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演奏家特集
第7回

オリヴァー・シュニーダー
(ピアニスト)



プロフィール
1973年スイス生まれ。チューリヒ音楽院でオメロ・フランセッシュした後、ニューヨークではルース・ラレード、ボルチモアではレオンフライシャーに指示して研鑽を積みました。多くのコンクールの上位入賞歴も多数。ヨーロッパ、アメリカ、日本の各地で演奏活動を行ない、特にユリア・フィッシャーをはじめとするアーチストとの室内楽の活動も積極的に行なっています。現在作曲家からの信頼も厚く、多くの作品の初演が彼に託されています。2004と2006年にユリア・フィッシャーとの共演で来日。

その魅力
第1にタッチの美しさ!まさに硬軟自在。曲のニュアンスによってその美しさから放たれる光を、恣意的な操作を感じさせずに操る技は天性のものとしか言いようがありません。
第2にレガートのセンスの高さ。滑らかに指を連動させるという意味にとどまらず、また「よく歌う」というより、ピアノ自信に歌わせるテクニックは、単に指が速く回るピアニストとは訳が違うのです。
第3には音楽との距離感が一定であること。相当の技巧の持ち主であるにもかかわらず、それを前面に押し出すことなく、作品の魅力を聴き手に語り掛けることを念頭においているような懐の深さと優しさをタッチの隅々から溢れ出ているのを感じていただけると思います。



BMG
88697-323172(2CD)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番、13番、26番「戴冠式」(モーツァルト自身による弦楽合奏版)、幻想曲ニ短調K.397、ピアノ・ソナタ第8番イ短調、アダージョ ロ短調、ロンド イ短調K.511、幻想曲ハ短調K.475、ピアノ・ソナタ第14番ハ短調
オリヴァー・シュニーダー(P)、エーリヒ・ヘーバルト(指&Vn)カメラータ・ベルン
録音:2008年1月〜2月
「サン・サーンスのピアノ協奏曲集」が世に出て以来、湧々堂が一貫して激賞してきたシュニーダーがついにメジャー・デビュー!これほど嬉しいことはありませんが、その反面、レーベルの販売戦略に翻弄され、自身の音楽性を見失わないで欲しいと祈るばかりです。しかし、彼の音楽を聴けばわかるとおり、感情表現と知的な構築のバランスが崩れる瞬間が皆無というその信じがたいピアニズムをもってすれば、そんな心配も無用かもしれません。
デビュー第1弾では、華麗な技巧をアピールする作品が選ばれることが多い中、シュニーダーが世に問うのは何とモーツァルト!しかも協奏曲とソロ作品で、彼の芸術性を徹底的に知らしめるものとなっており、レーベル側の彼に掛ける期待と自信を強く感じさせる内容となっています。しかも、その出来栄えたるや、今までの録音から受けた感銘が決して偶然のものではなかったことを裏付ける超名演奏!モーツァルトを感動的に奏でることができるピアニストが今どれだけいるでしょうか。
まずは、ディスク2のソロ作品からお聴きいただくのがお勧め。最初に気づくのは、そのタッチの美しさとまろやかさ。しっかりと音の粒が立ち、リズムもアーティキュレーションも強弱の振幅も完璧に統制がとれており、それでいながら締め付け感がなく、音楽はどこまでの柔軟に流れます。第8番の第1楽章では、ディミニュエンドの際の余韻と香りを充分に湛えた呼吸の妙に早速ウットリ…。集中力の高いインテンポの流れの内面から求心力の高い歌が泉のように湧き出します。第2楽章は、囁きのフレージングのセンスに脱帽。開始後まもなく0:37からの優しく頬を撫でるような上行フレーズの何という美しさ!またここでもディミニュエンド時の息をふっと抜く自然さが随所に顔をを出しますが、その絶妙さは頭で考えて為し得る代物ではありません。5:40からのトリルは、驚くほど均等に奏でられ、それがまた音楽的な訴求力が高いのです。訴え賭けが抜いた痕跡が一切感じられません。終楽章も是非ご注目を。モーツァルトのテンポの速い曲の場合、有り余るテクニックのはけ口が見つかったとばかりにリズムを鋭利に立てて疾走する場合が少ないですが、シュニーダーはテンポこそ爽快ですが、音楽が水平に豊かに流れているのです!これはシュニーダーの演奏の全てに言える特徴で、リズムとフレージングの平衡感覚が体に染み付いていること再認識させます。ニ短調の幻想曲も第一音から波の演奏でないことを強く確信させます。とにかく音が深く、体温を感じさせるタッチの魅力に唖然。ことさら悲愴な面持ちで音楽を組み立てるのではなく、ここでも流れは自然体。リズムの立ち上がりは清潔そのもので、ドロっとした情念ではない一途な共感が隅々にまで行き渡っています。後半への自然な移行も見事。ハ短調の幻想曲も過度に悲痛さを演出そぶりを見せません。中間部の激しい楽想で、ハーモニーが美しいフォルムの中で響ききっているのを感じていただけると思います。とにかく「ここはこういう風に弾こう」という意図が透けて見えることがなく、なおかつ音楽が知的に構築され、ピアニストの存在が前面にでしゃばることなく音楽だけが滔々と流れる…、モーツァルトの音楽にとってこれ以上の理想があるでしょうか。この幻想曲から次のソナタへはアタッカ風になだれ込みますが、これがまたまた鮮やか!ディスク2のソロ作品は全て短調の作品で構成されていますが、通して聴いても全く胃がもたれるような嫌な重苦しさに襲われることがないというのも、シュニーダーの醸し出す響きが以下に裕であるかを証明しています。
現代ピアノの特性を自信の音楽性と完全に融合させたシュニーダーが協奏曲で共演するのは、ピリオド・アプローチのカメラータ・ケルン。最近はこのように古楽器的な表現と、本来そういったものを目指してはいないソロ奏者との共演盤が増えてきましたが、ここではその響きのニュアンスの差が、絶妙な対比となって魅力的な演奏に仕上がっています。ここでもシュニーダーのスタンスはソロの場合と全く同じ。ひたすら音楽に奉仕し、音楽自信に語らせます。協奏曲は全て長調作品を収録。それだけにその内容のある明るさが、一層胸に響きます。決してはしゃぎ過ぎず、モーツァルトならではの華やぎをとことん堪能することができます。
この2枚組のモーツァルト。この演奏に不満を漏らす人がこの世にいるとは思えません。


