湧々堂
HOME
新譜速報: 交響曲 管弦楽曲 協奏曲 器楽曲 室内楽 声楽曲 オペラ バロック 廉価盤 シリーズもの マニア向け  特価品!!
殿堂入り: 交響曲  管弦楽  協奏曲  器楽曲  室内楽  声楽曲  オペラ  バロック レーベル・カタログ チャイ5



チャイコフスキー:交響曲第5番〜全レビュー
TCHAIKOVSKY : :Symphony No.5 in e minor Op.64
アルヴィド・ヤンソンス(指揮)
Arvid Jansons



掲載しているジャケット写真と品番は、現行流通盤と異なる場合があります。あらかじめご了承下さい。



チャイコフスキー:交響曲第5番
アルヴィド・ヤンソンス(指)
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ: ヴィタリー・ブヤノフスキー
Altus
ALT-095
録音:1970年7月1日、大阪フェスティバルホール 【ステレオ・ライヴ】
演奏時間: 第1楽章 14:21 / 第2楽章 12:31 / 第3楽章 5:24 / 第4楽章 11:38
カップリング/カップリング/「白鳥の湖」〜第2幕「情景」
“ムラヴィンスキーの代役であることを忘れさせる、父ヤンソンスの比類なき音楽性!”
 ムラヴィンスキーの代役として来日したヤンソンス(マリスの父)は、ショスタコ5番とチャイ5というムラヴィンスキーの最大の得意曲を振るハメになりましたが、どちらもムラヴィン流でお茶を濁すことなく、民族色と透徹のテクスチュアをバランスよく融合したトーンの統一感と、強弱のそれぞれの意味を最大に生かすセンスが渾然一体となった、大ヤンソンス独自の技で彩られているのは驚愕です。私は晩年の彼が東京響を振った「悲愴」を聴いて、第1楽章展開部や第3楽章の巨大造型力と破格のスケールに完全に打ちのめされたのとともに、表現の幅広さと格調高い雰囲気作りに、彼こそ巨匠の中の巨匠だよイウ確信を持ちましたが、このチャイ5はその確信を一層強めてくれます。
 第1楽章の171小節の副次旋律のフレージングで、さっそく誰も思いも寄らない強弱のコントラストを表出!
第2楽章は、頻出するピアニッシモがそれぞれ独自の意味を持って心に染み入り、全体を見事に統合しているのは並みの職人芸ではありません。第3楽章は前半でクラリネットが派手に音を外すのが残念ですが、中間部の管楽器の絡み合いの妙が聴きもの。
終楽章は、強弱の差が一層激しくなりますが、超高速テンポの中で、容赦ない運命動機の強奏と息を潜ませた弱音は、結晶化された最良の部分だけが抽出され、見事な緊張感で一貫。名物イワノフのティンパニも大炸裂ですが、それだけが浮き立たつことなく、全体とのブレンド感をモートーのしているところにも、ヤンソンスの格調高い芸風を痛感します。しかし、172小節の運命動機や、コーダなど、ここぞという箇所のバランスを破っての馬力は敵なし!
 東京響を「鉛から金に変えた」と評されたヤンソンスの手腕をたっぷる堪能してください。なお、Vn両翼配置を採用していません。【湧々堂】
第1楽章のツボ
ツボ1 クラリネットのアタックは柔らかく、色彩も滲む。各音の音価も柔軟性があり、ムラヴィンスキーよりロマンティックな表現。
ツボ2 テンポは標準的。第1主題の木管にフルートが加わってすぐ(2:58)に表れるディミニュエンドは実に儚い。
ツボ3 甘美に流れず、芯のある音。
