クラリネットもファゴットも素晴らしいニュアンスを醸している。この先、ピチカート登場までの木管のニュアンスは一貫して素晴らしい!
ツボ13 思い切りの良いフォルテで打ち鳴らす。意思の塊!
ツボ14 フォルテ4つの頂点までイン・テンポを貫き、直後に一気に脱力!これはありそうでなかなか耳にできないスタイルで、なかなかに効果的。
ツボ15 弱音一辺倒ではなく、最後までニュアンスを刻印しようとする意思が漲っている。
第3楽章のツボ
ツボ16 インテンポ。直前のクレッシェンド付加
ツボ17 各パートの連動の妙味を効かせた素晴らしいアプローチ!オケの機能美にも不足はない。
ツボ18 個々の奏者の技量不足で、一本のラインが築けていない。
第4楽章のツボ
ツボ19 テンポは標準的。堂々とした推進力を湛える。
ツボ20 ホルンと木管は裏方に徹しているが、声部バランスが絶妙で確実に色彩の下支えと鳴っている。
ツボ21 標準的テンポ。ティンパニは一切クレッシェンドなし。
ツボ22 さり気なくアクセントを付加。
ツボ23 コントラバスだけにパワーを集中させる手法を完全放棄!全体一丸となった推進力で乗り切る。
ツボ24 イン・テンポののまま。
ツボ25 意図的には強調はしないないようだが、明快に響かせている。
ツボ26 ここもイン・テンポ。
ツボ27 テンポアップ。トランペットの破綻もなく素晴らしい高揚感を見せる。
ツボ28 音価を思い切り伸ばす。ティンパニは最後に一撃を置いている。
ツボ29 直前の全休止はたっぷり確保。ほとんどのロシア指揮者と同様に、濃密なレガートの弦が印象的。
ツボ30 弦も金管もレガートで「統一。
ツボ31 改変型。これほど曖昧さのないトランペット強調も珍しい。清々しいことこの上ない!
ツボ32 もっと野太さがほしいところ。
ツボ33 堂々と確信に満ちた進行が素晴らしいが、音像の芯がやや弱く、全曲を締めくくるにはやや手応えが弱い。もっと凝縮度が高ければイン・テンポ進行の果敢さがはっきり際立ったことだろう。


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