King International
KKC-2013(2CD)
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サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」#
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番
ヘンデル:ハープシコード組曲第7番ト短調HWV.432〜パッサカリア
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲*
夜想曲*〜「雲」/「祭」*
デュカス:魔法使いの弟子*
ラヴェル:道化師の朝の歌*/ボレロ* |
エリック・ハイドシェック(P)、
アンドレ・イゾアール(Org)
ピエール・デルヴォー(指)NHK響
録音:1978年11月8日、11月15日#、1978年11月17日* 全てNHKホール/ステレオ* |
N響の過去の演奏の中でCD化して欲しいものはたくさんありますが、中でも個人的に最も熱望していたのがこのデルヴォーの演奏会でした。改めてCDで聴くとあの日の感動が偶然のものではなかったことが確認できるだけでなく、デルヴォーにしか成し得ないふんわり漂うようなハーモニーの感覚とリズムの洒脱さ、日本のオケとは思えぬ音色に驚きを禁じえず、感動もひとしおです。
まずはDisc2。「牧神の午後の前奏曲」は、出だしの音からびっくり!なんと柔らかく頬に擦り寄る音色でしょう。フルートに続のくホルンの合いの手は、ヴィブラートの掛かり具合といい色香といい、フランスのオケと錯覚するほど。0:43のハープの入り方は、直前の全休止との間合いの良さも含め、砂に水が染みこむように優しく浸透。その瞬間に全身がとろけそうです。第1主題の変奏部分(3:19〜)の各パートの音は、小さな花火のように可憐に飛び散り、第2主題はシルキーで伸びやか。中間部主題はメロディアスな美しさだけでなく、弦の背後でピコピコうごめく木管の音型を浮揚させて愛の営みを彷彿とさせるのです。信じ難い名演です。
デュカスは、終止チャーミングでパステルカラーの音彩の魅力に溢れています。曲の進行と共に後半は深くなり、音の重心は軽く維持したまま緊張感を確実に高めていく手腕は流石。コーダ直前の脱力感と透明な音色も魅力。最後のトゥッティがまた洒脱の極み!
「道化師の朝の歌」もテンポの伸縮といい色変の放ち方といい、簡単に真似できる代物ではありません!リズムを決して深く打ち込み過ぎないことで人懐っこい雰囲気が湧き立ち、音楽の流動性もグンとアップ。ファゴット・ソロが始まると空気は一変!テンポを落として弦が密やかな空気を醸し、スーッと音が浸透。その浸透力がまた心に染み入るのです。
「ボレロ」は18分以上要するスローテンポ。高圧的な威厳とは異なり、ここでも終始小粋。段階的な音の積み上げが説明調にならず、気がつくと華やかな大団円に達しています。小太鼓をかなり全面に出しているのも特徴的。
Disc1のモーツァルトも絶品。ハイドシェックは例によって独自のアゴーギクと強弱対比を駆使して自身の美学を貫徹。デルヴォーもそれに完全に付き従っています。特に終楽章の陰影の濃さは比類なし。通常に比べてかなり強い打鍵にも確信が満ちており、深みのある弱音との対比によって、恐ろしく意味深い音楽に変貌しています。
しかしなんといっても目玉はサン・サーンス。TV放映で見た時の感動が鮮やかに蘇ると同時に、30年以上も前の記憶がいかに曖昧で、当時は大切なニュアンスを聴き漏らしていたかを思い知らされました。
第1楽章冒頭は、柔らかなテクスチュアで詩的な雰囲気満点。主部はゆっったりとしたテンポでハーモニーのニュアンスを確認するように着実に進行。楽想が変わるたびに律儀にテンポを落とすのには、一時代前のロマンティックな音楽作りの名残を感じさせます。音の全てが愛くるしい表情を浮かべて語りかけ、今まで聴いてきた演奏が立体的な構築を最優先したものばかりだったことに気付かされます。音楽は小じんまりするどころか自然なスケール感を確保し、聴き手を包み込む懐の深さによって大きな宇宙を形成しているのです。アダージョに入ると涙を禁じ得ない美しさ!スコアからこれ以上音楽的要素を炙り出しようがないというほど、美の全てがここに凝縮されていると言っても過言ではありません。
そして第2楽章後半はデルヴォーの色彩センスの大放出!テンポはスローで悠然と進行しますが、スヴェトラーノフのように下から突き上げるようなスケール感とは好対照で、浮揚する音の波動を捉え、空気感で勝負するようなこんな奥義、ちょっと他では聴けません。名手イゾアールのオルガンはかなり盛大で、金管も容赦なく全面に突出させていますが、それは決して部分的な演出ではなく、そのバランスでなければイメージする全体像を表出できない信念に満ちているので、説得力も絶大。
コーダの大きなテンポの落とし方も感動的。徹頭徹尾、この作品がフランス音楽であること痛感させる素晴らしき演奏です。
N響の適応力の高さにも改めて感服。フランス風イディオムをなぞるだけでなく、NHKホールの絵が浮かばないほど、フランスの音なのです。それを短い練習期間のうちにやってのけたのがデルヴォー。この2枚組は音の良さも手伝って、そのデルヴォーの魅力の全てを捉えきった初めての録音と言わずにいられません。【湧々堂】 |