ツボ4 ほとんどディミニュエンドせずに、一音ごとに明確に弾く。
ツボ5 最初の3小節間、ほとんどピアニッシモのまま強弱の振幅を最少に抑え、119小節の符点2分音符からふわっとクレッシェンド。しかも、122小節の頭の符点4分音符を軽く撫でる程度にして、切なさを醸し出すセンスが素晴らしい!再現部でも同様。
ツボ6 テンポの動きは最少で、洗練されたフレージング。
ツボ7 一呼吸で一気に駆け上がる。
ツボ8 直前で全くリタルダンドしないで、ここからガラッと一段遅いテンポでに切り替える。低弦の対旋律との掛け合いが絶妙!
ツボ9 テンポは速めない。そのインテンポ進行に独特の緊張が走る。
第2楽章のツボ
ツボ10 冒頭はヴィオラの主旋律を響かせながら、低弦の分厚いうねりも生かす絶妙なバランス!ブヤノフスキーのホルン・ソロは、ややフレージングに安定感を欠くが、大咆哮ぶりばかりが伝えられる中で、この弱音で歌いぬくセンスは必聴!
ツボ11 最初のフォルティシシモの一撃は、ティンパニとの壮絶な轟きと共に凄い馬力で押し寄せる。その後のフレージングは、洗練の極み。
ツボ12 テンポは変わらず。強弱の陰影はあまり付けず、素朴に流れる。こういうところは、他のオケならただ平板なだけで終わってしまうところだが、技術を越えた共感が感じられるので、無味感想に陥ってはいない。
ツボ13 直前の全休止の間(ま)をたっぷりと取る。各和音ごとに独特のデリカシーを感じ、意味を込め抜いている。
ツボ14 イワノフのティンパニが入魂の強打!高潔を極めたフレージングでエネルギーを加熱させ、フォルテ4つで極限の激高に達する。しかし、それでも品格を失わない。
ツボ15 安易な感傷とは無縁。透徹した弱音が魂の浄化のニュアンスを引き出す。
第3楽章のツボ
ツボ16 鉄壁のインテンポ!
ツボ17 オーボエの音が絶妙に生かされているのに注目!
ツボ18 あまり明快に聞こえない。
第4楽章のツボ
ツボ19 民族の血を感じさせる、確信に満ちたフレージング。テンポはやや速め。続くトランペットの強奏が、さらに音楽に凄みを付加。
ツボ20 ホルンをかなり強奏させ、オーボエのピンと張った高音と絶妙なバランスを取っている。
ツボ21 ティンパニはトレモロの途中から弱音で弦の刻みが快速で滑り込むのはムラヴィンスキーと同じ。その間、ティンパニはほとんどクレッシェンドせず、締めくくりの66小節で激烈な最強打アクセント。
ツボ22 わずかに生かして、次のスラーのつなげている。
ツボ23 このオケ特有のカロリー価の高い張り出し方!
ツボ24 テンポは変えず。
ツボ25 ここで強打をしないのが、かえってセンスの高さを感じさせる。
ツボ26 インテンポ。
ツボ27 テンポ自体はことさら速くしていないが、芯の強靭なトランペットの突き抜けと共に、戦慄の緊張が漲る。
ツボ28 8分音符の音価は、やや長め。最後に一撃は置かない。
ツボ29 弦の動機は究極の高潔レガート!テンポそのものは標準的。
ツボ30 弦もトランペットも、レガートに徹している。そのためトランペットのブレスの位置が通常とは異なる。このトランペットの無敵の輝きと渾身のティンパニ強打は、ソ連邦の威信を担ったような凄い存在感!
ツボ31 改変なし。ムラヴィン型のトランペット消音方式はとっていない。
ツボ32 このオケならもっと出せそう。
ツボ33 最後の4つの和音の打ち込みでテンポを落とし、全てを最強打!

