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器楽曲M〜ムソルグスキー



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ムソルグスキー/MUSSORGSKY


ORFEO
ORFEO-284021(1CD)
ムソルグスキー:ピアノ作品集
組曲「展覧会の絵」
子供の頃の思い出 第3番
情熱的な即興曲/気まぐれな女
夢想/クリミア海岸にて/村にて
紡ぎ女/涙/騎手のポルカ
エレーナ・クシェネロワ(P)

録音:2000年
クシェネロワは、モスクワ出身。モスクワ中央音楽学校入学し、アンドレイ・ガブリーロフやニコライ・ペトロフなどを育てたタチアナ・ケストナーに師事。ロシアンピアニズムの流儀をしっかりと身につけたピアニストではありますが、これを聴くと、そのピアニズムもここまで進化したのかと驚きを新たにするばかりです。
まず、「展覧会の絵」の目の覚めるような素晴らしさ!全体の構成をしっかりと構築しながら個々の楽曲の性格を精緻に分け、しかもタッチの美しいこと!
最初の“プロムナード”から品格が漂い、微妙に施された強弱のコントラストが絶品。“古城”でのメランコリックなニュアンスは感覚美のみならず聴き手を心酔させる得も言われぬフレージング。“テュイルリーの庭 ”の速い走句でもタッチの美しさは不変。
“ビドロ”では今までの流れからは想像もつかない重量級のサウンドに驚かされますが、決して音を割るような轟音ではなく格調を維持。“雛の踊り”は、楽譜から多様なニュアンスを感知するクシェネロワの鋭敏な感覚が全開!ペダル操作といい、テンポの微妙な揺らぎといい、これほど楽想のツボに合致した演奏は稀でしょう。
カップリングされている小品も1曲も聴き逃せません!
「子供の頃の思い出・第3番」は五音音階をベースにした作品で、その絞りだすような悲哀が泣かせます!最後に置かれた「騎手のポルカ」は、ムソルグスキー10歳の時に書いた処女作。実に屈託のない楽想ながら、天才ならではのスパイスが満載!もちろん録音も極上。

組曲「展覧会の絵」、スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番「幻想」、プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第8番
ボリス・ギルトブルク(P) 2005年デジタル録音 
EMI
3532322[EM]
“打鍵の威力に任せない繊細な感受性が横溢!”
ギルトブルクは1984年モスクワ生まれ。ロシアのピアニストらしく大きなスケール感と濃厚なニュアンスの持ち主ですが、「展覧会の絵」で、視覚的なイメージを表出しながらも、おどろおどろしい表情のみに傾かず、ソナタを弾くような一貫性と内面の焦点を当てたアプローチが見事に結実しています。“チュイルリー”では全くインテンポを崩さずに、タッチのニュアンス変化だけでフワッと表情を膨らませるとは、脱帽です!「ビドロ」や「バーバー・ヤーガ」はもっとコテコテノ演奏も可能でしょうが、あえてそうせずに、常に内面のニュアンスを滲ませようとする彼の姿勢の現われとして伝わり、感覚的な演奏から生えられない手応えにしっかり結びついているのです。そのことは、スクリャービンにおいて更に明白となります。この深み!これが20歳代前半のわざとは信じられません。表面的にエレガントに流れががちな第1楽章で、音符の端々から甘美で私的なニュアンスが零れる様に、言葉を失います。プロコフィエフの終楽章でも、打楽器的な打鍵の威力以上の感情の燃焼を徹底追及したアプローチで破格の説得力!

組曲「展覧会の絵」、ショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第2番*
マリア・ユージナ(P) 1967年?、1965年* モノラル録音 
VISTA VERA
VVCD-00109
“まさに死闘!ピアノの限界ギリギリまで豪快に響かせた大凄演!”
ホロヴィッツ以上の濃厚な表現、目まぐるしく変わるテンポとダイナミックスが織りなす決死の「展覧会の絵」です!最初の「プロムナード」から楽譜を超越した強弱変化に無限のニュアンスを飛翔させ、まさに天衣無縫。続く「こびと」の一音ごとの間の取り方のおどろおどろしさは空前絶後。後半の強打トリルがここまで轟音と化す演奏は他に見当たりません。「チュイルリー」のテンポ・ルバートは天才のみに可能な技!まさに今何かが生まれようとする瞬間の音です!「ブィドロ」は重戦車急の迫力!音価を微妙に揺らすのは、最近のメジューエワも行なっていましたが、ここではそれとはまた違う泥まみれの凄み!「サミュエル・ゴールドベルクとシュミイレ」の両者の対比もこれが限界と思わます。「バーバ・ヤーガ」のもがきと狂乱、閃光の様なグリッサンドの痛烈な挿入を経て、「キエフの大門」に至っては筆舌に尽くしがたいド迫力!ピアノを破壊しかねない常軌を逸した打鍵の威力に言葉を失いますが、ピアノが悲鳴を上げずに、楽器全体が根底から朗々と鳴り渡っているところに。ユージナのテクニックの奥義を見る思いで、弦を切るほど鍵盤をぶっ叩いて大きな音を出すピアニストは訳が違います。録音も良好。

