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第3回
ダニエル・ミュラー・ショット Vol.1
(チェリスト)
プロフィール |
1976年ミュンヘン生まれ。チェロをハインリッヒ・シフ、スティーヴン・イッサーリス等に師事。1976年、15才の時、「第1回・若い音楽家のためのチャイコフスキー・コンクール(モスクワ大会)」で優勝して一躍注目を集め、同年、アンネ・ゾフィー・ムターと共演。以後世界各地で好評を博しました。プレヴィン・ムター夫妻ともたびたび共演。2003年に来日し、佐渡裕(指)京都市響とドヴォルザークの協奏曲を披露しています。愛用のチェロは、ヴェネツィアのフランチェスコ・ゴフリッラー製作による名器。本人のホームページもあります。 |
ミュラー・ショットの魅力 |
なんといっても、その比類なき音色の美しさと、音のアタックのまろやかさ!言うまでもなく音が美しいだけでは、その時に気持ち良くても心の留まってくれないのが常ですが、彼の美音は、常に感じたままの歌心と、頭で考えた印象を残さない自然なフォルムが渾然一体となり、美しさだけを武器にしようとするそぶりも全くないだけに、その意味深さが尋常ではありません!フレーズの結尾での力の抜き加減と、そこからまた新たなフレーズを弾き始める際に、たとえ間に長い休符であっても、余韻を残しながら次のフレーズにスムースに繋げるセンスも、全ての曲において磐石なのです。さんざん弾き尽くされた名曲に衝撃をもたらすのに、一番手っ取り早い方法は、今まで誰もやっていない細工を施すことですが、もちろん彼の音楽には、奇を衒った箇所などありません。自己の音楽スタイルと完璧なテクニックを堅持しながら、それらが優位に立つことがないのです。以下のCDのラインアップ(2005年3月現在の全CD)は、どれも曲のスタイルも時代も異なります。にもかかわらず、一貫した個性を各作品の「様式」というフィルターに必ず一旦通して美しく再生される演奏の美しさには、本当の衝撃と感動に繋がるということを思い知らされます。 |
ミュラー・ショットのディスク |
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ラフ:チェロ協奏曲第1番ニ短調 Op.193、第2番ト長調(遺作)、小曲集「出会い」
Op.86-1、
チェロとピアノの二重奏曲イ長調 Op.59 |
ダニエル・ミュラー・ショット(Vc)、
ハンス・シュタットルマイアー(指)バンベルクSO |
2003年〜2004年 デジタル録音 |
TUDOR
TUDOR-7121 |
“これはハマる!素朴さと甘さが入り混じる不思議なメロディの応酬!” |
殿堂入り |
これは、ドイツ・ロマン派あたりの音楽がお好きな方は驚喜することうけあい!TUDORレーベルが執念を燃やし続けているラフの録音シリーズですが、このチェロ協奏曲を聴くと、今までリリースされたCDを聴き返したくなること間違いなし!なんという旋律の美しさ、とことん分かりやすい展開、そうしたくなる気持ちが痛いほどわかる楽器配分等、気の置けない友達みたいな親近感で音楽が擦り寄ってくるのです。第1番の冒頭、ティンパニがボンボコボンボンと固定動機のように囁くと、いきなりチェロが甘美な主題をおもむろに弾き始めますが、この名旋律(?)は、鼓膜に染み付いて離れません!その旋律をオケがそっくり受け継ぐというお約束のパターンを経て、しっとりとした第2主題をチェロが奏でますが、これまたなかなかノスタルジック。展開部では、第1主題が憂いを加えてカデンツァで登場。いつの間にかアタッカでなだれ込む第2楽章は、ブルッフのVn協奏曲1番の2楽章風。ここでも例の主題が、この楽章に相応しい衣装をまとってチョロチョロ顔を出します。終楽章は元気なファンファーレで開始される颯爽とした音楽。全てを振り切った清々しさが、ミュラー・ショットの鮮やかなテクニックによって更に引き立っています。この2年後の作曲されながら、ラフ存命中は演奏されず、死後100年以上経った1997年にやっと日の目を見た第2協奏曲も耳が嬉しがる佳作。エルガーの「愛の挨拶」風の旋律がいきなりチェロのソロで飛び出すのを皮切りに、ト長調という調性が平明な展開が続きます。第1楽章6:02からの主題は、もうお伽の世界!ほかの小品の、独特の洒落た感覚が横溢。このCDをこれほど聴き栄えのするものにしているのは、シフやイッサーリスの門下でチャイコフスキー・コンクールの覇者、ミュラー・ショットの功績が大きいことは明らか。万全の技巧を誇示することなく、作品のありようをそのまま自然に引き出す力量は、ただ事ではありません。第2協奏曲の終楽章で急速なパッセージが続く箇所の力みのなさ、ヴァイオリンを弾くような軽妙な弓さばき、終楽章カデンツァの豊かな表情も見事。 |
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ハチャトゥリャン:チェロ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲* |
