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協奏曲S〜サン・サーンス


レーベルと品番、ジャケット写真は管理人が所有しているものに拠っていますので、現役盤と異なる場合があります。



サン・サーンス/SAINT-SAENS


ELECT
EDC-798(1CD)
サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番*、序奏とロンド・カプリチオーソOp.28*、
ストラヴィンスキー:イタリア組曲#、ホアキン・ニン(1879−1949):四つの回想
ローラ・ボベスコ(Vn)、イラリオン・イオネスコ=ガラティ(指)ブカレストRSO、マリアーナ・カブデボ(P)#
録音:1979年12月(ステレオ)*、1966年10月モノラル、ADD
“これぞ美の音質!ボベスコの美音の意味をつくずく思い知る”
かつてキングレコードからCD化されていましたが、これは嬉しい復活。とにかく収録されている4曲全てが絶品!気品溢れる凛としたニュアンスと「泣き」のフレージングが完全に融和した美音の魅力をたっぷりと堪能することができる1枚です。サン・サーンスの協奏曲は演歌的な臭みに陥らず、作品にストイックに対峙する姿勢が音楽に直接反映し、最後まで見事な緊張を湛えています。第1楽章第2主題のノーブルな佇まい、提示部最後の沈静で、音楽が萎縮せず背筋をピンと伸ばしたままの毅然とした美しさはボベスコならでは。6:15から上行するフレーズのなんと言うニュアンスの霊妙な変化!コーダにおけるポジションの切り返しの鮮やかさにも息をのみます。第2楽章は、寝そべったようなペタっとした音は決して発せず、音楽の美しさを取りこぼしなく表出することに終始。その意思の揺るぎなさが感動を導きます。終楽章は第1主題の一音一音が胸に突き刺さります。狂おしい情念が内面で極限まで醸成され、それがこれ以上不可能なほど丹念に紡ぎ出されるのですからたまりません。第2主題のヴィブラートの端々からこぼれる香気も、他に類を見ません。この曲に関しては、かつて発売されていたフランチェスカッティのステレオ・ライヴを頂点と考えていましたが、ボベスコがそれと双璧の名演を成し遂げていたとは全く不覚でした。「序奏とロンド」も期待以上の素晴らしさ。ポルタメントを使わず、スコアに書かれた音をリアルする一念でここまで琴線に触れる音楽を築くことができるのです。アレグロに入ってからの楽しげなフレーズも決して浮かれることなく、音楽つくりはあくまでも厳格。そして訪れる驚愕の瞬間、5:07!この重音フレーズをこれほど高品位な官能で聴き手の心を揺さぶる演奏が他にあるでしょうか!愛の喜びも苦しみも知り尽くした人間にしか成し得ない表現と言えましょう。ピアノ伴奏による2曲も、ただただ言葉を失う素晴らしさ!イタリア組曲」はさすがにサン・サーンスよりはたおやかな風情で、弓圧も軽めに感じられますが、音楽に対する真摯さ変わらず、精神的な充実度満点。特に第2曲胸に迫ります。ホアキン・ニンは、キューバ生まれで、モーリッツ・モシュコフスキに学んだピアニスト。この作品はストラヴィンスキー曲の後に置かれるのにうってつけで、題名のとおりノスタルジックな美しさに溢れる佳曲です。3曲目まで全て短調で翳りのアル旋律美がボベスコの美音と完全にマッチ。終楽章は一転してキューバならではのリズミカルな作風。この2曲では、ピアニストの間合いの良さにも是非ご注目ください。「序奏とロンド〜」のみモノラルのようですが、全てにわたってノイズは一切なく、実にクリアな音色です。

AUDIOPHILE
APC-101042
ヴァイオリン協奏曲第3番、チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲*
アッラ・アラノフスカヤ(Vn)、アントン・バラコフスキー(Vn)*
ヴラティスラフ・チェルヌシェンコ、アレクサンダー・チェルヌシェンコ(指)
サンクト・ペテルベルク国立アカデミーSO
デジタル録音
アラノフスカヤは1958年レニングラード生まれ。サンクト・ペテルブルク弦楽四重奏の一員としても活躍しています。サン・サーンスは、温かな情感の中に神々しさを秘めた導入から心を捉え、音色はピンと張り詰めながら仄暗く、地底から湧き出るような力感が宿っています。第1楽章第2主題へ移ると、その音色に繊細な気品を加味し、特に高音域の伸びに切々たる余情をこめる力量が絶品!再現部以降、音楽の高揚と共に音の粘着度と内燃の度を強め、小手先の華やかさと無縁の真の凝縮力を見せるあたりにも、アラノフスカヤの稀な音楽センスを感じさせます。第2楽章では、冒頭主題の弱音に込めたひたむきな歌心が音色云々よりもまず胸に迫ります。弓圧自体はやや強めですが、あらゆる養分を吸収した音楽的ニュアンスが、この弓と弦の接点から連綿と零れるかのような情感は、ただ甘美なだけで終わりかねないこの楽章になんとも言えぬ深みを与えています。終楽章はこの演奏の白眉!構えも呼吸も一層大きくなり、神々しさの極み!最初のロンド主題の符点リズムの厳格さと切れの良さは、灼熱の精神が凝縮。B主題でも南欧的な明るさよりも、何か内に秘めた情念を燻らせているのも印象的です。続いて表れるC主題はあの第2楽章の弱音の魅力が再び訪れ、陶酔的な美しさ。後半では、彼女の確立した気品に満ちたフォルそのものの術中にすっかハマッてしまうことでしょう!一方、バラコフスキーのチャイコフスキーも、派手なパフォーマンスを見せずに丹念に音を紡ぐ堅実なスタイルで、大人のチャイコフスキーを聴かせてくれます。