組曲「展覧会の絵」、ストラヴィンスキー:「春の祭典」(2台ピアノ版)
アンドレイ・ヴィエルー(P)、ダン・グレゴール(P)  1996年 デジタル録音
H.M.F
HMC-901616
“オケ版を凌ぐ情報量!真のヴィルトゥオーゾが見せつける驚異の技!!”

HMA-1951616

ピアニストの技術向上により、2曲とも昔では考えられない量の録音がありますが、華麗なオーケストラ版が存在するだけに、無意識のうちにピアノにもオケに負けない壮麗さを求め、ミスのない大音量の打鍵を期待し、またそれらに浸ることだけで満足していなかったでしょうか?このルーマニアが生んだ怪物ピアニスト、ヴィエルの演奏は、決して誇張ではなく、あのホロヴィッツでさえ到達できなかった無音時の緊張と余情を確実に表現し、大絵巻を見るように、万全のテクニックを駆使しながら各場面の密接な関連付けを行ない、逆にピアノでなければ描き切れない壮絶なドラマを展開しています。「展覧会の絵」は、冒頭の“ピロムナード”からショッキング!ふらっと散歩に出かけるような軽やかさから次第に意志の強さを増し、最後の音が消えないうちに次の“こびと”に猛烈な勢いでなだれ込み、その後半では、バスの怒りのトレモロを露骨に強調。“ブイドロ”では、和音が濁る寸前までカロリーを飽和させつつ、押し付け的な演出感が皆無というバランスの完璧さ。圧巻は“バーバ・ヤーガ”。ここでの作曲者の要求が以下に過酷なものであるかを思い知らされ、これ以上考えられない分厚いハーモニーを表出。そしてやって来るのが、このピアニストの人並みはずれたセンスを最も確信できる、“キエフの大門”!大抵の場合、ここではピアノの特性上、どうしても休符や長い音価の緊張を完全に持続できないのが常(例外はモイセイヴィチくらいか?)ですが、なんと彼は、持ち前のタッチの微妙な加減を行いながら、長い音価が持続している最中でも、音楽を心から感じ取り、しっかり呼吸しているのがひしひしと伝わり、全く弛緩を感じさせないのです。こんな圧倒的クライマックスを気付いた演奏は本当に稀少です。「春の祭典」の2台ピアノによる録音も、今や珍しくありませんが、これまたかつて発売されたどの演奏よりも重量級の迫力で圧倒するのです!ここではヴィエルと同郷のグレゴールが加わり、「展覧会」の壮絶さがそのまま倍増!オケでは味わえない、各声部のダイレクトなぶつかり合いが興奮を掻き立てます。Qの大地を突き刺すような鋭利さは、どんな強靭な弦のスタッカートもかないません。逆に、オケ版でトランペットが随所で吠える場面では、人間的な温かみも顔を出します。そして遂に、最後の1分、常軌を逸した破壊力に完全に打ちのめされることになるのです!

