|
ディミトリ・ミトロプーロス(指) |
ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 |
第2楽章ホルン・ソロ: ジェーム.ス・チェンバース |
|
Treasures
TRT-021(1CDR)
|
録音:1954年3月27日 ニューヨーク、コロンビア30丁目スタジオ |
|
演奏時間: |
第1楽章 |
12:27 |
/ |
第2楽章 |
12:57 |
/ |
第3楽章 |
5:57 |
/ |
第4楽章 |
11:29 |
|
カップリング/ボロディン:だったん人の踊り、イッポリトフ=イワーノフ:コーカサスの風景 |
“絶頂時のミトロプーロスのだけが可能な壮絶無比な魂の叫び!” |
この「チャイ5」は、ニューヨーク・フィルの機能性と自主性を全面的に信頼した上で、ミトロプーロスが全身で感じ取った音楽のイメージをストレートに表現に転化し尽くした驚異的名演!全てのニュアンスが個性的でありながら、全体を俯瞰する構成力と細部の掘り下げとの調合も同時に完全遂行するという離れ業は、絶頂時のミトロプーロスだけが実現可能なものと言えましょう。
第1楽章序奏部は単なる悲しみを超え、抑えきれない不安がクラリネットの野太い音色に乗せて塊となって押し寄せます。それが主部に入ると洗練味を増し、集中力も加味して見事な推進を見せます。第2主題前の104小節から、管楽器の一斉に抑えて弦だけで高潔な響きを醸し出すという配慮は、理屈を超えたセンスの高さの表れ。第2主題は、楽章全体のビジョンを象徴するかのように呼吸がとてつもなく深いこと!ピン・ポイントでテンポに緩急を付加する場面も頻出しますが、全てが正直な衝動の反映であり、安易な思いつきの印象を与えないのです。
第2楽章は、ホルンのスコア遵守度の高さがまず印象的。クラリネット・ソロが登場する中間部に至るまでの呼吸のしなやかさと官能美は、間違いなく世界最高峰!マッチョな盛り上がりで煽るロシア流儀とは別世界です。クラリネット・ソロの後はフレーズの結尾を執拗にリテヌートし、その後ろ髪を引かれる風情に心惹かれますが、108小節のピチカート以降は、全体の白眉!もはや神憑り的フレージングと呼ぶしかなく、セッション録音でこれが実現できたのは奇跡!終結部の弱音に頼らない濃密なフレージングにも言葉を失い、背景のホルンのリズムの遠近感も前代未聞で忘れられません。
第3楽章冒頭第1音は、音価の引き伸ばし方がいかにもミトロプーロス。中間部の強弱対比の鮮やかさはまるで人間のお喋りのようで実にリアル。コーダで運命動機がいきなり飛び込むシーンのドキッとする唐突感は、無敵の瞬発力を誇るミトロプーロスの棒でなければ実現不可能でしょう。
全楽章において、マッシブな造形力がびっしりと張り巡らされていますが、感覚的な馬力や暴力性とは無縁で、全てが心の奥底からの魂の叫びの音化であることがミトロプーロスらしさの所以。終楽章の冒頭や終結部などは、その好例と言えましょう。504小節からの弦の8分音符を装飾音として扱うのも他に類例なし。
全体に息づく生死にかかわるようなのっぴきならないニュアンスの数々は現代には求めようもなく、いくら机の上でアイデアを凝らしても追いつくものではなく、「やり過ぎ」とか「古臭い」といった上辺の現象だけを捉えて済まされる代物もはないのです!【2022年6月・湧々堂】 |
|
第1楽章のツボ |
ツボ1 |
クラリネットの太い音色ガまず印象的。イン・テンポ進行ながら、強弱対比の付け方が独特で、女々しさを寄せ付けないと強い意志に満ちたフレージングを敢行。弦の響きは悪魔の囁きのよう。 |
ツボ2 |
テンポはやや速めで、スコアの指示に近い。クラリネットとファゴットのユニゾンが醸し出す音色が絶品。 |
ツボ3 |
スラーはほとんど意識せず、瞬発的な切れのあるニュアンスが優先。 |
ツボ4 |
繊細な強弱遵守よりも推進力の維持を優先。粗雑感が皆無で、洗練度が非常に高い。 |
ツボ5 |
心の奥底からの嗚咽!しかし旋律線の隈取りは克明で、響き自体は毅然さを保持。 |
ツボ6 |
信じ難いほど深い呼吸!スコアの指示を無視しているのではなく、発展形であることを痛感。 |
ツボ7 |
縦の線の多少のズレより重要でのっぴきならないニュアンスがここには確実に存在している。 |
ツボ8 |
意外なほど淡白にインテンポで駆け抜けると思わせておいて、ピンポイントでテンポに緩急を付加。正直な衝動の反映であり、安易な思いつきの印象尾を与えない。 |
ツボ9 |
早めのテンポのままインテンポで突入。16分音符は聞き取れない。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭の弦は単純なテヌートではなく、一音ごとに深く思いを注入。ホルンは、スコアの指示への遵守度の高さは、史上トップクラス。しかも、音楽的なニュアンスとして結実している。 |
ツボ11 |
ホルン・ソロ終了からここに差し掛かるまでのとろけるような官能的フレージングはミトロプーロスのの真骨頂。それを払拭することなく昇天を目指し、フォルテシモも絶叫ではない甘美さが横溢。もちろん、こんなニュアンスは他に類例なし!! |
ツボ12 |
官能の余韻を打ち破るようにクラリネットが駆け込んでくる。 |
ツボ13 |
全曲を通じての白眉!ピチカートは死の淵からの誘惑のような恐怖を湛えている。その後のフレージングは、すんべての毛穴を全開にしても受け入れきれないほどの感動的なもので、言葉での表現は不可能! |
ツボ14 |
音量で圧倒する手法とは無縁。フォルテ4つの直後に音価を倍加するほど引き伸ばすことで、内的な燃焼の極限を表現! |
ツボ15 |
166小節のリテヌートの指示を無視した稀有な例。171小節以降もフレージングが誰よりも濃密。背景のホルンまでもが深い陰影と遠近感を伴ってリズムを刻む。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
慣例的なテンポの落とし方とは意味深さが異なる。 |
ツボ17 |
弦の動きを主体とした声部バランス。強弱対比が人間の喋り声のようにリアルなニュアンスを孕んでいる。 |
ツボ18 |
旋律線が不鮮明。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
テンポは標準的。ここでも強弱とテンポの巧妙は変化がが印象的。 |
ツボ20 |
ホルンは木管と同等のバランス。 |
ツボ21 |
ティンパニは、58小節飲み軽くアクセント。後はトレモロのまま。テンポは標準的。 |
ツボ22 |
完全に無視。 |
ツボ23 |
コントラバスよりも、木管が強靭な意思を伴って鳴り響くのが印象的。 |
ツボ24 |
ほぼ同じテンポのまま。 |
ツボ25 |
特にアクセントは無し。 |
ツボ26 |
ここもほぼインテンポ。 |
ツボ27 |
一瞬のリテヌート後、ほぼ同等のテンポで進行。452小節と454小節はティンパニが1音追加している。 |
ツボ28 |
8分音符の音価はスコアどおり。。ティンパニは最後の一打あり。 |
ツボ29 |
単純な馬力とは隔絶した高潔の進行。 |
ツボ30 |
弦もトランペットも音を切る。 |
ツボ31 |
改変なし。 |
ツボ32 |
最後の一音まで明快。 |
ツボ33 |
562ー563小節のみリテヌート。最後の2小節は元のテンポに戻る。 |