|
ヴァシリー・ペトレンコ(指) |
ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 |
|
Onyx
ONYX-4150(2CD)
|
録音:2014年11月15-16日 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー・ホール |
|
演奏時間: |
第1楽章 |
13:58 |
/ |
第2楽章 |
12:32 |
/ |
第3楽章 |
5:41 |
/ |
第4楽章 |
11:38 |
|
カップリング/チャイコフスキー:交響曲第1番&第2番 |
“奇を衒うことなく手垢にまみれたプローチを刷新したペトレンコの快挙!” |
★新録音の「チャイ5」としては、ソヒエフ以来の感動作!ソヒエフも、このペトレンコも、かつてのソ連流儀のド迫力路線に拘泥しない独自のセンスで説得力のある演奏を繰り広げているのは頼もしい限りです。かつての泥臭い演奏を懐かしむ声も多いかと思いますが、単にグローバル化の波に乗って器用に立ち回り、何の主張も盛り込めない指揮者とは違い、これほどの有名曲において、過去に類例のない新鮮なアプローチを敢行し、かつてない感動を呼び起こす芸を堪能できるというのはなんと幸せなことでしょう。
ペトレンコが引き出す音楽の素晴らしさの源にあるのは、過去の名指揮者の名演の素晴らしさを十分に認識したうえで、それらを否定するのではなく、自分の中で全てを消化し、直感的に溢れ出た表現を正直に展開すれが必ず聴き手の心に響くという確信力。とにかく、チマチマしたところが一切ないのです。しかも、後付け的に新たなニュアンスを盛り込んで差別化しようという魂胆などなく、楽想の感じ方が純粋なので、音楽全体が生まれたてのように新鮮に迫ってくるのです。
「スコアを全面的に信頼する」とう綺麗事とも無縁。終楽章の後半では、ムラヴィンスキーと同じ音量操作を採用し、独自の強弱効果も追加するなど、感覚的な面白さへの期待も十分に満たすというサービス精神も発揮。
作品への共感もまさに筋金入りで、特に第2楽章で多く聴かれるピアニッシモが痩せることがなく、本当のピアニッシモのニュアンスとして伝わるというのは、意外と実例は少ないのです。
第1楽章主部前半で、ティンパニが誇張を感じさせずに、全体と見事に溶け合う録音も特筆ものですし、終楽章最後のプレストをかなりの高速で飛ばしながら上滑りすることなく真の推進力を湛えるという例も稀なこと。
カップリングの「第1番」「第2番」では、作品の性格を活かし、より土俗性に比重をおいたアプローチを行なっており、これまた名演を展開していますが、この「5番」では、明らかに軸足を変えている点にも、ペトレンコの見識のとセンスを感じさせます。
特にベートーヴェンなどで、「手垢にまみれた解釈を見直す」という大義名分を立てて、奏法や楽器を変えるのが大流行ですが、「ありきたりではない演奏」を目指すなら、そういうことではなく、このペトレンコのように自身の独自の感性を誇り、それを臆することなく示してほしいものです。【湧々堂】 |
|
第1楽章のツボ |
ツボ1 |
クラリネットは一本だけに聞こえる。弦と縦の線がよく揃い、ニュアンスを過不足なく付加。 |
ツボ2 |
標準的なテンポ。リズムを軽めに弾ませつつ、ほのかに憂いを滲ませるニュアンスが効果的。 |
ツボ3 |
スラーをむしろ取り払い、重苦しさを排除。 |
ツボ4 |
72-73小節のクレッシェンドの意味を確実に注入しているのが画期的。 |
ツボ5 |
完全にイン・テンポで一息で歌い上げる。求心力の高さに心奪われる! |
ツボ6 |
アニマート直前までイン・テンポを維持。若干テンポを落とすアニマート以降は洗練美が光る。 |
ツボ7 |
劇的に新たなテンポを持ち込むことなく、軽妙さを維持。 |
ツボ8 |
弱音が心からの震えを反映し、痩せることなくしっかり響いているのは特筆もの! |
ツボ9 |
イン・テンポのまま進行。ややテンポが速めなので、当然ながら前の音と被って付点リズムは明瞭に浮き出ないにも関わらず、そのリズムの空気感が伝わるのが驚き! |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
この冒頭部も、重苦しさを排除した洗練美が横溢。一音ごとのニュアンスにこだわりすぎて音楽が停滞することは決してない。ホルンも絶品!ソロとしての個性を期待しがちだが、オケの一パートとしての分を弁えた全体との融け合いの素晴らしさは見逃せない。 |
ツボ11 |
瑞々しいダイナミズムが炸裂!フォルティシシモ以降は、フレーズを区切ることなくゆるやかに沈静化するその呼吸のセンスも見事。 |
ツボ12 |
テンポは少し早める。クラリネットは決して粘らず、すすり泣かず、むしろ爽やか。旋律の魅力にすべてを語らせるこの手法は、ペトレンコのこの作品の捉え方を象徴するシーンと言える。 |
ツボ13 |
かなり淡白に響くが、それこそがミソで、続くによるテーマの再現の切なさが生きてくる。 |
ツボ14 |
冒頭のティンパニ一撃の素晴らしさ!その後の停滞しない呼吸の持続感、増幅加減も申し分なし! |
ツボ15 |
全体を通じ、ここが最も主情的に歌わせた箇所かもしれない。ここでも弱音が表面的に響くことは一切なく、全ての音が心にしみる。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
この間のとり方、一瞬のテンポの落とし方は、センスの塊り!全ての指揮者が傾聴すべき技! |
ツボ17 |
全パートが均等に発言力を持ち、アンサンブルの妙味を発揮。テーマ再現直前の148小節((2:56)のクラリネットとファゴットを強く前に出しているが、これはロシア的色彩を出したほとんど唯一の箇所。この手法自体は他にも例があるが、その旨味にこれほどハッとした例はない。 |
ツボ18 |
楽器の変わり目は確認できるが、両楽器とも俊敏なレスポンス。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
高圧的ではない、確信に満ちた生命力を確保。 |
ツボ20 |
ホルンは原則的にハーモニーの裏方に徹している。全体的に和声のバランスの捉え方が直感的な凝縮力を見せているのが驚異的。 |
ツボ21 |
テンポは標準的。ティンパニは58、62、66小説の各冒頭にアクセントあり。弦と管とのバランスも絶妙。 |
ツボ22 |
完全に無視。 |
ツボ23 |
大音量ではないが力感に不足なし。ヴァイオリンもかなり前に出すのはカラヤンの前例があるが、それよりもバランスは良好。 |
ツボ24 |
少しテンポアップ。 |
ツボ25 |
あからさまな強打ではないが、存在感を確実に打ち出す絶妙さ。 |
ツボ26 |
そのままイン・テンポ。 |
ツボ27 |
このトランペットとホルンのバランスも鉄壁!テンポは主部冒頭と同じ。 |
ツボ28 |
ほぼ楽譜どおりの音価。ティンパニはトレモロの最後にアクセントあり。 |
ツボ29 |
実に健康的で清々しい! |
ツボ30 |
弦もトランペットも、明確にスタッカートで切る。491小節と、493小節に、スコアにないクレッシェンドを付加。499小節からガクッと弱音に変換するムラヴィンスキー方式を採用。 |
ツボ31 |
改変型。503小節で、2つの2分音符にそれぞれスフォルツァンドだけでなく、クレッシェンドも付加しているのは画期的! |
ツボ32 |
英国らしい高域まで伸びきった痛快な響き。 |
ツボ33 |
最後までイン・テンポを貫徹。最後の564小節の4分音符はトレモロに変更。 |