TELOS
TLS-070(1SACD)
オリヴァー・シュニーダー/ショパン・リサイタル
練習曲Op.10-1/夜想曲Op.48-1/練習曲Op.10-4/ワルツop64-2/夜想曲op27-2/練習曲Op.25-1/幻想即興曲/練習曲Op.10-3「別れの曲」/ワルツOp.64-1「小犬」/練習曲Op.10-5「黒鍵」/スケルツォ第1番/夜想曲Op.62-2/練習曲Op.25-11「木枯らし」/練習曲Op.25-12/マズルカOp.17-4
オリヴァー・シュニーダー(P)
録音:2006年
シュニーダーの音楽性の素晴らしさは、サン・サーンスのピアノ協奏曲(現在は入手困難)でも既に実証済みですが、特にタッチの美しさと、自然体でありながら音楽の揺らぎを瞬時に感じ取る感性は本物であることをこのショパンでは再確認できます。収録曲はただ小品を散りばめたようにも見えますが、民族色を強く反映した作品は最後のマズルカのみ。ポロネーズとバラード1曲も収録しておらず、結果的にアルバム全体のトーンに統一感を持たせているのも見識の表れといえましょう。
1曲目のop10-1から聴き手のハートを鷲づかみ!巧いだけの演奏ならいくらでもありますが、聴き手の意識をグッと引き付ける牽引力と華麗さを兼ね備えた演奏は希少です。特に物怖じせず低音域を磐石に構築しながら上声部を鮮やかな流線型で描ききり、両者を絶妙にブレンドさせてしまう手腕!Op.10-4はリズムの躍動が獣のように血気盛んで、それでいながら音楽の運びに強引さがないのです。Op.10と25の全曲盤リリースを切望せずにはいられません。
夜想曲Op.48-1の1:04からの数秒間の強弱の繊細な入れ替え技、間のセンスは恍惚境に誘い、Op.27-2は中間部の装飾音の扱いに魂が宿っています。夜想曲Op.62-2がムードに流れず、これほど男性的な強固な意志を持って作品の構成美が浮き彫りになった例も少ないでしょう。
通常よく耳にする演奏と香りと居ずまいが異なる最も顕著な例が、あまりにも有名な「別れの曲」と「小犬」。雰囲気に流されないのはシュニーダーのピアニズムの大きな特徴ですが、唯我独尊に過ぎて鼻につくニュアンスなどなく、あくまでも純粋な音楽勝負。「別れの曲」の中間部に差し掛かるところで拍節感をかなり強調していますが、その工夫が直後に続くフレーズの躍動、ニュアンスの陰影に確実に反映されていることに気づかれると思います。「小犬」も、無邪気に駆け回る情景描写などではなく、音楽自体が持つ表現力を十全に出し尽くした演奏として、是非心の底から堪能してください。