チャイコフスキー:交響曲第5番
アルヴィド・ヤンソンス(指)
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ: ヴィタリー・ブヤノフスキー
ICA CLASSICS
ICAC-5177(2CD)
録音:1971年9月17日 ロイヤル・フェスティヴァル・ホール 【ステレオ・ライヴ】
演奏時間: 第1楽章 14:32 / 第2楽章 12:38 / 第3楽章 5:36 / 第4楽章 11:18
カップリング/チャイコフスキー:『眠れる森の美女』〜序章: リラの精/ パ・ダクション: ローズ・アダージョ/パノラマ: アンダンティーノ/ワルツ、フランチェスカ・ダ・リミニ Op. 32、プロコフィエフ:古典交響曲
“終楽章の史上屈指の迫力でロイヤル・アルバート・ホールが熱狂!”
 前年の日本でのライブ録音(Altus)も本場物の強みを臆することなく押し出した快演でしたが、この初出の英国ライヴもそれと甲乙つけがたい熱演。強弱操作などの解釈がムラヴィンスキーと同じなので、同じスコアを使用していると思われますが、出てくる音楽のテイストはムラヴィンスキーの亜流などではないヤンソンス独自の瑞々しさが光り、この作品を知り尽くしたオケも、会場の雰囲気とも相俟って伸び伸びと演奏に興じているように感じられます。ただ、期待が大きすぎたせいか、第3楽章までは強烈なインパクトを残すことが殆どなく、堅実な演奏に終始…とも言えますが第1楽章再現部でティンパニが叩き忘れていたり、金管が変に楽天的な音色を発したりという現象を考えると、旅の疲れが残っていたのでしょうか?あるいは、やや録音が不鮮明なことに起因しているのかもしれません。
 終楽章に達してようやく音楽の焦点がピタッと合致し、泣く子も黙るダイナミズムが爆発!金管の咆哮、ティンパニの容赦ない乱舞は、どんな批判も跳ね飛ばす確信的な大放射!当時のソ連のオケの専売特許たる超高速の爆裂ぶりはAltus盤を凌ぐほどで、この楽章だけは文句なしの大名演。この求心力の高さを第1楽章から発揮してくれていたら世紀の名演になっていたことは間違いないだけに、他の楽章の弱さ(と言っても凡庸な演奏の何倍も聴き応えあり)が残念でなりません。ただ、第1楽章の第2主題が独特の可憐なニュアンスを湛えていることや、カップリングの他の曲が全てが鉄壁の名演である事実は特筆すべきことです。【2024年7月・湧々堂】
第1楽章のツボ
ツボ1 ごく標準的なテンポで、凝った味付けも施さず淡々と進行。クラリネットの音色はかなり骨太。
ツボ2 テンポは標準的。クラリネットとファゴットが恐るべき均衡を保っているが、ニュアンスは淡白。
ツボ3 スコアどおり。
ツボ4 スコアどおり。
ツボ5 最初にクレッシェンドとデクレッシェンドを施さず、119小節から微妙な強弱変化を与えることで可憐な表情を作り上げている。
ツボ6 フォルティッシモは強調せず、テンポの変動も抑制気味。
ツボ7 少しテンポを上げるが、音量は控えめにして、151小節までの雰囲気の余韻を引き継ぐ。
ツボ8 スコアどおりなのは良いとしても、レニングラード・フィルならではの求心力の高さが感じられないのが不思議。
ツボ9 イン・テンポで進行。荘重な拍節感が心に迫る。
第2楽章のツボ
ツボ10 冒頭の低弦は過度な思い入れを排してサラリと進行。ホルン・ソロの技術はもちろん完璧だが、巨大なホールを意識してか豊かに響きすぎる。
ツボ11 やや不発。感情の頂点と音量の頂点が微妙にずれている。
ツボ12 テンポは不変。クラリネットの技術は完璧だが、やや技巧が鼻につく。
ツボ13 繊細に一音一音を吟味し、余韻を感じながら進行。
ツボ14 作品への共感力のバロメーターであるこの箇所は流石に見事!一部の隙もなく最高潮点まで大きな呼吸を維持。
ツボ15 見事としか言いようがない美しいアンサンブルだが、今ひとつ胸に迫るものが弱いのは録音のせいか?
第3楽章のツボ
ツボ16 完全にイン・テンポのまましなやかに滑り込む。冒頭でテンポを落とす必要性を全く感じさせない自然なフレージング!ファゴットは超完璧!
ツボ17 細かい音型に少しでももたつきがあると音楽が途端に淀んでしまう箇所だが、その心配は皆無。
ツボ18 ニュアンスが聞き取れない。録音のヒスノイズと会場の大きさのため。
第4楽章のツボ
ツボ19 テンポ自体は中庸だが音に芯が宿り、強烈な弓圧を用いなくても独特の威厳を引き出している。
ツボ20 ホルンは裏方に徹しているわけではないが、Altus盤と比べて抑制気味に聞こえる。
ツボ21 ティンパニはトレモロの途中から弱音で弦の刻みが快速で開始するムラヴィンスキー方式
ツボ22 アクセントなし。
ツボ23 殊更に強調はしないが、力感は十分。
ツボ24 わずかにリテヌートした後にすぐに主部冒頭のテンポへ切り替える。
ツボ25 強打ではないが克明な一撃。
ツボ26 そのままイン・テンポ。
ツボ27 主部冒頭のほぼ同じテンポ。トランペットの響きは明るめ。技術は完璧。
ツボ28 8分音符の音価は、やや長め。最後に一撃は置かない。
ツボ29 447-448小節の弦のエッジがからり鋭く激しい。微温的に進行しがちな中でこの決然とした響きは曲想にマッチしており、一つの基準となるスタイだと思う。
ツボ30 弦もトランペットも、ロシア風のレガートに徹している。
ツボ31 改変なし。499小節で音量を落とすが、ムラヴィンスキー程のコントラストは与えずにほんの一瞬だけ。
ツボ32 腹の底からの咆哮!
ツボ33 インテンポが基調。最後の4つの和音の打ち込みでわずかにテンポを落とす程度。ティンパニの効力絶大!


このページのトップへ


このサイト内の湧々堂オリジナル・コメントは、営利・非営利の目的の有無に関わらず、
これを複写・複製・転載・改変・引用等、一切の二次使用を固く禁じます
万一、これと類似するものを他でお見かけになりましたら、メール
でお知らせ頂ければ幸いです




Copyright (C)2004 WAKUWAKUDO All Rights Reserved.