BRILLIANT
BRL-99524(3CD)
ピアノ協奏曲全集、幻想曲「アフリカ」、交響曲第3番「オルガン付」*、動物の謝肉祭#
ガブリエル・タッキーノ(P)、ルイ・ド・フロマン(指)ルクセンブルク放送O、
セルジュ・コミッショーナ(指)ボルチモアSO
*、レジュハ(指)スロヴァキアPO#
ステレオ録音(VOX原盤)
“プーランクと共に忘れえぬタッキーノの名演!
サン・サーンスのピアノ交響曲はモーツァルトやベートーヴェンと違って、テクニックさえあれば何とかなる、と思われがちですが、逆にテクニックだけでは単なる深みに乏しい陳腐な作品に成り下がってしまうのではないでしょうか?そのことを心底痛感させるのがこのタッキーノの演奏です。タッキーノは華麗なテクニックに加え、輪郭が明確なタッチに得も言われぬ華があり、しゃれたセンスが満載!それをフランス流儀の典型と言えばそれまでですが、同じフランス人でも有名なJ・P・コラール盤以上に人懐っこさと温かみが際立ち、何よりも作品を愛おしく思う気持ちがひしひしと伝わってくるのです。めったに演奏されない「第1番」終楽章は、まさにサン・サーンス本人に成り代わったような愉悦感の繰り広げ方で、サン・サーンスがなぜこのようなフレーズを書かずにいられなかったか、その心情までもが汲み取れるのです。有名な「第2番」は、冒頭のカデンツァはほとんどの場合、物々しく威圧的に開始されますが、タッキーノはタッチに十分な力感を宿しながらエレガントな情感を忘れず、第1主題で色彩の濃淡をさり気なく施しながら柔和にフレーズを紡ぐ風情のなんと素敵なこと!第2楽章楽章も極めてハイセンス。しかもサン・サーンスを弾くためのピアニズムといいたいくらいの、程よく肩の力の抜けたスイング感が魅力的。こういうリズミカルな曲でリズムを踏ん張りすぎると、途端に泥臭さが鼻についてしまう(ロシア系ピアニストに多い)のはフランス音楽の常ですが、この羽のようなリズムの浮遊感は他ではなかなか体験できません。終楽章の後半に差し掛かる前の3:29付近からは最もテンションが上がる箇所ですが、タッキーノはここで最大の強打鍵を繰り広げながるも決して音を割ることなく、見事な頂点を築き、テーマに回帰していくまでの流れのなんと鮮やかのこと!その後の派手な跳躍和音でのイナセな振る舞い、オケとの一体感をますます強めると同時にタッチの硬度も高めて一気に締めくくる痛快な結末にも拍手!この魅力は他の作品にも全てに一貫しているのも重要なポイント。フロマンの指揮は何もしていないようでいてツボを見事に押さえており、これまた脱帽。


CLASSICO
CLASSCD-612
ピアノ協奏曲第2番、ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」、ウェディング・ケーキ
オリヴァー・シュニーダー(P)、ダグラス・ボストック(指)アルゴーSO
録音:2004年(デジタル)
“生半可な気持ちで聴けない!高純度タッチが放つ真のダイナミズム!!
第2番にはルービンシュタイン、第5番にはリヒテルなどの定番の名演が存在しますが、これはそれらと互角に張り合う感動作!シュニイダーは、フランセシュ、ラレード、フライシャーなどに学んだ俊英ですが、これらの名手の優れた資質を完全に吸収している事をうかがわせると共に、独自の感性で音楽を瑞々しく再構築し、今まで気付かなかった作品の持ち味を次々と露にしてくれるのです。どの曲も表面的にも華やかなので、演奏まで表面的だと全体が陳腐になりかねませんが、シュニーダーもボストックも、確固とした集中力を漲らせているので、そんな心配はご無用。「第2番」の冒頭のピアノ・ソロから、生半可な気持ちで聴いてくれるなと言わんばかりの説得力!強靭な打鍵で怒涛のうねりを見せ、オケと絡み出し、更に緊張の度合いを頃には、すっかりこの演奏のペースに引き込まれています。第2主題の温かさと潔癖さを兼ね備えたタッチ、カデンツァのブリリアントな彫琢も、全く揺るぎない存在感で迫ります。第2楽章は楽しげな雰囲気のみならず、じんわりと格調が滲み、終楽章はかなりの高速で突進しますが、全く上滑りせず、第2主題の深い抉り、トリルの美しさと意味深さにも唖然。コーダの追い込み時の急速なパッセージもなんと完璧なこと!しかも皮相さは皆無。ボストックの指揮もニュアンス豊かで、単なる伴奏の域を超えて、ピアノと共に音楽を根底からリフレッシュしようという意気込みを感じさせます。特に第2楽章の粋な配慮にご注目を!2番よりも音楽の内容が濃くなる第5番は、まさに参加者全員のセンスがフル稼働!第2楽章のエキゾシズムには、安直さを排した真摯なダイナミズムが息づき、あのリヒテルの名演さえ霞んでしまいます。雰囲気に流れない端正な詩情も忘れられません。シュニーダーのリズムのセンスも尋常でないことは、この終楽章だけでも明らか。スピーカーの前でかしこまって聴いている場合じゃない、凄い牽引力です。ほんの5分足らずのサロン風作品の典型のような「ウェディング・ケーキ」も、これほど真剣に曲に打ち込んだ演奏がかつてあったでしょうか!3曲とも、今後これらの曲を語る際には絶対に外せませません!シュニーダーの今後にも要注目です。

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