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WEITBLICK
SSS-0132-2
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サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」*
ルーセンベリ:「街のオルフェウス」組曲 |
エフゲニ・スヴェトラーノフ(指)
スウェーデンRSO
ヴァンサン・ワルニエ(Org)*
録音:1998年9月3日グスタフ・ヴァーサ教会ライヴ*
1983年1月14日ベルワルドホール・ライヴ
※英語、日本語、ドイツ語によるライナーノート付。 |
スヴェトラーノフの「オルガン」といえば、レスピーギのローマ三部作とと並ぶ必聴作品!1982年のソビエト国立響との録音でも、この曲のイメージを根底からひっくり返す壮麗な演奏で魅了しましたが、この演奏では更にニュアンスの深みと繊細さも加味され、オケの響きに癖がない分、より一層スヴェトラーノフの音楽性の奥深さが際立った恐るべき名演となっています。全楽章を通じて低速で重心の低い造型で一貫していますが、それによって浮揚する新鮮な表情の多さに最後まで釘付けとなること必至です!
第1楽章第1部は、音楽の構築は大きく維持しながら、あくまでも内省味を湛えたニュアンスが終始心を捉え続けますが、じりじりと内燃のパワーを表面化させ、遂に後半のテーマ再現(8:42〜)ではティンパニの最強打を皮切りに圧倒的なスケールの音像にまで達します。82年盤では終楽章コーダの盛り上がりだけが話題となった感がありましたが、第1楽章第2部の絶世の美しさは、スヴェトラーノフがただ馬力優先の指揮者ではないことをはっきり認識させただけでなく、その歌のセンス、音楽的ビジョンの揺らぎの無さがビリビリと胸に迫る感動的な瞬間でした。この録音ではその至純を極めた響きの温かさ、呼吸のスパンの長さ、豊かさは更に深化を遂げ、このまま時が止まって欲しいと願わずにいられません。
第2楽章第2部、ピアノ・ソロが加わるシーン(0:40〜)は、まさに低速モードが最大の効果を発揮した瞬間で、宝石箱をゆっくりを開くようなキラキラした色彩、ワクワク感が他のどの演奏に望めましょうか。その後の音楽はもう言語を絶するド迫力絵巻の連続!そしていよいよ訪れるコーダの超大団円!!ティンパニの革も破裂覚悟の大強打を経て、最後の和音引き伸ばしは延々15秒!!ホールの残響が豊かなのでその効果も絶大です。
カプリングのルーセンベリの「街のオルフェウス」も聴きもの。土俗的は迫力に満ちた第1曲やR=コルサコフを思わせる第5曲などは、スヴェトラーノフの色彩感覚と粘着質なリズムの魅力が大全開。【湧々堂】 |
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AC Classics
AC-99065
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サン・サーンス:交響曲第3番「オルガン付」、
ヴァイオリン協奏曲第3番 |
リコ・サッカーニ(指)
アイスランドSO、
ベレント・コルフカー(Vn)
録音:2000年 |
“サン・サーンス特有の感覚美を越えた破格の音楽性!” |
「オルガン付き」の録音は、まず音の良さを売り物にし、感覚的な美しさ、迫力といった音響面に比重を置いた演奏が圧倒的に多く、デジタル時代に入ってその傾向はますます強くなったようですが、このサッカーニの指揮は、表面的な効果を狙うよりもよりも、まず純粋な曲への共感を感じさせ、生き生きとした人間ドラマとして再現しきっている点で忘れることができません。
第1楽章序奏の弱音が実に温かな情感を湛えて、ホールトーンとも美しく溶け合っているところから、単に美しいだけでなく静かな祈りを感じさせます。第2主題も優しい風情。次第に音楽を高揚させると共に音を心から熱し、内面から抉り出すような逞しい造型をあらわにしていく様には、サッカーニの牽牛な構築力を思い知らされます。第2部アダージョの美しさも、オケ全体が完全にサッカーニと共感を一つにして歌い抜いていることがひしひしと感じられる分、胸に迫り来るものが尋常ではなく、呼吸の息の長さ、フレージングの振幅の繊細さ、オルガンの絶妙な距離感と共に、敬虔なニュアンスが深々と流れます。
第2楽章冒頭のリズムも実にフレッシュ。1:18からの弦もフレーズを末端まで引き伸ばした上にクレッシェンドさせていますが、少しも強引さはなく、オケに「歌わせている」のではなく、ただひたすら共に歌い尽くす姿勢が垣間見られる瞬間です。第2部はサッカーニのダイナミズムが炸裂。、ティンパニが芯を湛えた見事な響き放射すると共にトゥッティ全体とのブレンドが実に立派な迫力を生み、内容も充溢!主題を受け継いでいく木管のセンスも印象的。後半のテンポの切り返しの鮮やかさにも舌を巻きますが、熱い精神的な高揚と音楽のヴォルテージの高まりが完全に一体となったコーダの壮麗さは、いつ聴いても鳥肌が立ちます!この曲において、これほど音楽的な感銘を与えてくれる演奏は、スヴェトラーノフなどごくわずかではないでしょうか?
