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ICA CLASSICS
ICAD-5059D(DVD)
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エーリヒ・ラインスドルフ(指) |
ボストン交響楽団 |
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録音:1969年4月15日ボストン・シンフォニー・ホール(モノラル・ライヴ)、映像:カラー、音声:モノラル |
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演奏時間: |
第1楽章 |
13:30 |
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第2楽章 |
12:25 |
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第3楽章 |
4:49 |
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第4楽章 |
12:17(拍手を含む) |
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カップリング/モーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」〜メヌエット第1番、ベートーヴェン:エグモント序曲 |
“パワハラ的なテンポ運び!それに付き従うボストン響の凄さ!” |
映像作品としての「チャイ5」としては、面白さダントツ!ラインスドルフの映像というと、ウィーン響を振ったJ・シュトラウスを思い出します。オーストリア出身にもかかわらず、ほとんど情というものを感じさせず、作品を正確に鳴らすことに終始したような演奏でしたが、この「チャイ5」も歌うことを禁じ、フレーズに酔ったらあとで厳しい罰が待ち受けていそうな締め付け感が全体を覆っており、音楽そのものを味わうという点ではお勧めしにくいのでですが、映像を見ることによって、ラインスドルフの意図がオケにどのように伝わり、どういう反応を示しているのかが手に取るようにわかり、即興性と即物性が入り混じったような独特のアプローチが生まれる過程を具に確認できるドキュメントという点で、あえて「Excellent」マークを付けました。
ラインスドルフのアプローチは、63年盤と基本ラインは共通していますが、テンポも強弱も一層コントラストは大きくなり、響きは贅肉を削ぎ落した筋肉質なもので、テンポはスピード感重視。意外なのは終楽章で、ドライなラインスドルフの印象からは信じられないほどの熱演を繰り広げているのが特徴的で、後半の全休止部分では、なんとラインスドルフが物凄い唸り声を発して次のフレーズへなだれ込みます。全休符のフェルマータを無視して気合で先へ進むテンポも、63年よりもかなり高速。この一連のオケに対するまくし立て方をとくと確認してくだい。圧巻は、コーダを締めくくる4つ四分音符を「ダダダダ!」と高速ドリルのように突き刺して終わるという荒技!かつてストコフスキーも行っていた手法です。63年盤を最確認するとなるほどその片鱗は多少聴き取れますが、ここまで露骨ではありませんでした。その際のラインスドルフのジェスチャがまた見もの!
ところで、ラインスドルフの棒の特徴ですが、極めて分かりにくいのは相変わらずです。特に左手で表情を与えることは殆ど無く、左右の手首をゆさゆさと均等に動かすだけで拍を示し、大音量のトゥッティでは大きく棒を振りかざしながらも、棒を下ろす際は腰をかがめてお辞儀をした格好になってしまう癖は、いわゆる指揮法の王道からは外れており、フレージングが生命感とスケール感を蓄えないまま音になってしまうのも、そのクセのある動作に関係しているのかもしれません。次のフレーズに新たなニュアンスを加える際にも直前でオケに暗示を与えることも皆無に等しいので、ゆとりと確信を持った表情が生まれにくく、唐突なテンポの変化にもなかなか安定感が得られない場面も散見されます。つまり指示の一つ一つに「優しさ」が感じられないのです。生前は各方面とトラブルも多かったそうですが、相手に気持ちよく理解してもらいながら理想の音楽を築くというのではなく、ラインスドルフ自身の考えを絶対視し、それに従いさえすれば間違いないんだという自信が人一倍強かったのかもしれません。
要求の厳しさという点ではトスカニーニの名も浮かびますが、トスカニーニにはなんといっても強烈な訴求力を誇るカンタービレという武器がありました。ところがラインスドルフには音楽のニュアンスを押し広げるような決め手になる技もこれといって見出せません。
一方、そんなドラスティックというかサディスティックというか、独特の厳しい要求に従うボストン響のプロ意識には感服することしきり。指揮者との共感度合いは別として、最後まで破綻を見せずに精度の高いアンサンブルを展開しており、心から拍手を贈りたいと思います。それと弦の美しさ!