組曲「展覧会の絵」リスト:愛の夢第3番、ハンガリー狂詩曲第2番、タンホイザー序曲(原曲:ワーグナー)、
ベートーヴェン:アンダンテ、ロンド、シューマン:ロマンス、ウェーバー:華麗なロンド、ショパン:夜想曲Op9-2、
ポロネーズ第9番、舟歌、ドビュッシー:月の光、トッカータ、雨の庭、ラヴェル:トッカータ、他
ベンノ・モイセイヴィチ(P) 1940年 モノラル録音 
APR
CDAPR-7005
(2CD)
“「展覧会の絵」の恐るべき表現意欲に驚愕!”
この「展覧会の絵」は、あのホロヴィッツ盤と堂々と肩を並べるか、各曲の表情の描き分けに関してはそれさえも上回ると思える歴史的名演!最初の“プロムナード”から繊細なニュアンスを香らせ、しかもその後の各プロムナードが、見事に表情を変えて登場するのですからたまりません!その後は、まさに息もつかせぬ緊張と、極彩色の表現の連続。“ブイドロ”は、頂点で予想通りの轟音が鳴り渡りますが、格調も決して失わないのが流石。“サミュエル・ゴールデンベルク〜”では、貧乏人の悲痛な嘆きの表現力にビックリ!“ババ・ヤガー”は、冒頭の物々しさに不敵な笑みまで交える巧妙な演出に加え、ルフト・パウゼで更に恐怖を煽る念の入れよう!終曲はもちろんモイセイヴィチの真骨頂で、頻出する長い持続音が見事に緊張を保って鳴り響いた希少な例としても、忘れるわけにはいきません。タンホイザー序曲は、理屈抜きで凄すぎ!

組曲「展覧会の絵」ショパン:ポロネーズ 第1番、練習曲(3曲)〜「エオリアン・ハープ」、「別れの曲」、「革命」、メトネル:おとぎ話 Op26-3、ショパン:前奏曲集〜Op28-11,7
イリーナ・メジューエワ(P) 2004年12月2日、デジタル録音
若林工房
WAKA-4108
「展覧会の絵」の新録音は、これで打ち止めに!”
メインの「展覧会の絵」の前に置かれたショパンから、軽く聴き流すわけにはいきません。1番のポロネーズはメジューエワお気に入りの一つですが、冒頭の切込みから精神力の強さが漲る強健なタッチと共に、一気に気品の光り放射させるのが彼女の面目躍如。中間部では、全声部の隅々までたっぷり響かせながら、雰囲気に流れるのを回避。毅然とした美しさが確実に眼前に広がります。この主部と中間部の描き分け妙は、練習曲でも同様。「別れの曲」の中間ではフレーズを丁寧に分割させていますが、凡庸なピアニストだと裏目に出てしまい兼ねないこういう配慮が、作品の格調を押し上げるように意味深いニュアンスとして表出されるのです。「革命」も冒頭の下降音型をただパラパラと下って来るだけでない、画期的な配慮がなされていまが、これまた独特の凄み!さて、「展覧会の絵」ですが、メジューエワ自身会心の出来映えと自負し、なぜか体からニュアンスが自然に溢れ出た、という彼女の言葉通り、一つ一つの絵の表情が、かつて聴いたこともない表情で湧き上がり絶品!しかも、それらの絵がバラバラにならず、完全な一大絵巻として貫徹されているのには、元々集中力が尋常ではない人とは言え、驚異的なことです!最初の「プロムナード」の単音が、自己顕示的に響かずに、豊かな表情で打鍵されているのにまずビックリ!続く「こびと」のスローテンポによるグロテスクな表情、「チュイルリー」のまとわり付くものが何もない高潔なタッチを堪能した後、「ブィドロ」では、音符の音価を不安定に揺らして、牛車がリズミカルに走り去るなんてありえないと言わんばかりに、最高に重い打鍵でヘトヘト感を表現しているのです!従って、「サミュエル・ゴールデンベルク〜」の生々しさも前代未聞。「リモジュの市場」では、メジューエワの特徴の一つである、フレーズの変わり目でルフト・パウゼ気味にして、速いテンポの中でも音楽の輪郭を明確にするセンスが全開。他の曲もそうですが、「バーバ・ヤーガ」では、全ての音の表情をこれ以上克明に変化させるのは、10本の指では不可能という極限の域を示してくれるので、もう唖然!それに追い討ちを変えるように、唐突なグリッサンドが辻斬りのように襲い掛かりますから、ご用心下さい。この時点で聴く側もヘトヘトですが、遂に最後の「キエフ大門」で、今まで巡ってきた絵の表情が、ここへ達するための伏線であったことに気づかされます。コーダの大轟音は、メジューエワがかつて出したことがないであろう破格の威力!いつも問題となる長い持続音での音の弛緩も感じる暇も与えずに、完璧な緊張持続のうちに全体が締めくくられるのですから、もう感動で体がはち切れそうです!ホールの響きも最高のコンディションで収められているのも大きなポイント。とにかく、どう書いてもこの凄さを伝えきれない自分のボキャブラリーの貧困さを今久々に腹立たしく思っています。なお、このCDはライヴ録音ということを考慮して、廉価設定となっていますが会場ノイズはほとんど気になりません。



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