ダニエル・ミュラー・ショット(Vc)、アラベラ・シュタインバッハー(Vn)*、
サカリ・オラモ(指)バーミンガム市SO |
2003年8月、2003年4月*
デジタル録音 |
ORFEO
ORFEO-623041 |
“ハチャトリャンのアイデアと高度な要求を完全遂行!” |
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ハチャトリャンの協奏曲も、ヴァイオリン協奏曲以外は演奏される機会が少ないですが、ピアノ協奏曲もこのチェロ協奏曲も、単に民族色に寄り掛かっているだけでなく、独自の構成感と発想に満ちた素晴らしい作品だと思います。ミュラー・ショットは、そういった全ての要素を惜しげもなく再現し、またここでも「こんな素敵な曲はないよ!」と言いたげな熱い共感で訴え掛けてきます。第1楽章の第1主題は着地点が見えないほど息の長いフレーズが続きますが、その呼吸の持久力の磐石なこと!4:17からの第2主題の暗い影を落とす鉛色のトーンも、甘美な美音が売りの彼の意外な一面。この箇所の苦悩に満ちたニュアンスには胸を締め付けられます。第2楽章もフレーズの大きな弧が入念に描かれ、皮相なニュアンスなどどこにもありません。終楽章のテーマのさり気なく付加されている装飾音は、もっとアクセントを利かせ、民族色を煽ることも可能でしょうが、あえてそこをサラッと切り抜け、無窮動的な推進性を絶やさないのは、天才的閃きのなせる技でしょう。最後の約2分間は、電光石火の超急速パッセージの連続ですが、フォルムの美しさを失わず、内面から激情が沸き立たせているのには、ミュラー・ショットの並外れた才能を痛感せずにいられません。この曲の演奏の新たな基準とも言うべき名演奏です。カップリングのヴァイイオリン協奏曲を弾くシュタインバッハーも、ミュラーショットと同じくミュンヘン出身。くぶん細めながら、逆にその細さから絞り出すようなセンチメンタリズムが魅力的。しかも、第1楽章のカデンツァに象徴されるように、全く表情に媚びたところがないのが、確かな手ごたえに繋がっています。終楽章は、野性味満点の豪快さと異なり、チャーミングな表情に溢れ、特に聴きもの! |
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シューマン:アダージョとアレグロ、「リーダークライス」〜“月の夜”、ヴァイオリン・ソナタ第1番(チェロ用編曲)、3つのロマンス、民謡風の5つの小品、幻想小曲集
Op.73、「小さな子供と大きな子供のための12の連弾曲集」〜“夕べの歌” |
ダニエル・ミュラー・ショット(Vc)、ロベルト・クーレク(P) |
2003年5月 デジタル録音 |
ORFEO
ORFEO-617041 |
“歌心と美音が常に一体!シューマンのチェロ作品集” |
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シューマンのチェロのための室内楽作品を完全網羅!「アダージョとアレグロ」は、ホルン版のD・ブレインの名演奏をチェロにそのまま置き換えたような、信じ難い美しさ!深い祈りの世界に最初の一音から誘い、しっとりとした余韻を残しながら優しくピアノへ受け渡す絶妙な間合い、脱力のタイミングなど、全てが完璧!歌曲からの編曲の“月の歌”は、チェロの存在さえ忘れさせ、クリーミーな名バリトンの美声を彷彿とさせる語り口が泣けます。「3つのロマンス」第2曲の澄み切った音色と純朴な歌心にも心打たれない人がいるでしょうか?「民謡風小品」の第1曲でフレーズの結尾に物凄い求心力を持つアクセントを配していますが、一切フォルムを崩さずにサッと冒頭の濃密な語りに戻る鮮やかさ!これでチェロ協奏曲の録音が実現したら、さぞや素晴らしい名演になりに違いありません!クーレクのピアノは、チェロを背後から優しく包み込んでいて、この程よい距離感が、チェロの息づかいを一層引き立てています。 |
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ハイドンチェロ協奏曲第1番、第2番、ベートーヴェン(ミュラー・ショット編)ロマンス第1番、第2番 |
ダニエル・ミュラー-ショット(Vc)、リチャード・トネッティ(指)オーストラリア室内管 |
2001年10月 デジタル録音 |
ORFEO
ORFEO-080031 |
“もぎたての果実!ハイドンの音楽の深みと楽しさを再認識させる名演奏!” |