CLASSICO
CLASSCD-612
現在入手困難
サン・サーンス:ピアノ協奏曲第2番、ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」、ウェディング・ケーキ
オリヴァー・シュニーダー(P)、ダグラス・ボストック(指)アルゴーSO
録音:2004年(デジタル)
第2番にはルービンシュタイン、第5番にはリヒテルなどの定番の名演が存在しますが、これはそれらと互角に張り合う感動作!シュニイダーは、フランセシュ、ラレード、フライシャーなどに学んだ俊英ですが、これらの名手の優れた資質を完全に吸収している事をうかがわせると共に、独自の感性で音楽を瑞々しく再構築し、今まで気付かなかった作品の持ち味を次々と露にしてくれるのです。どの曲も表面的にも華やかなので、演奏まで表面的だと全体が陳腐になりかねませんが、シュニーダーもボストックも、確固とした集中力を漲らせているので、そんな心配はご無用。「第2番」の冒頭のピアノ・ソロから、生半可な気持ちで聴いてくれるなと言わんばかりの説得力!強靭な打鍵で怒涛のうねりを見せ、オケと絡み出し、更に緊張の度合いを頃には、すっかりこの演奏のペースに引き込まれています。第2主題の温かさと潔癖さを兼ね備えたタッチ、カデンツァのブリリアントな彫琢も、全く揺るぎない存在感で迫ります。第2楽章は楽しげな雰囲気のみならず、じんわりと格調が滲み、終楽章はかなりの高速で突進しますが、全く上滑りせず、第2主題の深い抉り、トリルの美しさと意味深さにも唖然。コーダの追い込み時の急速なパッセージもなんと完璧なこと!しかも皮相さは皆無。ボストックの指揮もニュアンス豊かで、単なる伴奏の域を超えて、ピアノと共に音楽を根底からリフレッシュしようという意気込みを感じさせます。特に第2楽章の粋な配慮にご注目を!2番よりも音楽の内容が濃くなる第5番は、まさに参加者全員のセンスがフル稼働!第2楽章のエキゾシズムには、安直さを排した真摯なダイナミズムが息づき、あのリヒテルの名演さえ霞んでしまいます。雰囲気に流れない端正な詩情も忘れられません。シュニーダーのリズムのセンスも尋常でないことは、この終楽章だけでも明らか。スピーカーの前でかしこまって聴いている場合じゃない、凄い牽引力です。ほんの5分足らずのサロン風作品の典型のような「ウェディング・ケーキ」も、これほど真剣に曲に打ち込んだ演奏がかつてあったでしょうか!3曲とも、今後これらの曲を語る際には絶対に外せませません!シュニーダーの今後にも要注目です。

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