|
ウォルフガング・サヴァリッシュ(指) |
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 |
|
Treasures
TRT-010(1CDR)
|
録音:1962年1月 アムステルダム・コンセルトヘボウ(ステレオ) ※PHILIPS
835116AYからの復刻 |
|
演奏時間: |
第1楽章 |
13:29 |
/ |
第2楽章 |
12:01 |
/ |
第3楽章 |
5:23 |
/ |
第4楽章 |
11:49 |
|
カップリング/チャイコフスキー:「白鳥の湖」より(5曲) |
“全盛期のコンセルトヘボウ管の魅力が、意欲満点のサヴァリッシュの棒で大全開!” |
※前回のレヴューから評価が一変したので、改めて再レヴュー致します。
まず、天国のサヴァリッシュに謝らなければなりません。前回の初CD化となったT社による音盤を聴いた際のレヴューでは、ニュアンスの焦点が定まらないこと、作品への共感度不足などを指摘しましたが、そう聞こえたのはサヴァリッシュのせいではなく、ひとえに復刻方法に問題があったことが、Treasuresの復刻盤を聴いて明らかとなりました。前回のレヴューの最後を「オリジナル盤に込められた音楽的な情報量を最大限再現することに努めた復刻が今後実現したら、この演奏に対する印象も変わる可能性は大いにあります」という言葉で締めくくっており、そのとおりの結果となったわけですが、サヴァリッシュの音楽家としての姿勢に微かな疑念を抱いてしまったことは、サヴァリッシュに申し訳ない気持ちで一杯ですし、CD(特にステレオ初期まで)を聴いて感銘を受けたら、本当はその何倍もの感動を孕んでいる可能性があること、逆に感銘を受けなかったとしても、自分の感性を疑うのではなく、まずCDの復刻方法自体を疑う必要が有ることを改めて思い知らされました。
前置きが長くなりました。サヴァリッシュのフィリップス録音は名盤揃いですが、この「チャイ5」も例外ではなく、コンセルトヘボウ管のステレオ初期の録音の中でも傑出した名演奏です。オケにはメンゲルベルク、ケンペン時代を知る奏者が残っていたと見え、その残像が随所に垣間見えますが、その余韻とサヴァリッシュの堅実な音作りとが強力に結合して、絶妙な味わいを醸し出しています。スコアに小細工を施さないサヴァリッシュの真摯さは後年と全く変わりませんが、“遊びが無さ過ぎる”という批判はここでは当てはまりません。ロシア的な情緒に拘泥せず、あくまでも絶対音楽として対峙しながら、スコアから感じたニュアンスに確信を持ち、どこまでも音楽が瑞々しく羽ばたくのは、オケがこの作品を十八番としていることを踏まえ、手綱を締めすぎない配慮が効いているのかもしれません。
そのサヴァリッシュの絶妙なコントロールが最大に生きているのが終楽章。土俗性を洗い流し、スコアのテンポ設定を鵜呑みにすることなくすっきりとしとた造型を確立する中で、各奏者の感性が自発的に沸き立ち、結果的に、一発勝負的な熱い演奏に結実しているのです。奏者の感性、技巧の素晴らしさを挙げたらきりがありませんが、必聴はトランペット!そして、後半の全休止後の音楽の突き抜け方!コーダをイン・テンポのままバシッと決める瞬間まで、瑞々しくも芸術的香りを湛えた進行に心奪われます。
思えば、コンセルトヘボウ管が遺した「チャイ5」の録音は、メンゲルベルクからハイティンクまで全てが例外なく歴史的名演で、一つのオケが違う指揮者によってその都度名演を実現している例は、他にはウィーン・フィルくらいでしょう。【湧々堂】 |
|
第1楽章のツボ |
ツボ1 |
クラリネットの響きは、作品全体を主情に流されなず、実直に描くことを示唆。その中でも、クレッシェンドには意思が漲り、スコアを追うだけではないサヴァリッシュの意欲が窺える。 |
ツボ2 |