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瑞々しい情感が溢れるハイドン。第1番の最初のチェロの入りの力みすぎないしなやかなフレージングから心を捉え、決して浮き足立つことなく、ハイドンに相応しい軽妙な弓さばきが見事!第1楽章展開部の音域の幅広さをもてあますことなく、隅々まで独自の美音を浸透させているのも流石。カデンツァではその美音に1分でも長く浸っていたい衝動を抑えられません。第2楽章も陶酔的な美しさ!冒頭の弱音の持続音の安定感は、もうそれだけで彼の技術と音楽センスの高さは明白です。気品のあるヴィィブラートと共に、極端に少ない音符を全く弛緩することフレージングへつなげる力量と歌心も逸品です。高速の終楽章でも人間味たっぷりの語り掛けと甘美な美音を忘れません。第2番は特に終楽章のスウィング感にご注目!といっても決して独りよがりなノリではなく、聴き手と共に音楽を感じながら歌う包容力を感じさせます。楽器と格闘せずに、心から楽器を愛していることがひしひしと伝わる素晴らしい演奏です。ドヴォルザークと違って、最近はハイドンの協奏曲を好んで聴く人は少ないようですが、こんな魅力満点の演奏なら、毎日でも聴きたくなるのではないでしょうか?第1番のカデンツァはイッサーリス&ミュラー・ショット作、第2番はハインリッヒ・シフ&ミュラー・ショット作。彼自身が編曲した2つの「ロマンス」も、第1番の中間部に象徴されるように、古典的な雰囲気を念頭に置いて、確信を持って奏で切っているのが分かります。オケの編成は20数名ですが、チェロとの量感バランスが節妙なのに加え、音楽性満点です! |
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ドビュッシー:チェロ・ソナタ、プーランク:チェロ・ソナタ、フランク:ヴァイオリン・ソナタ(チェロ用編曲)、
ラヴェル:ハバネラ形式の小品 |
ダニエル・ミュラー・ショット(Vc)、ロベルト・クーレク(P) |
2001年9月 デジタル録音 |
EMI
CDZ-5752012 |
“何年も弾き込んだ様な完熟の感性と求心力!!” |
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フランスの代表的なチェロ作品を集めていますが、これはフランス人以上にフランス的なニュアンスを出し切った名演揃いと言わざるを得ません!名コンビ、クレークのピアノと共に、温かな共感を込めぬき、決して枠にはまった表現や、フランス的な感覚美に頼り切ることもなく、素直に自己主張を繰り広げているだけなのですが、最終的に「様式の美しさ」にまで到達するというセンスにも、つくづく感心してしまいます。ドビュッシーの第1楽章のピアニッシモの二重音の繊細さと安定感、終楽章冒頭のフレージングの息の長さと強引さのないしなやかな牽引力にも身を委ねるしかありません。プーランクは、もっと頻繁に演奏されるべきとつくづく思わせる味わい!花の都を彷彿とさせる第1楽章は、クーレクの闊達な打鍵と共に、これ以上望めない可憐な華やぎ。その雰囲気に任せてノリ過ぎると、フランス的な香気が吹っ飛んでしまいかねませんが、ミュラー・ショットは、決して作品よりも自分を優位に置くことがないので、曲本来の楽しさがしっかり伝わります。第2楽章の官能的な幻想世界は、それこそ持ち前の美音があって初めて現出可能なものでしょう。第3楽章も、これを聴いて心浮き立たない人がいるでしょうか?フランクの終楽章の強固な構成力を生かしながら、息もつかせぬ緊迫のアンサンブル。ラヴェルは、肉感的な妖しい空気感は、優等生アーチストにはどう転んでも表現不可能でしょう。メロメロの官能が生々しすぎますが、それでも気品は携えているのです。 |
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バッハ:無伴奏チェロ組曲 BWV1007-1012 |
ダニエル・ミュラー=ショット(Vc) |
録音:2000年8月
バイエルン・ビナビブルク・巡礼教会 |
GLISSANDO
779-024-2
(2CD)
¥2520★ |
ミュラー=ショットのブレイク前の録音。特別価格が設定されています。 |
CD-R
LSU -1105 |
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲、交響曲第2番 |
ダニエル・ミュラー・ショット(Vc)、ユリア・フィッシャー(Vn)、
ユロフスキ(指)ベルリン放送響 |
2003年7月26日ライヴ |
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※これはCD-R盤です。一部の機種にCD-Rに対応していないものがありますのでご注意下さい。 |
CD-R
2S-050 |
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番、ベルク:ヴァイオリン協奏曲* |
ダニエル・ミュラー・ショット(Vc)、ヴィクトリア・ムローヴァ(Vn)
ミヒャエル・ギーレン(指)南西ドイツRSO |
1998年、1994年* ライヴ |
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※これはCD-R盤です。一部の機種にCD-Rに対応していないものがありますのでご注意下さい。 |
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