ラインスドルフの解釈はスリリングだけど心に迫ってこない…と言いながら、実は終楽章の最後の和音が打ち鳴らされた直後、感動で鳥肌が立ち、自分でも驚いてしまいましたが、これも過酷な試練によくぞ耐えぬいたというオケに向けての思いが積もった結果かもしれません。
なお、映像は鮮明なカラー。音質は代理店の情報ではモノラルとなっていますが、一定の広がりが感じられてとても明瞭です。【湧々堂】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
2本のクラリネットは完璧なバランスで共鳴するが、テンポがメトロノームのように無機質。低弦は物々しい雰囲気を醸しだす。 |
ツボ2 |
最初の弦の刻みは通常よりやや速め。木管がテーマを吹き始めると更に速くなり、遂には史上最速の部類の高速に落ち着く。 |
ツボ3 |
余韻が皆無。 |
ツボ4 |
あまりにもテンポが速いので憂いなど感じさせず、呼吸は一本調子。 |
ツボ5 |
わずかにテンポを落とし、ラインスドルフも憂いの表情を浮かべて指揮をするが、呼吸が浅く、音楽の核心に触れるのをあえて避けるようなクールさ。 |
ツボ6 |
強弱のコントラストは希薄。ここでもクールなインテンポ。フレージング自体は丁寧。 |
ツボ7 |
縦の線が完璧の揃い、ボストン響の弦の質感も格別。 |
ツボ8 |
ここは打って変わって抒情豊かは歌をきかせ、弦の美しさも手伝ってフレージングが真に迫っている。ただやはり呼吸は決して深くない。 |
ツボ9 |
冒頭の16分音符は聞き取れる。ここからテンポを速め、最後まで高速のまま突き進み推進力を確保しているが、音楽自体が小ぶりに感じる。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭の弦は、これまたほろぼれする美しさ。ロシア的な音像の広がりも感じさせる。ホルン(1972年まで首席を務めた)は、かなり緊張気味で、楽譜通り吹くのが精一杯。クラリネットとも融け合わない。オーボエは巧い。 |
ツボ11 |
強烈な衝撃こそないが、風格味のあるフレージングを醸成。しかも魅力的な弦の響きが主体となっているので、音楽的な説得力を持って迫る。逆にラインスドルフという人がますます分からなくなってくる。 |
ツボ12 |
テンポをを少し速める。、クラリネットもファゴットも技術的に完璧だが、9連音は軽く流しすぎ。 |
ツボ13 |
直前の全休止が異様に長い。この弦も見事な響き。 |
ツボ14 |
ラインスドルフらしい巧みな設計力を感じさせる瞬間。頂点への登りつめ方も心から熱狂はしていないが、着実に足場を固めた安定感がある。 |
ツボ15 |
全体を通じてもっとも美しい瞬間かもしれない。ラインスドルフの指示とは無関係に、オケが主体的に自分たちの音楽を奏切ったとも受け取れる。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
一旦テンポを落とす。 |
ツボ17 |
アンサンブルは精妙だが、香りや色彩的な華やぎ少ない。 |
ツボ18 |
これぞ理想!特に一回目の連鎖の妙は奇跡的! |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
テンポは中庸。弦全体のバランスも非常に良い。 |
ツボ20 |
ホルンは部分的に突出。 |
ツボ21 |
ティンパニはスコアどおりだが、一呼吸を置いてから一撃し、トレモロを開始するのは63年盤と同じ。テンポはやや速め。 |
ツボ22 |
アクセントは無視。この直前の122小節のトロンボーンの入りはスコアよりも1拍早く吹かせている。 |
ツボ23 |
凄みはないが、精妙なアンサンブル。 |
ツボ24 |
インテンポ。 |
ツボ25 |
響きは鈍い。 |
ツボ26 |
直前でテンポを落とすが、ここからまた主部冒頭のテンポ。 |
ツボ27 |
そのままインテンポ。しかしこの時点ではライヴ特有のノリも手伝って、主部冒頭のテンポよりもかなり高速に達している。 |
ツボ28 |
完全にスコアどおりの音価。ここで拍手をされるのを避けるためではないだろうが、ラインスドルフが猛烈な唸り声を発しながら全休止を殆ど取らずにまっしぐら! |
ツボ29 |
史上最速クラス。完全に軽快なマーチ!コンロラバスのパートがクローズアップされるが、その弓さばきの速さを目にすると余計に高速ぶりを実感。 |
ツボ30 |
474小節では弓を一瞬浮かせてレガートを回避し、直後の476小節では明確に音を切っている。トランペットは音をつなげ気味だが、わずかに空白を入れる。 |
ツボ31 |
改変型。この後はも猛烈に速い! |
ツボ32 |
強烈な強奏ではないが、ホールに響く良い響き。 |
ツボ33 |
プレスト以降もかなり速い。最後の4小節の付点2分音符を伸ばせるだけ伸ばし、最後の4つの四分音符は天を仰いで両手をブルブル震わせて一気に畳み掛けて終わる!これを映像で見られののだから興奮しないわけにはいかない! |