標準的なテンポ。16分音符の音価が短くした現代的な進行で、ケンペンのような旧スタイルからの決別を印象づける。クラリネットとファゴットのユニゾンの響きも極上、チャイコフスキーがこの楽器を組み合わせた意図が伝わる。 |
ツボ3 |
余分な味付けなし、弦の質感の高さを痛感。 |
ツボ4 |
ごく僅かだが、リタルダンド気味。メンゲルベルクの名残と現代風アプローチが融合したような絶妙な味。 |
ツボ5 |
上質なレガート!スフォルツァンドは完全に省略し、3小節を一つの括りとしてフレージング。 |
ツボ6 |
フォルティッシモは強調せず、アニマートで僅かにテンポを落とす。 |
ツボ7 |
決して強靭なフォルティッシモではなく、弦の木目調の質感が生きて魅力的。 |
ツボ8 |
感傷にふけることなく、いきいきとした生命感重視。テンポもやや速めだが、オケの響き自体にコクがあるのでなので、決して淡白に陥らない。 |
ツボ9 |
イン・テンポのまま進行。コーダまでテンポ不動。16分音符は不明瞭。 |
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
冒頭は、鬱蒼とした森から這い出るような物々しさはなく、あくまでも清潔な音楽に徹する。ホルンは純朴そのもの。付点4分音符でブレスが入るので、フレージングが若干途絶え気味になる。 |
ツボ11 |
大仰なフォルティッシモは回避しながらも、スケール感は十分。 |
ツボ12 |
テンポは不変。クラリネットは、やや技巧的。 |
ツボ13 |
ハーモニーのバランスが、わずかに中・下声部寄り。 |
ツボ14 |
フォルテ4つの頂点は、威嚇的な大音量ではなく、全体が渾然一体となった見事なヴォルテージの高揚! |
ツボ15 |
繊細さを装うことなく、弱音も強調しない分、音楽的な内容量が豊富。最弱音の使用は、最後の最後まで温存。 |
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
全くテンポを落とさない。 |
ツボ17 |
ACOの巧さに惚れ惚れするばかり。声部が絡み合う妙味を堪能できる。2:50からのチェロの動きの素晴らしいこと! |
ツボ18 |
楽器の変わり目は確認できるが、両楽器とも俊敏なレスポンスで不満を感じさせない。 |
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
威厳はあっても威圧せず、端正な進行。トランペットの巧さは、史上最高位! |
ツボ20 |
ホルンは裏方的だが、木管の旋律を確実に下支えしている。 |
ツボ21 |
ティンパニは一定音量でトレモロのまま。テンポは標準的。決して闘志を剥き出しにしない中庸スタイルだが、楽器のブレンドが絶妙で、音楽的な充足感は十分。 |
ツボ22 |
殆ど無視しているように聞こえる。 |
ツボ23 |
音量は決して大きくないが、音の隈取が極めて明瞭。ホールの特性によるものだろうか? |
ツボ24 |
同じテンポのまま |
ツボ25 |
軽く触れる程度。 |
ツボ26 |
そのままイン・テンポ。 |
ツボ27 |
ここでもトランペットの巧さに脱帽!このシーンの史上トップクラスの素晴しさ!438小節の冒頭をスタッカートにさせてリズムに腰を与えるのは、サヴァリッシュの指示というより、当時のACOのトランペット・チームのセンスの賜物かも。縦の線の揃いかたといい響きの奥深さといい、これ以上のものはも想像できない。 |
ツボ28 |
ほぼ楽譜の音価どおり。463小節からのティンパニのトレモロの強烈な巧さ! |
ツボ29 |
弦のテーマのリズムの正確さは、サヴァリッシュの実直さの表れ。決して機械的に陥らない張りのある音色美! |
ツボ30 |
弦もトランペットも、明確にスタッカートで切る。 |
ツボ31 |
改変型。503小節で、トランペットにクレッシェンドを付加。 |
ツボ32 |
トランペットと見事に均衡をとった高潔な響き! |
ツボ33 |
最後まで決然としたイン・テンポを貫徹。 |