一方の協奏曲も強力にオススメ!コルフカーはサハール・ブロン門下で、来日経験もあるオランダの俊英。第1楽章冒頭主題は思い切り情感をこめながら泥臭くならずに、音の安定感も抜群。ずり上げる音をこれ見よがしに顕示しないところにも趣味の良さを感じさせます。2:31の美しく伸びる高音のなんという切なさ!直後の第2主題の郷愁の込め方がまた鮮烈で、音色は一切ブレずに心で泣いている独特のトーンが涙を誘います。コーダの輝かしい技巧の冴え渡りも強烈!
第2楽章ではコルフカーの歌のセンスに釘付け!6分の8拍子のリズムの揺れを心から感じ、清潔なレーガーとが流れ、美しいメロディーラインが一層瑞々しく息づきます。クラリネットとユニゾンの結尾音型の幻想性と完璧なフォルムにも息をのみます。最後の一音が消え入るまでどうぞお聴き漏らしなく!辺りの空気を牽引するような牽引力に満ちた終楽章は感動の極み!A主題とB主題の経過句で、身も心も焦がしつつ、毅然としたフォルに中でを徹底的に歌いつくした演奏を聴いたことがありません。C主題の音色の美しさの破格ですが、その美しさはあくまでも結果であり、その奥から滲む可憐な風情で聴き手を虜にするのです。この演奏で、初めてこの曲がこんなに内容豊かな作品であったのかと気付く方も多いことでしょう。
ここでもサッカーニの指揮はニュアンス横溢。第2楽章の随所でピリッとスパイスを効かせるセンス、終楽章冒頭でこんなに真剣に切り込んだ演奏も他に例を見ません。【湧々堂】 |
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DORIAN
DOR-90200
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サン・サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」、
ヨンゲン:オルガンと管弦楽のための交響的コンチェルタンテ |
エドゥアルド・マータ(指)
ダラスSO、
ジャン・ギュー(Org)
録音:1994年 |
“マータ独自のダイナミズムと天才的閃き!” |
このサン・サーンスを聴くと、彼が生前に読響を振った「エロカイ」を思い出します。あれほどスパッと竹を割ったようなエロイカは後にも先にも聴いたことがなく、単なる感覚的な痛快さだけでなく、そこから漂う何か不思議なきらめきが脳裏を焼きついているのですが、その特徴的な音楽作りをここでも再現してくれています。第1部の最初の弦の滑り出しのヴィブラートから心に訴えますが、主部に入ると、脇目も振らず一直線。細部をほじくり回すことなど一切なく、ただ前を見て進むだけですが、リズムは常にシャキッと立ち、アダージョに入っても耽溺せず、一途な共感のみを込めぬきます。
2部に入ると、そのリズムの切れがいっそう物を言い、さわやかな推進力を見せ付けます。解釈そのものの斬新さはありませんが、この単なる気持ちよさだけではない閃きが光る瞬間を是非捉えてみてください。一方、ヨンゲンも聴きもの!ヨンゲンの代表作の一つですが、このサン・サーンスの第2部冒頭を思わせる雰囲気で始る瞬間から、ギューの壮麗なオルガンと共に華やかさ一杯!作品そのものがサン・サーンス以上の内容を量を誇っているので、マータの表現力も、サン・サーンスだけでは気付かない多彩さがあり、フレージングの伸びやテンポの俊敏な切り替えなどに天才的なセンスを感じさせます。終楽章冒頭のキラキラ眩しい音のシャワーは一度聴いたら忘れられません。【湧々堂】 |
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