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クラシック/評伝・エッセー 【ワ】
私のレコード談話室・演奏スタイル昔と今
柴田南雄:著 朝日新聞社 税別\1,200
“知的分析と純粋な音楽への愛が入り混じる、独特の論調”
柴田氏が聴いたレコードの中から、演奏スタイルの演奏を考える上で重要と思われるものを選び、独自の知的な理論でその変遷について考察を行ったもの。選ばれているアイテムは、この本が書かれた1976〜1977年頃に発売されたレコードを中心に選ばれていますが、ワインガルトナー、クーセヴィツキー、シャルク等9人の指揮者によるベートーヴェンの交響曲全集や、若き日のチェリビダッケの録音、ホーレンシュタインのブルックナーの第7交響曲、ホルストの「惑星」の自作自演、コルトーのショパンなど、多種多様。これらの演奏を通じて、それぞれの演奏がどういった意義を持つものであるか、独自の理論が展開されるのですが、論旨の展開方法は、作曲家ならではのクールな視点によるものであると同時に、戦前から戦後にかけて活動してきた人(柴田氏は1916年生まれ)に顕著な、何事もカテゴライズしなければ気がすまない独特の断定調の言い回しで一貫しているのが特徴的です。例えば、この本のタイトルでも分かるとおり、全章を通じて、「ロマン主義」-「表現主義」-「新古典主義」-「新即物主義」といった演奏スタイルの変遷の中で、その演奏がどのスタイルに属するのかということに最後までこだわり、読者に分かりやすく、その演奏の立ち位置を解説しようという意図がしっかり現われていますが、このような括りで演奏を捉えるのは、特に戦後、様々なスタイルの演奏がレコードで聴けるようになったいわば爛熟の中にあって、必然的な現象だったと思います。しかし21世紀に入って、そのような多様なスタイルが存在しない今となっては、そういう分類化は、特殊な時代においてしか意味をなさないもの、もしくは、学問的な分類という以上の意味はなくなってしまったのではないでしょうか?そもそも「○○主義」というカテゴリーは後付けの概念で、各アーチストは「私は○○主義者です」というビジョンを掲げて演奏していたのではないはずです。もちろん過度にテンポを揺らすことに異を唱えて、楽譜への忠誠を誓った人はいますが、「主義」の殻に自分を閉じ込めたのではなく、まず演奏は、そのアーチスト独自の人格や感性によて形成されるもので、結果的ににそれがどの主義に属するか、勝手に学者が決めただけとしか思えないのですが…。
さて、そのように部類化した上で、演奏自体の評価という点でも、時代性と柴田氏らしい切り口が反映されています。クーセヴィツキーのベートーヴェンの「運命」は、1934年という年代を考えると、第1次大戦前のテンポの動かし方などが明らかに時代遅れである、と結論付けて終わりです。それが音楽的に説得力を持つかどうかについては触れていません。柴田氏の趣味に合わない演奏であることは間違いないですが、そのことは表立って言わず、基本姿勢として、その音が音楽としてどのように心に響いたかといった感情作用については踏み込まないというのが、この時代の人たちの暗黙の了解だったような気がしてなりません。『おしゃべり音楽会』の中でもポロッと漏らしていますが、柴田氏は、音楽をイメージで捉えることをしない(苦手?)と言っていました。あくまでも音楽を構造的に捉えるということですが、そうした徹底した作曲家的なスタンスが、この本全体に一貫しています。このように音楽を理論で捉え、出てきた音の「現象の説明」に徹するやり方は、ある意味で最近の学者的評論家にも通じるのかもしれません。それでは、この本が単に知的分析で終わっているかというと、そうでもないのです、柴田氏の他の本でも言えることですが、その知的抑制が一瞬緩んで、本音が飛び出すことが結構多いのです。だいたい知的な演奏に「共感」(「感動」とは決して言わない)することが多いようですが、「魅力的なコルトーの演奏には抗し難いものがあり…」(202頁)などの言葉には、心底その演奏に感動したことを十分に感じさせ、柴田氏の人間臭さも感じてしまいまい、つい他の本の読みたくなってしまうのです。そんな柴田氏の理論展開と、テーマになっている演奏の変遷について簡単に知ることができる本として、これは恰好なものだと思います。




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