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ヴィトルド・ロヴィツキ(指) |
バーデン=バーデン南西ドイツ放送交響楽団 |
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SWR music
SWR-19112CD(2CD)
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録音:1962年2月14日 バーデン・バーデン、ハンス・ロスバウト・スタジオ【モノラル】 |
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演奏時間: |
第1楽章 |
16:04 |
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第2楽章 |
13:32 |
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第3楽章 |
6:27 |
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第4楽章 |
12:29 |
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カップリング/交響曲第6番ロ短調「悲愴」、『くるみ割り人形』組曲 |
“甘い感傷を寄せ付けないロヴィツキの熱いこだわり!” |
初出の放送用録音。ロヴィツキの音楽作りの特徴であるテンポ変化のタイミングや音価の長短へのこだわりが随所に感じられる非常に興味深い録音。ムザのスタジオ録音と共通する解釈も見られ、スコアを知り尽くし、イメージが完全に出来上がったいることを伺わせます。全体に音色のトーンが暗く、人間的な温かみより音楽の構造の妙味で訴えかける点も、いかにもロヴィツキ。したがって、情に溺れたり感傷にふけるシーンはありませんが、すべてのテンポ設定、強弱変化などの操作には強烈な意味が込められており、その揺るぎない意志の力によって、音楽全体に独特の安定感をもたらしています。
第2楽章は、ロヴィツキの「情に溺れない歌」の魅力が満載。音量パワーに頼らず、音の意志の力で共感の熱さが音の端々から溢れます。ロヴィツキの意図がほぼ完全に再現されていると思われるのが第3楽章。表情注入と構成力に一切ムラがなく、バレエの1シーンのような軽みとは違う純音楽的な味わいを引出しており、この手応え十分のテイストは他の指揮者ではなかなか見い出せません。
ロヴィツキの独特の解釈は決して独善的なものではなく、スコアを真摯に読み込んだ上で、その背後の意味を確信を持ってニュアンス化したものであることは、終楽章188小節のフォルティッシモの指示を忠実に慣行していることなどからも明らか。
ただ残念なのは、オケがロヴィツキに敬意を払い、その意図を汲んで表現しているものの、団員の体に染み込むまでには至っておらず、ロスバウトの薫陶を受けた優秀なオケの技量も、特に両端楽章でやや散漫に聞こえること、SWRのCDにありがちな、オリジナルの放送用テープの音にステレオ的な広がりが加えて音が脆弱に響くことなどがマイナス要因となり、せっかくのロヴィツキの熱いこだわりがダイレクトに迫ってこない点。終楽章の追い込みでテンポを煽るのは良いとしても、それが興奮よりも慌ただしさが先に立ち、音楽がスケールダウンしているのも残念至極。ロヴィツキは元々重厚なサウンドを思考する人ではないので、表現の方向性は意に沿っていると思いますが…。
もう少し時間を割いて録音に望むか、妙なマスタリングなど加えないオリジナルのサウンドのままCD化されていたら、これより数倍心に迫る演奏となっていたに違いありません。 【湧々堂・2022年12月】 |
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第1楽章のツボ |
ツボ1 |
低速テンポで、暗く濃密な表情を紡ぐ。クラリネットの弦の主導権を絶妙に入れ替える。 |
ツボ2 |
中庸のテンポ。音色は暗めだが、リズムがキリッと洗練されているので、悲しみに溺れる素振りは見せない。 |
ツボ3 |
スコアを遵守。 |
ツボ4 |
スラーは意識せず、スタッカートを優先してサクッと進行。 |
ツボ5 |
直前のテンポの落とし方が独特!直前の1小節のみを念を押すように噛みしめる。第2主題は全体を大きな呼吸で歌い抜く。 |
ツボ6 |
フォルティッシモは強調せず。 |
ツボ7 |
かなり長いスパンでテンポを落としす。ピチカート直前の弦の繊細な響きも印象的。 |
ツボ8 |
テンポこそ標準的だが、一音ごとに余韻を感じながら歌うスタイルは独特の憂いを伴って心に訴えかける。 |
ツボ9 |
インテンポのまま進行、16分音符は明確に聞こえる。コーダのリテヌートが恐ろしく入念! |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
弦の導入は、全体に大きな弧を描く描くのではなく、一音ごとに丹念に入アンスを注入。ホルンは破綻もなく丁寧に拭いているが、テンポを持て余し気味でニュアンスが平板。 |
ツボ11 |
パワーの爆発よりもl哀愁味を優先。 |
ツボ12 |
はっきりとテンポを上げて別世界を展開するが、クラリネットが自らの技術に酔っているような能天気ぶり。 |
ツボ13 |
直前に猛烈に加速。ピチカートからは再びテンポを戻すがハーモニーのバランスが悪い。 |
ツボ14 |
ロヴィツキの確かなルバートのセンスが光る。ロシア系指揮者に多い爆発ではなく、常に深い情念を湛えたエネルギーの増幅を見せる。 |
ツボ15 |
細い音で繊細さをアピールするのではなく、明確に音像を刻印。特に低弦の受け答えにもはっきりと主張を持たせるのがロヴィツキらしい。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
テンポを落とす。 |
ツボ17 |
ややテンポアップするが、軽妙さを狙わずに、各声部の連動の妙で魅了。テーマの再現直前でこんな丁寧なリテヌートを行った例は他にないのでは? |
ツボ18 |
見事な美しいラインを形成! |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
威厳に満ちた進行。テンポは標準的。 |
ツボ20 |
ホルンは裏方だが、しっかり響いている。 |
ツボ21 |
テンポはやや遅め、ティンパニは58小節頭にアクセントを置き、その後はクレッシェンドなしで一定音量。74小節、76小節はテヌートを施している。 |
ツボ22 |
ほとんど無視。 |
ツボ23 |
ことさらコントラバスを強調せず淡々と進行するが、響きの凝縮力が高いので、音楽が弛緩することはない。 |
ツボ24 |
若干テンポアップするが、オケの方のギアチェンジが甘い。 |
ツボ25 |
極めて控えめ。 |
ツボ26 |
ここも直前で急激にテンポを落とすが、ここでもオケの反応が少し鈍い。 |
ツボ27 |
もう少し切迫感が欲しいところ。トランペットがやや弱腰のせい? |
ツボ28 |
8分音符は本来の音価よりやや長め。トランペットがわずかににクレッシェンド。 |
ツボ29 |
ハリある弦の響き!威圧的な力感ではなく精神の効用の音化に徹している。 |
ツボ30 |
弦もトランペットも明確に音を切っている。トランペットがやや投げやりな吹き方をしているのが興ざめ。 |
ツボ31 |
改変なし。 |
ツボ32 |
ホルンの響きは上滑り気味。 |
ツボ33 |
痛快なアッチェレランド。ただ音楽自体が軽くなってしまった感は否めない。 |